小豆坂のつと蛇

[前へ]  [目次へ]  [周辺地図へ]  [次へ] 


 

 小豆坂の西谷は、大小数個の池と沼田が散在して、六、七月頃ともなると夏草が生茂り、沼田を作る者でもなければ近づかない所である。この辺りに蛇塚とも云う古い塚もあり、昔からつと蛇が棲むと云われて来た。 この谷の沼田を作っていた人から聞いた話で、今も信じていると云う。
 その沼田は古く池であったのか、底無しの田で田を作る足場として、松の大木が井げたに埋められ、田植えも刈り入れもその足場を伝って行う。一歩踏み外すと腰まで埋まり助けがなければ沈んでしまうと言う気味悪い田であるが、稲の出来が飛び抜けて良いので毎年苗を植えていた。
 ある年の六月の事、親子二人で田起しに行き、中休にあぜに腰を下ろし一服つけていた時、若者が小用に傍らの草むらに入ると、畦草を刈る時に見られなかった何かが、生い茂る草を、なびき倒して通った跡が池の端から山裾に向かって付いているのを見た。
 若者は驚いて父親を呼び、その跡を見せて「さき程、この辺りでがさがさとする音を聞いたが何が通ったのだろう」と言うと、父親も「そう云えば、田を起している時、何か通る気配がしたので振り返ってみたが何も見えなかった。その時に何かが通ったのだろう、草のなびき方から見ると、つと蛇が兎を追った跡だろうと思う、よほど太い蛇でないとこんな跡はできない」と話し合った。 

画像
かっての沼田は
前方辺りと思われる

この事があってから後この沼田に行く事が恐ろしく、いつも大鎌を用心に持って行ったが、ほどどなく沼田を作るのを止めた。後にこの地域に散在した多くの沼田や水田は大規模な土地造成工事で山は削られ谷は埋められて、今は、昔の面影は無く、傍らを「つと蛇」が兎を追い通った沼田は、学校のグランドになっている辺りであるようだ。
 

[前へ]  [目次へ]  [周辺地図へ]  [次へ] 

HP「大平町周辺の昔ばなし」
愛知県岡崎市東部口碑伝説覚書より
(c) Syouichi Masaki,1998 2000,JAPAN
http://homepage1.nifty.com/UP/oohira/
E-mail KHA00532@nifty.ne.jp