いつの頃か、大平近在に住む某と云う男が、親類の家で酒を呼ばれ、酔って吹雪の山道に差しかかると、道端の崖上に一匹の狐が、チョコンと座っていた。 某は「この辺りに性悪狐が住むと聞いているが、この狐の仕業にちがいない。ひとつ驚かしてやろう」と石を拾って投げると「ギャン」と鳴いて逃げて行った。 「あんな狐に化かされる奴は、よほど間抜けだ」と言いながら一人り笑いながら歩いて行くと、道をどこでまちがえたのか、川の端に出た。 遠くに橋は見えるが、川は浅そうなので橋まで廻るのは面倒と考え、着物の裾をはし折り、浅瀬にざぶざぶと入ると、思った通りひざ迄しか水はなかったから、渡って行くと、流れが急に強くなり、川底が滑るので、一歩一歩足に力を入れて進んで行った。 すると初めは、それ程広いと思わなかった川面が、急にずるずると広がるので不思議に思った。流れに足をとられないように歩いていると、「お前さん、そこで何をしている」と声を掛けられて「はっと」気が付き、あたりを見廻すと、今まで川面と見えたのは風にそよぐ稲田で、ひざ迄の水は稲の葉で、河底が滑るも道理、泥田の中を着物の裾を端折り歩いていたのである。 酒の勢いで狐に石を投げて驚せた事から、狐に敵討をされたのだと苦笑したと云う。 ある日、息子達が高隆寺の山に薪を取りに行くと云うので、八十才を超えた某も山を見に行こうと、息子達に遅れて家を出た。山仕事をするのでもないから途中で、あちらを見たり、こちらに休んだりしながらも、十二時過頃、ようやく山の登口までに来た。それから山道を登り峠に着くと遠くの山に息子達の木を切る姿が見えたから、傍らの石に腰を下ろし一休みして、又歩き出し小峯を越せば息子達が居るのだと思い足元に気を付けながら歩いたが、どこをどう歩いたのか、先き程腰を下ろして休んだ所に来て居た。これはどうした事かと、今度は息子達の姿を目当てに山道を進んだが、いくら歩いても目の前に見える山へは着けず、ふと気が付けば、やはり元の休んだ所であった。こうして歩いたり休んだりして居たが、遂に目前にある山へ行く事が出来なく、あきらめて帰る事にした。 家では息子達が帰っていて、
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