コレクター・ユイ 二次創作小説
MEMORIAL GLOW
メモリアル・グロウ
chapter. 8
「アイちゃ〜ん!会いたかった、元気だった?お母さんも元気?コムネットに
来てだいじょうぶなの?でも来てくれて嬉しい〜ありがとう、アイちゃん!」
…いつものことながら、ユイのテンションの高さには、付いていけないものが
ある。一呼吸おいて、アイは抱きついてくるユイをはがした。相変わらずね、
何もかも。でも、この子のこういうところ、嫌いじゃない…
「…現実世界の私の体は、母がモニタリングしているから、だいじょうぶよ。
って…なに、その顔……」
「なんで、なんでアイちゃん、コレクターの秘密をお母さんにしゃべっちゃっ
たのー!!わたしなんか、パパやママに秘密にするのに、すんごくすごーく苦
労してるのに!」
だから、バグルス事件そのものに、ママは巻き込まれていたんだってば。
はぁ…この子の周囲にいつもついているコレクターズに、同情するわ。
「とにかく、彼、シンクロのことは、イニシャライズでは解決しないわ。
イニシャライズ後の後遺症が原因だから… でも、本人の言う通り、このまま
ではコレクターズは本来の能力を発揮できない。彼ら自身だけでなく、
コムネットにアクセスしている多くの人々に影響が出るのは、事実よ」
そんな…こんなに広いコムネットの中に、シンクロを治せる人は誰もいない
の?覚悟を決め、うずくまる姿が痛々しい。そんなの絶対ダメ…!誰か、誰か
いないの、フィーナ君が歌声でわたしを励ましてくれたように…
突然、光が… 光に、包み込まれていく…… これって、いったい?!
「あ、あれ?コムコンが、正常に… 症状が治まってきたみたいだ?」
「本当、シンクロ!よかった〜本当によかったわ… でも、いったい誰が?」
『正気の沙汰とは思えませんがね』
「横ツンツン!どうして、あなたが?」
コムコンに、ウィルスの無表情な顔が映った。ユイのつけた不愉快なあだ名
に、若干、眉をしかめてはいたが。
『グロッサーの仕業ですよ。コムネット全体を統括するホストコンピュータと
もあろうものが、一ソフトウェアの異常をケアするなど、常識では考えられな
い行動です。結局、今の行動のせいで、コレクターズの電力ネット復旧作業に
も、大幅な支障が生じるでしょう。どうかしています』
元・仲間とは思えない言葉の冷たさなんか、気にもならなかった。自分が、
自由に動ける…その喜びは、言葉にできない。シンクロは無言で感動していた。
「ほらね、グロッサーだってちゃんとわかってるんだから。一番ひどい目に遭
わせちゃったのが、誰かってことがね。〈心〉があるって、スゴイことでしょ?」
「ユイちゃーん、だいじょうぶ?今さっき、コレクターズのみなさんが少し
調子悪くなったんだけど…持ち直したみたい。サブネットのバグルスは完全に
消滅したわ、こっちはどう?」
「…本体が残っているわ。あと、それをサポートするザコどもが、いくつか」
合流した連中は、コレクターアイの存在に驚きざわめいたが、すぐに気づい
た。やるべきことは、決まっている。
「ハルナ、アイちゃん、〈トリプル・イニシャライズ〉で一気に決めるわよ!
コレクターズのみんなは…」
「安心しろ、後ろはまかせ…ケホッケホッ」
「気にしないで、集中して!残り10分しかないわ」
コレクターズ8人が後方に回り、三人のコレクターが舞い上がる。最後の敵
を、倒すために。
「コレクター……!」
大切な人たちを守るため ハルナの〈天使のワンド〉が、桃色の光を
「コレクター……!」
父の想いが遺した世界のため アイの〈愛のワンド〉が、空色の光を
「コレクター……!」
決して諦めない コムネットが大好きだから…ユイの〈妖精のワンド〉が、
星の光を
「トリプル・イニシャラーイズ!!!」
貯蔵ネットの奥深くに隠れていたバグルスが、苦しみもがきながら姿を表わ
した。「もっと力を、もっと祈りを…」最期のあがきとばかりに体を分裂させ、
逃げようとする。もちろん、コレクターズがそれを許すわけがない。
三つの星の輝きが、大蛇と化したバグルスを取り囲み…遂に、消滅させた!
「バグルス反応が消えました!ユイちゃん、電力貯蔵ネットから退避しましょ
う。電線の復旧も、もうすぐ終わりますから」
「やったー!これでメモリアル・グロウが終わるまでに電気を貯めて、みんな
をちゃんと、ヴァーチャル・アウトさせることができるのね!よかった〜」
少しの疲れなど、気にならないほど…やり遂げたという達成感に満ちて、
電力の回復を待った。しかし…復旧の兆しは、無い。なぜ…?!
「博士、電気が全然流れてきません!どうしてなんですかっ」
「…電力貯蔵ネットの内壁に、破損が見つかった!そのために、現実世界から
電力を流すことができんのだ。いま、作業員を派遣し、復旧に当たらせている」
確かに、さっきまで電線の修理をしていた例のマッチ棒くんたちが、蟻のよ
うに群れをなして、ネット内に入って行っている。イニシャライズできれば、
一瞬なのに…コレクターの力は、プログラムの異状を直すためのもの。プログ
ラムの破損そのものは、こうして修理しないければいけない。あと、10分
しかないのに…!
「10分という時間は、ギリギリだ。現実世界から一気に電力を流すわけには
いかない、それこそコムネットが〈洪水状態〉になってしまう。どうしても
いったん、どこかに貯める必要があるのだが…」
「それなら、バッチリだいじょうぶ!いい貯蔵場所を知ってますから!!」
「ユイくん、まさか…」
「わたしに…〈コレクター・ユイ〉に、貯めてください!」
メモリアル・グロウのメイン会場では、発光体〈メモリアル・カプセル〉の
不思議で温かな光につつまれ、参加者はさまざまな想いを抱いていた。
いま共にいる人への気持ち、先に旅立っていった者たちへの思慕、無限に果て
なく広がる、未来への希望…
「…こうしていると、いろんなことを思い出すなぁ。君と出会って、結婚して、
結が生まれて…その結が、あんなに大きくなったんだもんなぁ。結〜パパは
一緒に、この大事な時間を過ごしたかったよ〜いったい今、どこにいるんだ〜」
周囲のブースから、シーッ!という注意の声が、春日伸一パパに集中した。
「あなたったら…結はああ見えて、しっかりしてますもの。でも、もしかした
ら、ステキな彼氏と一緒かもしれないわね」
ええーっ!!という叫び声と、再度の注意の声が同時にあがり、なにがなん
だか。うちの旦那様は少年が大きくなったままね、と春日さくらママは微笑む。
「そんなーっ!うちの可愛い結に、悪い虫がつくなど、許せーん!」
「でもあなた、私たち結を精一杯、可愛く魅力的な女の子に育ててきたじゃな
い。それなのに、誰もその魅力に気づかなくても、いいの?」
「それは…俺の結は世界一、いや、宇宙一素晴らしい女の子だー!だが、しか
し…やっぱり、どこの馬の骨にもやらーん!結と踊っていいのは俺だけだー!
結が生まれたあの日、あの小さな可愛い手が、俺の指をつかんだあの日のこと
を、俺は、俺は……」
今から覚悟しておかなきゃいけないのに、娘を持つ父親の心情というものは…
「…それにしても、ちょっと蒸し暑くない?あなたが騒いでるせいかと思って
たけど…」
「結ー!!パパは、パパは……ううっ」
「現実世界から流した電気、わたしに貯めてください。だって、バグルス事件
の時わたし、コレクターズ8人とハルナとアイちゃんの、えっと、合計10人
分のメモリを貯めたんですよ!なんたって15倍なんですから、ドンと来い!
ですよっ」
「16倍でしょ。目減りしてどうするのよ」
アイの冷徹なツッコミ以前に、博士の怒鳴り声が聞こえてくる。
「イカン、危険すぎる!電力とメモリとは同じものではない、大量の電気を体
に通すなど…いくらハイパー化しているとはいえ、耐えられるかどうか予測も
立たない!ユイくん、考え直すんだ!」
「…博士、こいつの無茶は今に始まったことじゃないでしょう。聞きっこあり
ませんよ。もちろん、ユイだけに危険なマネをさせるつもりは、ありません」
「シンクロ…」
「ボクたち8人そろってるんだもの!博士、ボクたちを…ユイを信じてよ!」
「限界に挑み続ける、それがリーダーの使命…コホッコホッ」
「足りないところは補い合っていけばいいんだから、ね、博士!」
ソフトは間違いを起こさない。間違いを起こしたソフトはデリートされる。
黒川や、ワシの若い頃は…昔は、そういう存在だったソフトウェアが…
今こうして、意志を持ち、感情を持ち、行動を起こそうとしている!
「…ちょっと待って。メイン会場の空調に、異常が発生している。電力の低下
に伴って、調節がうまくいっていないようだわ。私は、そっちに向かう。
誰か、水の力を!」
「わかったコレクターアイ、ボクの力を使って!〈プリズム・インストール!〉」
エコのオレンジのコムコンから、メモリが放たれ、コレクターアイは
〈ウォーター・エレメントスーツ〉を、ダウンロードした。青いスパッツに
肩章の付いたボレロ、ウォーターリングという形は、基本的にはユイの場合と
違いは無い。一方ハルナは風、いや〈風邪〉のために、オロオロしていた。
「ダメよ、コントロル。あなたの方が、症状が重いんだから!」
「ふっ、ヒーローとしてはここで退くわけにはいかんな、〈プリズム・インス
トール!〉」
アンティの隙をついて、ハルナにメモリを送ってしまった。さすがは加速の
男。ハルナの〈ウィンド・エレメントスーツ〉は風になびく軽やかなデザイン
はユイ同様だが、緑ではなく白を基調としたカラーリングになるのが特徴的だ。
「二人とも、メイン会場の安全は頼んだぞ!だいじょうぶだ、リーダーとして
とうぜ…ケホッケホッ」
「一応、お礼は言っておくけどコントロル、この肩に回した手は、どうにか
ならないかしら?」
「離したら最後、また君はこの手をすり抜けて、鳥のように逃げちまうんだろ?
そう思うと、離したくはないね」
「それはどうかしら?私が逃げているから、追いかけてるだけじゃないの。
もし私が本気になったら、あなたの方こそ風と共に去りぬ、じゃないかしら?」
「そんなことは… って、おい、それって!OKってことか?そうなのか、
アンティ!!」
「は〜い、そこのお二人、いちゃつくのは無事解決してからにしてくださ〜い」
コントロルの点目と共に、コレクターズにドッと笑いが広がって、肩の力が
抜けて…
「みんな、もう一息がんばりましょ!博士、お願いします!!」
「いつも…君らに頼ってばかりだな、すまん…… こちらでも微調節するが、
大量の電力により、相当の負荷がかかるだろう、みんな、よろしく頼む!
〈コレクター・エレクトリカル・インストール、開始!!〉」
光の渦が、コレクターズを包み込んだ。メモリアル・グロウの参加者たちが、
無事にヴァーチャル・アウトできるだけの電力を確保すること…それが、今彼
らに課せられた使命。普段は相手(主にコンピュータ・ウィルス)を退治する
ためにメモリを放出するのが仕事だが、今回は逆に、自分の中にエネルギーを
蓄えるのが目的だ。それも、通常は電力をメモリに変換して、食事などの形で
吸収しているのに、加工もなにも無しの、強烈な電力を受け止めなければなら
ない。しばらくの間、全員が無言のまま、その衝撃に耐えていた。
(なんか、ビリビリする…嫌な感じじゃないけど、なんかじわじわと体が重く
なっていくような…ええいっ、不安がってちゃダメダメ!みんなのために、
コムネットのために… コレクターユイ、やるだけやってみせるわ!!)
(と、とにかく、この電力をメモリに変換し、バグルスの後遺症の治療にあて
なければ…通常の能力を、十分に発揮することすらできん……)
でも、それは思った以上に困難な作業だった。少しでも油断すると、強い電
力は正常なプログラムにまで変化を与えてしまう。高い制御能力を与えられて
いるコントロルにしても、歯を食いしばり、集中しなければ越えられない、壁。
アンティはもう、逃げようとはしていない。答えがどっちだろうと、かまわ
ない。今は一緒に、この大仕事を乗り切るだけ…!
「み、みどもはインストーラーとして、他のコレクターよりも多くのメモリを
蓄える力がありますから、し、心配は、いらないでありまするよ〜
おや、レスキュー殿、どうしました、レスキュー殿!!」
「それが…、またバグルスに感染してしまったらしいの…あんなに感染対策を
していたのに、どうして二度も… わたしって、不幸かも……」
そこがバグルスの恐ろしいところだ。バグルスに感染しても、免疫はつかな
い。バグルス自体が多くのコンピュータ・ウィルスの複合体であり、常に変化
し続けているためで…特に今回のように、攻撃性を増した〈偽バグルス〉の場
合は…医療担当者として、常に病人と接していたレスキューの職務からして、
やむをえないところなのだが……
「…ユイちゃん、ごめんなさい。わたし、もう…… フ、フリーズさん!」
「って、戦線離脱はちょっと早いんじゃないか?ほら、支えていてやるから、
もうひとがんばりしな!!おーいジャギー、風が足りないよー!」
「力仕事なら、まかしとけって!普段から、本を運んで鍛えてるからなー!」
たたみ二畳分はあろうかという、巨大うちわを振り回し〈ブンブンおじさん〉
面目躍如の活躍だ。フリーズのかすかな凍れる吐息も、電気を刺激しない程度
に、周囲を冷やしてくれる。かつてはグロッサー四天王としてコレクターズと
死闘を演じた彼らも、今では力強い味方だ。
「だんだん、お腹いっぱいになってきた感じ…博士、修理はまだですか?!」
「あと3分、耐えてくれ!修理は順調に進んでいる、もう少しの辛抱だ!」
だが、メモリアル・グロウの終了まだの時間も、あと3分しかない。参加者
が予定通りのプログラムに従って、一斉にヴァーチャル・アウトしたら…念の
ために、現実世界の医療機関にも緊急配備はしてあるが。かつての犬養博士自
身のように、コムネットをあてどなくさまよう〈行方不明者〉が続出してしま
うかもしれない。それも、ハンパな数ではなく…
「エコ、フォロー!他の連中の不調の分まで、ワシらがまかなう気で、受け
止めるのじゃ!」
「わ、わかってるよ、ピース。で、でも、もう限界だよ〜」
「弱音を吐くなって!ユイのためにがんばるって決めただろ、だから…」
電流に耐えてふと、目を上げると…ユイがいる。でも、彼女のピンク色の
スーツは、すっかりと金色の輝きを放って。測りきれないほどの電力が彼女に
注ぎ込み、太陽のように、光に満ちている…
「キレイだ、ユイ……」
エコが見とれるのも、無理はない。ファイナルスーツにも匹敵するほどの、
輝き。しかしそれは、危険の裏返しでもある。確かに彼女の受け止められる
メモリは、気力によって大きく変化する。でも、それにしたって、メイン会場
全員の人々を支える電力を、一身に受けるのは…
静かな、とても静かな笑顔だけを浮かべて、両手を広げ、十字の形となり、
すべてを担おうとしている。理屈とか理論とかじゃない。なんだかとてもやみ
くもな、無茶苦茶だけど前向きな、いつも、何かを変える力の持ち主。
(ユイ…だいじょうぶなのか?!計測上の限界は超えているはずだ、プログラ
ムに異常をきたしたら、コムネット上はもちろん、現実世界のユイの体にも影
響が出てしまう…いや、もう出ているかもしれない。俺は…今、何ができる?
そうやって闘っているおまえに、何ができる?)
『もう一度… 一緒に、コレクターの仕事をしてくれる?…シンクロ』
(ああそうさ、どんな姿であろうと、関係ないさ…〈コレクター・ユイ〉
あの頃からずっと、わかっていたはずだ。俺は……俺の、望むことは…!!)
「あと30秒だ、ユイくん!応答してくれ、ユイくん!」
限界を超えて…意識までもが、支配されてしまったのか?!
〈ミスト・シャワー!!〉
アイのウォーターリングから、細かい霧が放出された。すかさず、ハルナが
〈スパイラル・ウィンド!!〉
旋回する緩やかな風を起こし、メイン会場を包み込む。ここは会場の天井
近く。二人のコレクターの動きに気づく者は、誰もいない。場内の人々は、
涼しく爽やかな風に、ホッと一息ついていた。
『まもなく、メモリアル・グロウの終了の時刻がやってまいります。多くの方
にとって、あっという間の、一時間だったのではないでしょうか。あと、
20秒です……』
「…心配なの?」
ハルナの横顔に、いつものように小さく、感情を抑えてつぶやいた。
「い、いいえ…ユイちゃんは、私よりずっとずっと強い人ですもの、だから…」
ふっ、と呆れたようなため息で、はるか地上の、あまたの人々を見下ろし
ながら。
「気づいていたわ、そんなこと。いつの頃からか……」
歓声があがったのは、終了のカウントダウンが始まったからではなくて…
細かい霧とそれを運ぶ風が、発光体〈メモリアル・カプセル〉の最後の輝きを、
無限にきらめかせたから…会場全体が、淡い光のつぶで満たされていく様子は、
後々まで語り継がれることとなる。
『もう、まもなくです!3・2・1・ゼロ!!夢の時間から、目覚める時がやっ
てまいりました。しかし、この輝きが私たちの胸に残る限り、夢のつづきが…
コムネットの新たな時代が、続いていくのであります!』
アナウンサーの声とともに、会場の照明は灯るはずだった。でも、発光体の
消滅と共に、場内は暗闇に包まれ…
「ユイくん、電力貯蔵ネットの修復は完了した!電力を流してくれ、ユイくん、
聞こえているのか!!」
「ユイの意識が電力に支配されている!みんな、力を合わせてユイを呼び戻す
んだ!」
おおっ!と呼応したコレクターズのコムコンが、それぞれの光を放つ…
ユイのために 未来のために 希望をもって…!
「ユイ!電力をネットに流し込むんだ!!」
右手のワンドと、左手のコムコンを掲げ、彼女は目覚める。その身に受けた、
すべての力を、ここに…!!
〈コレクター・エレクトリカル・ダウンロード!!〉
電力貯蔵ネットに注ぎ込まれる電力に、マッチ棒くんたちもおおっと、歓声
をあげた。すべてが、完了していく… 温かな光が、光ある喜びが、満ち足り
た幸福感と共に、コムネットに戻ってきた…!
「おかしいわ〈バグ〉が生じている…メモリアル・グロウの参加者に、いいえ、
コムネット全体に、予定されていない〈ある意識〉が伝染しているわ…!!」
「ええっ、どういうことです、アイさん?!」
コムネットに朝焼けが広がる。偽りの朝が。本物以上に美しく彩られた景色。
メモリアル ・ グロウのメイン会場は、コムネットの未来を象徴する公園とし
て保存されていく予定になっている。その中央に、コレクターズはそろってい
た。すべての参加者が、安全にヴァーチャル・アウトした、その場所に。
「よかった…イベントが無事終了したのも、すべて我々コレクターズの活躍の
おかげだな。ところでアンティ、さっきの話なんだが…」
「あら、なんのことかしら…?私、さっきは微熱があったから、よく覚えて
いなくて……」
ええーっ!と狼狽するのは本人ばかり、周囲の反応は、いたってノンキだ。
「さすがはアンティさん、見事な悪女っぷりですねぇ〜」
「うーん、レスキューとはまた違ったトラップを感じるよ」
「…ところで、さっきバグが発生したと聞いたが…いったい、何だったんだ?」
ぐるり見回してみても、怪訝な顔をしているのは、シンクロだけだった。
「あーあ、全然気が付いてないよ。あんなに大声で叫んでたのに」
「知らぬは本人ばかりなり、か」
ええっ?とたじろぐシンクロの前に、ユイが立ち止まってこう言ったから…
「…全然知らなかったわ、シンクロに『好きな人』がいるなんて。メモリアル・
グロウが終わる直前に、急に頭の中に入ってきたの。うーん、言葉では言い
表しにくいんだけど、すっごくすっごく大切な人がいるんだ、って意識が!
あれって、シンクロが出してた声だったんだ…」
(えーっ、そんなことした覚えはないぞーっ!!)
チャットルームでは、犬養博士が予想外の出来事に、頭を抱えていた。
「…やれやれ、バグルスの後遺症が完全に治ってなかったのだな。シンクロの
シンクロナイズ能力がこんな形で発揮されてしまうとは…しかも、コレクター
ズだけでなく、コムネットにアクセスしていたすべての人々に伝達された…」
「そんな悩まなくってもいいですよ、博士!だって『好き』って気持ちが伝わる
のは、良いことじゃないですか。伝染するのって、悪いものばっかりじゃない
でしょ。誰かを好き、誰かが好きって気持ちが伝わるのも、ステキじゃないで
すか!でも、結局シンクロが誰のこと好きなのかは、全然分からなかったけど」
(よ、よかった…そこは、伝わらなかったのか……)
安心するのは、まだ早い。ユイの追求の目が、迫ってきていたから。
「メモリアル・グロウに参加した人たちを幸せな気分にさせてあげたのはいい
けど…結局、誰から発信したのか、誰に向けての気持ちなのか、全然はっきり
していないのよ!このままじゃ〈宛先差出人共不明の迷子のメール〉状態よ。
それに…なんだか、すごく切ない気持ちが、こもってた。この気持ちは叶わな
いんだ、仕方がないんだ…って、そんなあきらめに似た、想いが」
クマが言ってた〈真実〉って奴と、直接対決する時が来たのか。
「俺は、自分の気持ちを打ち明けるつもりは、無い」
「どうして?!相手の人だって、同じ気持ちかもしれないのに…シンクロが
言ってくれるのを、待ってるのかもしれないのに……」
今言ったばかりの言葉を翻す気になった理由は、自分でもわからない。
でも、決心した。気持ちを、言葉にする勇気を
「ユイ…聞いてくれ。俺は、この命のある限り…」
少し違うな、ソフトウェアだから。引け目では無く、正確に言いたいんだ。
「…コムネットに存在し続ける限り、ユイ…おまえを守ることを、誓う」
「へっ?なんかそれって、前にも聞いたような気がするわよ…だいたい、
さっきの気持ちと、どう関係があるのよ?!」
「前とは違う誓いなんだ!それに…コレクターとしての使命をまっとうする
ことが、俺そのものなんだから」
よくわかんないけど…ユイは首をかしげながら、手を差し出した。その手を
…握り締める。世界でたった一つの真実を、守り続けるために。これからも
「だったら、わたしにも約束させてよね。これからは絶対に〈消去〉とか
〈デリート〉とか、そんなこと言っちゃダメだからね!わたしも、あなたたち
コレクターズを守るんだから。これ、約束のしるし!!」
手の平から、あたたかい力が… メモリを、分けてきているのか!
「さっきのお返し!だって体じゅう電気だらけなんだもの、すこしおすそ分け
しなきゃ。ね、おやつくらいにはなるでしょ?」
まったく…まったく、おまえには参るぜ だから、俺は……
「…おーい、話は済んだぞ。そろそろ出て来たら、どうだ?」
「あれぇ?どうして、みんな隠れてたの?」
いやぁなんか、出にくい雰囲気だったから〜と、苦笑する一同。
「ねぇねぇユイちゃん、ボクにもおやつちょうだいよ〜〜」
「フォローさん、意地汚いですわよ」
「そうだぞフォロー、コレクターの一員として、おやつを無心するなど…」
と、言ってるリーダー本人の腹の虫が鳴いた。けっこう、大きな声で。
「コントロルったら…それよりみんなで、ちゃんとご飯食べに行こうよ!結局
メモリ全〜部、出し切っちゃったんだもんね。もちろん、デザート付きで!
ささ、アイちゃんも腹ごしらえしてから帰ろうね!ハルナは…あ〜ん、バカシ
のところになんか帰したくないなぁ、一緒に行こうよぅ〜」
ユイ、それはワガママよ、とアンティが注意しているそばで、帰ろうとして
いるフリーズをレスキューが引き止めている。ジャギーはニヤニヤしながら、
見守るばかり。やっぱり帰ろうとしたピースを、フォローとエコが両脇から
ガッチリ捕まえてしまった…でも、爺さんだって、誘ってくれるのを待ってい
たんだから。ギャーギャー騒ぎ出したユイの周りを、IRがなだめたりすかし
たり怒ったりしながら飛び回ってる。…誰も、コントロルの誘導を聞いちゃ
いない。朝の光を浴びて。コムネットの、朱に染まった雲の向こうに、何が
待っているのか…誰も知らないまま
「あっ、そうだシンクロ、聞きたいことがあるのよ。あのね…」
ユイ おまえがいる限り
「シンクロの好きなヒトって、すっごくステキなヒトじゃない?
ね、そうでしょ!」
おまえを守り続ける 未来は
暁の輝きがまぶしすぎて、すぐには答えられないけれど
でも、まっすぐに
「あぁ、最高だよ」
永遠という場所は ここにある
(04/09/13掲載)
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