コレクター・ユイ 二次創作小説
MEMORIAL GLOW
メモリアル・グロウ
chapter. 5
コムネット全体が十周年のフェスタで盛り上がる中、コムネットの創設者で
あり総合管理責任者である犬養基継博士がメディアに登場する機会は、少なかっ
た。現実世界でも、コムネットニュースでも、わずかに…コメントを述べたに
過ぎなかった。その簡潔な言葉には、コムネットを育て上げてきた深い愛情が
こもっていたので、人々は博士の口数の少ないことを気にはしなかった。
いまやお祭りは、最高潮に達しようとしている。明かりを消し、原始の灯火
で昔を偲ぶというこの〈メモリアル・グロウ〉という地味なイベントを中止さ
せることは、もはや誰によっても、不可能だったのだ。
もちろん犬養博士も、コレクターたちも、〈偽バグルス〉の情報を追っては
いた。しかし…思うような収穫を得ぬまま、期日は迫ってきていた。
(ちなみに直前合宿をしようという某氏の提案は、すみやかに却下された)
ユイがチャットルームをたずねたのは、メモリアル・グロウが開催される
前日だった。円形の室内をぐるりと見渡し、ガッカリして小さく肩を落とした。
「いらっしゃい、ユイちゃん。お茶にしましょう。ユイちゃんは、ミルクを
入れますか?お砂糖はいかが?」
「…うん、どっちも入れてちょうだい。ありがとうレスキュー」
アンティは黙って、ストレートティーを飲んでいた。エコが飲んでいるのは、
オレンジジュースらしい。IRも同じものをストローですすっていた。
コムネット世界の食事は、データの一種。食事を摂取することは、メモリを
蓄える行為と同様だ。人間にとっては娯楽だが、ソフトにとっては、必ずしも
必要なことではない。たとえ…どれほど人間に似せて作られていても。
「いよいよ明日ですね、メモリアル・グロウ。ユイちゃんの学校の学園祭も、
明日なんですよね」
「そうなのよ〜もう大変なの、『春日はマンガ家志望なんだろう〜』なんて、
当てにされちゃって。いまどき、立て看板の絵をペンキで描いたりする?
冗談じゃないわよ、すっかりペンキ臭くなっちゃった」
「えへへ、どうりで、鼻の頭が汚れてると思ったよ」
からかうんじゃない!とエコとじゃれあいつつ、柔らかなミルク色の紅茶に
口をつけると、なんだか気持ちが落ち着いてくる。気持ちのいい、沈黙。
「でね、昼間に学園祭やって、夜はメモリアル・グロウに行くことになってる
の。後夜祭の代わりね。な〜んかもう、カップルとかペアとかどーでもよくなっ
ちゃった。クラスの男子同士、つるんで行くって言ってるし、ま、要するに
お祭りにすぎないんだからね。もう、気にしてないから…
(そうよね、レスキューやエコたちと一緒でもいいし、なんならコントロルに
エスコートしてもらっても…アンティの代わりっていうのがちょーっと気に
入らないけど、楽しく過ごせれば、それでいいのよねっ)
とにかく、何も起こらないように、みんなでがんばって警備しましょうね!
んじゃ、また明日〜」
来たと思ったら、もう帰っていった。ユイの落ち着きの無いのは、いつもの
ことだけれど、やっぱり探しているんだ、シンクロとの仲直りのきっかけを…
「やはり、なんとかしましょう。レスキュー、IR、お願いね」
はいっ、承知つかまつりました〜の声に、エコは返事をしないまま、走り
去って行った…
「…ここで、バグルスの反応があったの?特に、変なところはないけど…」
「レスキュー殿のレーダーが反応したのでありまするから、間違いないであり
まする〜 おやや?レスキュー殿がおられませぬねぇ〜 ちょっと、探してく
るでありまするから、ユイ殿、ここを絶対、絶〜対離れてはなりませぬぞ!」
とかいいつつ、IRはふらふらと、どこかに飛んでいってしまった。
(なによ、まったく…おやつ食べかけで来たのにぃ〜)
オレンジの夕陽が、世界を染めている。〈黄昏の波止場ネット〉は、静かな
雰囲気を保つためにアクセス者数を制限している、小規模なネットだった。
いまこうして、海を見下ろす手すりにもたれていても、周囲に人影はほとんど
無い。時折自転車が背後を駆け抜け、そして…大型客船が汽笛を鳴らしながら
ゆっくりと横切っていた。〈世界一周ネット〉の時に似てるけど、今は…一人。
(だいたいあの時、レイコたちカップルになってたのよね。う〜改めて思い出
すと、なんだかムカついてくるわね…ロマンチックな情景にケチをつけるわけ
じゃないけど、わたしだけロンリーなのが問題なのよ!)
IRはなかなか帰ってこない。だんだん、不安になってきた。今回のバグルス
って、仲間が離れた時に起こったんじゃなかったっけ…?もうっ、今日は
メモリアル・グロウがある日なのよ、もうすぐ始まっちゃうじゃない!いま
さらナイスガイのお誘いには期待してないけど、メイン会場の警備はどうする
のよ〜それこそ、コレクターの自覚がどうしたって、また怒られちゃう〜
早く、早く帰ってきてよー!!
「あ、IR…どこなのよー!返事して、IR、レスキュー!あっ、痛っ…
す、すみません、ちょっと急いでいて…あれっ?」
肩を抱きとめてくれた手が、まだ、そのままに。立ち尽くす人、どうして
そんなに困った顔をしているの、シンクロ?
「ユイ…おまえだけなのか?IRはどうした?」
「レスキューを探しに行っちゃった。そっちこそなによ、一人じゃない」
「俺は、アンティに呼ばれて…そこまで、一緒だったんだぜ」
肩の手が、そっけなく、はずされた。呼吸の音まで聞こえてきそう。でも、
何から話せばいいの?ごめんなさい、って、言えばいいの?群れ飛ぶカモメ
たちのおしゃべりが、聞こえてくる…あーあ、いつものおしゃべりはどうした
のよ、ユイちゃん?
「まだ、何も起こっていないようだな。ひとまずは、待機、か」
黄金の砂をまいたような波間を、また船がすべっていった。手すりに持たれ
て、海を見るしかない。隣にいるのは、シンクロ。コレクターズの一人。
ずっと前から知っていたのに、初めて会った人みたいにも感じる。海の方ばっ
かり見てるね、まだ怒ってるの?怒ってるように、見えるんだもん。眉間に
シワが寄ってるし、ヘの字口だし。にらむような目つきは、相変わらず?
なんとか言ってよ。わたしのこと…信じてない?それとも、信じてるから、
もっとしっかりしてほしいの?どっちなのか、教えてよ……
ワンちゃんの方が分かりやすかったかなぁ〜ヘコんでるときは、耳やシッポ
が下がっちゃうのよね。でも、目の表情がよく分からなかったしなぁ〜
ユイの視線に、やっとこちらを向いた。怒ってはいなかったけど、笑顔でも
ない。少し…元気の無い表情だった。こうなると、俄然張り切っちゃうユイ
ちゃんである。
「よ〜かったっ!!」
「な、なんだよ、いきなり…」
「シンクロが元に戻って、本当によかった!ね、ワンちゃ…って、いっけない、
また間違えそうになっちゃった。ごめんねっ」
ギョロリとした目が…一瞬こちらを泳いで、閉じられてしまった。なぜ?
「…どっちだって、おまえには関係のないことだ」
「えっ、ちょ、ちょっと、そんな言い方ないでしょ!シンクロが、あんなに
元に戻りたがってたから、だから、わたしだって、がんばってバグルス退治
して…。もしかして、わたしじゃなかったから?アイちゃんにイニシャライズ
して直してもらったから、だから…」
「別に、そんなことじゃない。ウォーウルフの方が、戦士としての性能が高た
かかっただろう。寒さにも強い、嗅覚も鋭い、筋力も増強してあった。だから
…どっちでもかまわないことだ。俺がこだわっていたのは、ただ…
いや、データの細部の問題に過ぎない。グロッサー四天王、コレクターズ、
ウォーウルフ、シンクロ…些細なプログラムの操作で、敵にも味方にもなる。
コンピュータ・ソフトだからな。おまえたち人間とは、違う。当然のことだ」
「やめてよ…そんな言い方!そんなの、まるでグロッサーみたい!自分はこう
だから、ああだからって、言い訳ばっかりして!」
「俺はグロッサーだ。そうだろう?」
ずっと探してたシンクロ。最後に見つかった、コレクターズソフト。
何を考えて、そんなに苦しそうに、わたしを見つめているの?
「グロッサーが反乱を起こしコムネットの支配を始めた時、犬養博士は対抗し
コレクト〈正す〉ソフトを作った。ホストコンピュータの八つの性能を分割し
て…制御・協調・未来予測・環境保全・保護・平和力・服従・インストール…
そして、グロッサーはコレクトされた。ユイ、おまえによって」
「みんながいてくれたからでしょ、どうしたのよ、もっといつもシンクロみた
いにしてよ!『ユイ、しっかりしろ』『コレクターの自覚を持て!』って。
もっと、わたしを…」
「もっと、おまえを…?」
そっか、ワンちゃんより、少し背が低くなったんだ、シンクロ…でも、
コントロルと同じくらいかな?そうやって、慣れていけばいいじゃない。
そうやって、一緒にやっていこうよ。それだけじゃ…そんなんじゃ、ダメなの?
「言ったでしょ、グロッサーも好きだって!グロッサーのために作られたコレ
クターズだって、四天王だって、わたしは大好き!ずっと、ずっと一緒にいた
い、ずっと友だちでいたい。シンクロは…そうは、思わないの?わたしと、
ずっと一緒にいるの…イヤなの?」
「俺は…… そうだな、そうかも…しれない」
「! どうして?!そんなの…理由を言ってくれなきゃ、納得できないわよ!」
「どうして…〈心〉を持っているんだ。コンピュータ・ソフトなのに」
「それは…それは、友だちになるためよ!楽しいことや、嬉しいことを分け合
うために決まってるじゃない!」
同時に、悲しいことや、苦しいことを分け合うために。今なら、黒川の言っ
たことがわかる。なぜ、ソフトに感情を持たせたんだ?答えろよ、篠崎博士。
なぜ、俺にこんな苦しみを与えたんだ?俺は…このままでは、俺は…
自分を制御できなくなる。ソフトなのに。プログラムを遂行するはずの、コン
ピュータソフトなのに!ホストコンピュータ・グロッサーを制御するはずの、
俺が… 一番大切な、一番守りたいことを…
「どうしたの、シンクロ?やっぱり、今日はちょっと、おかしいよ…」
おまえを、傷つけてしまう……
黄昏が、薄暮に移り行く時。永遠に続くはずの世界に…かげりが忍び寄る。
「シンクロさん、ユイちゃんに何て…話すつもりなんでしょう…」
「とりあえず、仲直りはするでしょう。その先は、本人次第ね」
チャットルームに帰る途中、ネット間を飛び続けていたのに、レスキューは
突然立ち止まった。仕方なくアンティは、諭しはじめた。楽しいはずはない。
でも、それを言うのが自分の役割だと…割り切っていたから。
「結論を先送りにしたとしても、解決にはならないわ。そうでしょ?」
二人の沈黙を破って、コムコンが光った。アンティは少〜し嫌な予感がした
が、果たして相手は、コントロルだった。
「アンティ、レスキュー、聞こえるか?〈魅惑のジュエリーネット〉で
バグルスの反応があった。至急、来てくれ!じゃあな!!」
「〈魅惑のジュエリーネット〉ですか〜やっぱり、バラの花束では効果が足り
ないって、ようやく気づいたみたいですね。さ、今度はアンティさんの番です
よ、さっきみたいに、それとな〜く席を外してあげますから、こころおきなく
貢がれてくださいね〜〜」
「…レスキュー、あなたって本っ当に…いい性格してるわね」
「はい、よく言われます!」
何の邪心もない(ように見える)満面の笑顔を、保護の天使は返した。
「うわぁ…さすがは世界各国の宝石を集めたネット、ところ狭しと宝石が展示
されてますね〜キレイ〜〜」
「もちろん、すべて模造品、レプリカだがな。本物は現実世界の各国が国宝と
して保管しているのだから。そうはいっても、精巧な細工だからな、結構な値
段がするんだぞ」
「〈偽バグルス〉を悪用した人が、ここの宝石も狙っているかも…というわけね」
コントロル、アンティ、レスキューは、展示室の中央で立ち止まった。宝石
の輝きを引き立たせるため、深い赤のベルベットが敷き詰められ、窓もほとん
ど無く、照明はもっぱら宝石たちに当てられていた。警備員たちも退避させた
館内は、宝石の放つ静寂で妖しげな光に、満たされている。とりあえず、コン
トロルがアンティを口説くために用意した舞台というわけでは、ないようで…
アンティはちょっとホッとしていた。コントロルのことが嫌いというわけでは
ないけれど、いちいち迫られるのは、正直わずらわしい。
「今はまだ何も起こっていないが、用心するに越したことはない。ユイはどう
した。連絡したんだろう?」
腕組みしてにらみつけてくるコントロルに、どう説明したものか…結局、
レスキューがおどおどと口を開いた。
「あの…ユイちゃんを呼ぶのは、もう少し待ってもらえません?ほら、この前
シンクロさんと大ゲンカしたでしょ、仲直りするチャンスなんです。だから…
事件が起こったら、ちゃんと連絡しますから」
ふむ、とコントロルはうなづきつつ、いつになく厳しい目でアンティを見つめた。
「それで、ユイたちを連れて行った。アンティ、君はどうしてそのネットを選
んだんだ?」
「どうしてって…別に、深い意味はないわ。ただ、静かでこじんまりしたネッ
トだから… まさかコントロル、それって!」
「自分の能力を過小評価するのはよくないな。未来予測のアンティが選んだ
ことが、単なる偶然なのか?」
「ユイちゃんと連絡がとれません!シンクロさんともです!」
すぐにアンティが…美しい顔が青ざめたまま、犬養博士に連絡した。博士は
チャットルームではなく、コムネット管理のメインルームに居た。事情を聞い
た博士が、さっそく管理コンピュータ〈グロッサー〉を用いて、〈黄昏の波止
場ネット〉にアクセスした、が…
「いかん、つながらん。というより、そのネットの存在自体が否定されている」
「まさか…ひょっとして、デリートしてしまったんですか?!」
「いや、そこまではいっていない。ネットが丸ごと消去されるようなことがあ
れば、必ず信号が入る。だが…連絡がつながらないのはマズイな。おそらく…」
「ユイたちは、そのネット内部でのトラブルに巻き込まれているのだろう。
きっと、バグルスの…」
「そういえば、IRさんがいませんもの。わたしたちと一緒に、二人を残して
こっそり抜け出す予定だったのに…」
「だからといって、ユイたちの手助けするほどの余裕は、なさそうだぞ!」
それは前回同様、一瞬だった。赤いじゅうたんではなく、炎の渦が突如立ち
上り、コレクターに迫ってきていた。幸い、三人ははぐれることはなかったし、
レスキューの水の力で、かろうじて周囲の火は食い止めていたが…
「博士!このままでは長くは持ちません!」
「わかった、また、君の力を借りることになってしまった。すまないが、よろ
しく頼む!」
「はい、わかりました。〈コレクター・エンター!!〉」
コレクターズの前に光と共に現れた少女。長い髪、優しく、理知的な顔立ち
…そう、彼女は……
「ハルナ、また君の力が必要になった。一緒に、立ち向かってくれるか?!」
「はい、コントロルさん。ユイちゃんも今頃、きっとがんばっています。私も、
精一杯やらせていただきます。〈エレメントスーツ・ミラクル・ダウンロード!!〉」
明るい天の光に包まれ、天使の羽が蘇る。光の輪をいただき、軽やかなスー
ツをひるがえしたとき、春菜は〈コレクターハルナ〉に変身した。グロッサー
に利用され、ユイを敵に回し苛烈な攻撃を加えたあの闘いの後、コレクターを
辞めていたハルナ。彼女を再び危険な任務に駆り立てたのは、ほかならぬユイ
を救いたい、その一心だった。
「〈コレクター・ハルナ、ユイちゃんの分も、決めます!〉レスキューさん!」
「はい、〈プリズム・インストール!〉」
レスキューの手首の水色のコムコンから飛び出した光は、ハルナに受け止め
られ、そして渦となってハルナを巻き込む。水の流れが、手首のガードとなり、
ブーツとなり、キャミソール、そして肩章つきのボレロとなる。スパッツ型な
のが、他のスーツと大きく違う特徴だが、他にもワンドではなく、リング状の
アイテムからの攻撃となる。腰にたなびくスカーフが、印象的だ。
〈ウォーターエレメントスーツ・ダウンロード・完了!ヘビィ・ウォーター!!〉
ウォーターリングから放出された水流は、見る間に立ち上る炎たちを鎮めて
いった。特に彼女は、火勢の強弱を見極めて効果的に放水するのだから、その
攻撃には文句のつけようがない。犬養博士が最初にコレクターとして選んだの
が彼女だというのは、まったく納得のいく選択だ。
「ハルナちゃん、火元はあそこよ!」
「はいっ、〈コレクター・イニシャラーイズ!〉」
ノーマルスーツに戻ったハルナによって、室内の火はあとかたもなく消えた。
「…さすがだ、ハルナ。ユイもいつもこの調子でやってくれると、我々も苦労
しないんだが…」
「ごめんなさいね、ハルナちゃん。もうすぐメモリアル・グロウの時間でしょ、
彼とデート中だったんじゃないの?」
だいじょうぶですから、とにっこり微笑むハルナ。たとえ今はコレクターの
秘密を明かすことができなくても、そのことにくじけるような彼女では、ない
ようだ。
「…本当は、少し前まで悩んでいたんですけど…ユイちゃんとお話していたら、
すごく救われたんです。自分らしくいればいいんだって、って。ユイちゃんは、
いつもそんな風に…私を助けてくれるんです」
「ユイがいたんじゃ、私の〈恋占いネット」も商売上がったりだわ」
「だいじょうぶですよ、アンティさん。ユイちゃん本人はあの調子ですから〜」
軽口の合間に、ハルナはコムコンに呼びかけていた。が、その表情が緊張に
変わる。同じ言葉を、何度も…
「…おじ様、犬養のおじ様!おかしいわ、通信できない。どうして…?」
「…通信は、できない… このネットは…、外部から遮断されたんだ……」
コントロルが、途切れ途切れにつぶやいた。息が荒く、顔色も上気して、
フラついている、ような…?
「どういうことですか?きゃあ、いや〜ん、助けてください〜」
「レスキューさん!」
いきなり、赤いじゅうたんが襲い掛かり、レスキューをグルグル巻きにして
しまった。なんとかもがこうとするその周りに、鋭い宝石たちが突き刺さる。
幸いケガはないようだが、ますます動けなくなってしまった。
「レスキューさん、いま、助けますから…きゃっ、あ、アンティさん…」
なぜ、アンティがハルナを背後から羽交い絞めに?ま、まるで別人みたいに
強い力で、縛りつけてくる…そういえば、彼女も呼吸が苦しそう。体を締めつ
けてくる腕も、異様に熱い。これは……!
「わたしの時と同じです!コントロルさんもアンティさんも、二人ともバグル
スに感染しちゃったんです!そのために、風邪みたいな症状がでて…早く
バグルスをイニシャライズしないと…」
「そ、そうよ…外部との通信が遮断されたのは、コントロルが制御能力を使っ
て情報をコントロールしたから… そして私も、未来予測の能力を使って、
ハルナの動きを封じ込めている……」
そんな!二人のコレクターに、同時に力を使われてしまっては…いったいど
うしたら… 混乱するハルナの前に、見事にカットされた巨大ダイヤモンドが、
浮かんでいる。あれがもし、突き刺さったら…
「やめてください、コントロルさん!いけません!!」
その宝石が、弾丸のように飛びながらもハルナの頬をかすめるだけで済んだ
のは、ただただ、コントロルの精神力のおかげだった。しかし…それも限界に
近づいている。体温が上昇し、身体機能がマヒしていくのに、持ち前のコント
ロール能力だけ衰えることなく、いやそれこそが暴走し、このネットと、そし
て仲間たちを…攻撃しようとしている!。
「…ハルナの自由が利くようならな、すぐにデリートを依頼するところだが…」
ふらつきながら、しゃがみこんだコントロルの右手には、見事な装飾のつい
た短剣が握られていた。鞘にびっしりと宝石のちりばめられたこの剣は、ただ
の飾り物ではなく…鋭利な刃も備えていた。
「…みんな、悪いな、先にいかせてもらうぞ。先陣を切るのが…リーダーの
務めだからな」
「なに言ってるんですコントロルさん!わたしたちソフトは、自分自身を
デリートすることはできないんですよ!」
「…だが、機能を停止状態に近づけることは…できるはずだ…。コムコンさえ、
破壊すればな…。俺の制御能力が解けたら…アンティをイニシャライズして…」
鋭い切っ先を、胸のコムコンに……
「待ってください、きっと、すぐにユイちゃんが来てくれます!それまで…」
「みんなの命がかかっているんだ、時間の猶予は無い!ふっ、どうかいつまで
も覚えていてくれ、ヒーローには自己犠牲がつきものだということを…」
「…そんな、コントロル… あなた…本当に、それでいいの?」
アンティの問いに、しばしの沈黙があった。永遠のような、静けさだった。
「いいわけないだろーが!俺たちには心がある、感情がある、意思がある。
ヒーローとしての道半ばで、夢を諦めるなんて、平気でいられるかー!
だいたい、まだちゃんとアンティとデートしてないんだぞー!」
こんなときにもそんなこと言うの?と、呆れながら、つぶやくアンティ。
「…心があるから、感情があるから、仲間がいるから…だからプログラムに
反したことだと、わかっていても…こうしないわけには、いかない…
君たちが、無事なら、それで… それが…俺の願いだ、最後の……」
「コントロル!あぁ、もうどうして動かないの私の腕!ハルナにイニシャライ
ズしてもらえば、済むことなのに… だいたいコントロル、あなたリーダーな
んでしょ、いったいこれからどうしたらいいのよ、無責任じゃない!」
もう、言葉はなかった。彼の剣は、その胸元を貫こうとしていたから。
瞳閉じ、何を思うの?最後に浮かぶ光景は、いったい……
バリン、と砕け散る音が響いた。
(04/08/16 掲載)
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