コレクター・ユイ 二次創作小説
MEMORIAL GLOW
メモリアル・グロウ
chapter.4
「バ、バグルスですって〜〜?!」
チャットルームに呼ばれたユイの反応は、予想通りのものだった。
あんぐりと口を開けたまま…でも、しばし黙りこんだ後、一転、笑顔で。
「…な〜んちゃって、ドッキリ驚いた?…冗談でしょ、ね?」
残念ながら、爆笑でドッとお笑い、とはならず、部屋じゅうには嫌な感じの
沈黙が満ちていた。
(だってだって、どうしていまさら、バグルスなのよ!バグルスっていうのは、
ええと…いろんなコンピュータウィルスが複雑に絡み合ってて、ワクチンが作
れなくて、イニシャライズするしかなくて、でも共通する成分ってのがあって、
それは……)
「ねぇ、そのバグルスって、まさか…あのメールソフトのiちゃんから、また
感染しちゃったっていうの?」
一連のバグルス事件の原因…それは、幼い少女型メールソフト〈iちゃん〉
にあった。コムネット創設に尽力した篠崎晋太郎博士が、自分の娘・愛のため
に作ったiちゃんは、篠崎氏を憎む黒川良の手によって拉致され、ウィルスに
満ちた部屋で監禁された。その結果、コムネット内をおびえ逃げ惑いながら
〈バグルス〉を撒き散らす存在になってしまったのだが…
「それはないでありまする〜メールソフト・iちゃんは、コレクターアイ殿に
イニシャライズされ、正常に戻ったのでありまするから〜」
「iちゃんは現在、篠崎家で保護されている。コレクターアイ、こと篠崎愛に
連絡をとったが、異常なく、静かに休息していると確認された」
コントロルの言葉に、ユイはホッと胸をなでおろした。
「ねぇコントロル、アイちゃんの様子、どうだった?体の方、治ってきたのか
な?」
安心しろ、とコントロルは笑顔で説明した。
「自宅に戻った後は、コムネット病の兆候が出たから、コンピュータおよび
コムネットへのアクセスを自主制限していたが…単に疲れが出ただけらしい。
母親を元に戻すために、半年間ずっと張り詰めていたんだからな。そうそう、
ユイによろしくと、言っていたぞ」
「お母さんと一緒に暮らすようになって、気が緩んじゃったのかもね。ちょっ
と、アイちゃんらしくないけど…でも、かえってよかったんじゃないかな!」
初めて会ったころは、ずっと冷たく、見下すような表情だった…たとえ天地
がひっくりかえっても、この子とは仲良しにはなれないだろうと諦めていたん
だけど。不思議だよね、今はコレクターとして同じコムコンを持っているし、
心のどこかでつながっているような気がする。コムネットで会えないのは寂し
いけど、本当に仲良しに、友達になれたんだもん。わたしも、コレクターズも、
みんな…アイちゃんのお父さんの、遺言通りに。
「でも、バグルスだなんて…いったいどうして、いまさらバグルスが出てきた
の?!」
「これは、一つの仮説に過ぎないが…」
シンクロが、腕組みをしたまま、語り始めた。
「バグルスが、保存されていた可能性がある。少女・iちゃんが涙を流した直
後に、なんらかの方法で〈高原ネット〉にそのまま存在していた…発動しない
ままな。そもそも、高原にはたいてい、ひまわり畑があるからな。ひまわりを
探していた彼女が立ち寄ったということは、じゅうぶん考えられる。もちろん、
アクセス記録には残っていないから立証は、難しいだろうが…」
その仮説だと、火事が発生したことへの説明はしきれていないのだが…
一同の間に、少し安堵の空気が流れたのは事実だ。この説によれば、事件では
なく事故の可能性が高くなる。バグルスという、非常にやっかいな問題がこの
一件だけの特殊な事情であってほしい…そんな気分もあって。
「そんなにがっかりしないで、ユイちゃん。バグルスは確かに強力なコンピュ
ータウィルスだけど、わたしたちバグルスには何度も対処してきたのだから…
必要以上におびえていてもいけないと思うわ。ユイちゃんのコレクター・イニ
シャライズがあれば、かならず解決するのだし」
「レスキューの言うとおりだ。いうなれば、一度倒したことのある敵だからな、
敗れるはずがない!ヒーローの鉄則だな」
(そうだよね、コントロルの言うとおりかも…わたしたちコレクターズがそろっ
ていれば、無敵なんだし!なんとか、メモリアル・グロウもちゃんと開催でき
そうよね、よかった〜)
チャットルームは文字通り、ワイワイとしたおしゃべりの場になっていった。
「そういえば、プリプリお姉さんはどうしてるの?あれから見かけないけど」
「フリーズさんですか?ウィルスさんの研究所に駆け込んだところまでは聞い
ていますけど…わたしのためにワクチンを探してくださったんですって…」
ポッと頬赤らめたレスキューはとりあえず放っておいて、IRにも尋ねてみ
た。
「フリーズは、ウィルス探知能力を使っての仕事を続けているのであります〜
高原ネットでの事件を教訓に、ウィルス対策に力を入れるネットが増えており
ますから〜 ま、成果はボチボチといったところでありまするが…」
「フリーズは腕っぷしに自信があるからな、タチの悪いウィルス相手でも簡単
に負けることはないさ…ただ、なぁ……」
「ただ?」
「自立することにこだわるあまり、余裕がなくなっている向きがある。そこが、
気になってなぁ…」
シンクロの言葉に、レスキューもうなづいた。
「そうなのよ、せっかくジャギーさんがメモリアル・グロウに誘ってくれてる
のに、断ったらしいの。仕事が忙しいから、って…」
グッ、ここでもメモリアル・グロウでカップル誕生ってこと?…と、多少
へこみながらも、ユイはしばし考え、こう叫んだ。
「わかったわ、じゃ、シンクロ!プリプリお姉さんを、メモリアル・グロウに
誘うのよ!」
はぁっ?と間の抜けたシンクロの表情を、想像していただきたい。あっけに
とられたのは本人ばかりではなく、むしろ周囲のソフトたちだった。よりに
よって、いったい、なぜ…?
「同窓会よ、〈グロッサー四天王同窓会〉!ヨコツンツンも誘って、四人って
ことになったら、プリプリお姉さんも行きやすいんじゃない?そりゃー、ブン
ブンおじさんと二人きりっていうのは、構えちゃうわよ、きっと」
「…ユイ殿、シンクロ殿は、いまはわれわれコレクターの一員なのであります
よ、なにもそんな、ワンちゃ…もとい、ウォーウルフの時代のことを思い起こ
されるような方向に向かわなくても……」
「いや、IR…それも名案かもしれんぞ。俺も、フリーズのことは気になって
いたから。ユイ、気がきくじゃないか。もっとも…その悪知恵が自分のことと
なるとちっとも生かされないのが、問題だがなぁ〜」
「あーっ、言ったなシンクロ!いつか必ずこのユイちゃんの魅力を認める、
素敵な男性が現れるんですからね!!」
「ふ〜ん、その出会いとやらが近い将来であることを、祈ってるぜ」
なによー!と軽口をたたきあう二人を見て、エコは拍子抜けしたように、
つぶやいた。いささか、ぼやきめいて。
「なんだよ…シンクロのやつ、普段と変わらないじゃないか。さっきまでの
ボクらのミーティングって、いったいなんだったんだよ。やっぱり、ピースの
言うとおり、そんなに深刻にとらえることなかったんじゃないか?」
「う、うむ…。だと、いいがのぅ……」
突然、モニターがざらつき、次の瞬間そこに一人の人物が映し出された。
「皆さん、お集まりのようですね」
「あーっ、ヨコツンツン!ちょ〜どよかった、いま話にのぼってたところなの
よね〜 ねぇねぇ、メモリアル・グロウのとき、メイン会場で〈グロッサー四
天王同窓会〉を開かない?たまにはそんな薄暗い研究所なんか抜け出して、
パーッとハメをはずしたりするのも、良いと思うなぁ」
ウィルスは…コムネット総合ウィルス研究所の所長となった今も、無表情の
まま、こちらを見ていた。その姿は、グロッサーの部下として悪の限りを尽く
していたころと、少しも変わらない。とにかく、見かけだけは。
「コンピュータウィルスの発生を警戒するなら、メイン会場で待機するのが得
策だ、って話なんだよ。フリーズとジャギーにも声をかけるから…どうだ?」
シンクロの言葉に、彼にしては珍しく、少し首をかしげてみせた。
「あなたという人は…まったく、相変わらずですね。ともかく、犬養博士から
の用件を申し上げましょう。高原ネットでの、調査結果の最終報告です」
「だから、トラブルの原因は、バグルスだったんだろう。もう、聞いたぞ」
コントロルの横槍にも、少しもめげることなく、淡々と続けるウィルス。
「…採取したウィルスからは、過去のバグルスと共通する成分が検出されまし
た。メールソフト・iちゃんの涙の成分です。その他の部分は、複数のコンピュ
ータウィルスが複雑にからみあっているわけですが…明らかに他のバグルスと
違う特徴が現れたのです」
「…それって、どういうことなの?」
「バグルスに似せて、人工的に作られた〈偽バグルス〉の特徴を持っています」
ええっ、と戸惑うコレクターズに、追い討ちをかけるように。
「つまり、何者かが明白に、悪意を持って使用したということです。
この〈偽バグルス〉は…おそらくは、なんらかの犯罪行為を目的として」
事故かもしれない、という願望を容赦なく否定して…大型モニターが消えた
後のコレクターズの不安は、言うまでもない。特に、ユイの落胆ぶりは…
「そ、そんな…メモリアル・グロウはもうすぐなのよ!なのに、なのに、なに
考えてるか分からない、どこにいるのか悪い人を、なんとかしなきゃいけない
なんて!」
「グチるな。それが、俺たちコレクターの使命だろ?」
キッと、シンクロに向き直ったユイの目は、どこか悲しそうでもあった。
「コレクターだからって…いっつもそうじゃない、コレクターだからって!
そうやって、みんなが楽しそうに遊んでるときに、つらい思いをしてきて!」
「ユ、ユイちゃん…まだそうなると決まったわけじゃないよ。要するに、
メモリアル・グロウが開かれるまでに、犯人が捕まればいいわけなんだからさぁ
」
「そうでありまする〜ちょっと落ち着くでありまするユイ殿… のわっ!」
振り向いたユイの目は、もはや三角になっていたのだった…
「フォローもIRも、黙ってて!いつもそうよね、コレクターらしくしろ…っ
て。せっかくのフェスタなのに、イベントなのに…」
「だから自覚を持てって言ってるだろ、油断してたら相手の思うツボじゃない
か。コレクターらしくっていうのは、そういう意味で…」
(そんなの、わかってるわよ!今までだって、がんばってきたんだもの。
今度だって、今度だってハルナやアイちゃんのぶんもがんばらなきゃって、
そう思って、自分に無理してやってきてるのに…どうしてわかってくれない
のよ!)
「こ、こらこら、二人とも仲間割れはいかんな。ここは一つ、リーダーの俺に
免じて、仲直りしたらどうだ?」
「も、もうっ、コントロルも、いっつもそうなんだから!だいたい、コントロ
ルをリーダーと認めてる人がいるっていうの?はい、今すぐ手を挙げて!」
…………… 残念ながら、天を指す腕は皆無だった。
「そ、そんな… リーダーは俺なのに〜 がーん、がーん、がーん……」
「あ〜んコントロルさん、そんな、壁を向いて『の』の字を書いてイジけたり
しないでくださいよ〜 いきなりだったんで、タイミングをとれなかったんで
すから〜」
「ごめんコントロル、つい、うっかり本音が出ちゃって…あっ、また本音が…」
「おいユイ!なにも、コントロルに八つ当たりすることないだろ!」
ふくれっ面になったユイが…常より一オクターブは低い声で、つぶやいた。
「…わかったわ。シンクロは、わたしのことが嫌いなのね」
ええっ?と、満場が理解不能に陥るほどの、論理の飛躍だった。ことに、
言われたシンクロはたじろいで、1.5歩後退してしまうほどだった。
「なんだよ、それは…どうして、そうなるんだよ!」
「だって、だってシンクロはいつも誰にでも親切だし、レスキューやプリプリ
お姉さんのことも心配してあげてるし、落ち着いてて、みんなに平等に接して
いるのに、わたしにだけ、すっごく厳しいんだもの。『コレクターの自覚がな
い』とか、『コレクターアイを見習え』とか!」
どうしてそういう昔のことばかり言い出すんだ…答えに戸惑う沈黙を、ユイ
は肯定と思い込んだ。
「やっぱりそうなんだ…わたしにだけ、つらくあたるのって……」
「ちょっとコントロル!リーダーを自称するなら、なんとか対処しなさいよ!」
「る〜るるる〜 る〜るるる〜」
「これは時間がかかるぞ、アンティ。再起動のメドが立たんなぁ…」
「もうっ、結局いつもシンクロに頼りすぎなんだよ、コントロルは!」
「だいたい、メモリアル・グロウなんてイベントが悪いのよ!ロマンチックで
ラブラブなイベント用意して、猫も杓子もカップル、カップルで…こんなイベ
ント、なくなっちゃえばいいのよ、そしたらわたしだって、こんな苦労しなく
て済むんだし…バグルス騒ぎで、ツブれちゃえばいいのよ!」
「なんてことを言うんだ、ユイ!少しは、犬養博士の気持ちを考えろ!」
博士への忠誠心がひときわ高いシンクロが、本気になって叫んだ時、のんび
りとした声が、後ろから聞こえてきた。
「そうだね、シンクロ。だが…二人とも、ケンカはイカンぞ」
にらみ合うユイとシンクロの前に、恰幅のよい博士の姿があった。いつの間
に、チャットルームに来ていたのだろう。頭に血が上っている二人が気づかな
かったのも、無理はないが。いつものように穏やかな、でも少し困った表情で、
犬養博士は、後ろ手に立ち尽くしていた。
「以前にも言った通り…メモリアル・グロウは親睦を深めるイベントじゃ。
それが原因でケンカになるとしたら…不本意極まりないことだよ。これほど
残念なことはないな。二人とも、どうか仲直りをしておくれ」
「ご、ごめんなさい、博士…わたし、なんか、いろんなこと押し付けられた気
がして、それで、ついカッとしちゃって…」
「俺も…バグルスの対策で忙しい博士に、ご迷惑をかけてしまって…」
いやいや、なんのなんの…博士の笑顔に、ユイはその手をギュッと握った。
「博士!博士だったら、メモリアル・グロウまでにワクチンとかなんとかを、
ちゃんと作ってくれますよね、絶対だいじょうぶですよね!」
う、うむ…と苦笑いの博士の額に、吹き出る汗が…そういえば、さっきから
なぜか、及び腰だし…?
「まさか、もしかして…… フォロー?!」
「いやぁ、もうバレちゃった〜二人とも鋭いなぁ…うわっ!」
フォローの巨大なお尻が突き飛ばされ、床で二回ほどバウンドしたころには、
二人の対峙は、いっそうの硬化を招いていた。
「コレクターとしての自覚がない上に、博士まで非難するとはな…呆れたぞ」
「なっ、なによ…わたしだって一所懸命やってるもん、どうして今のわたしを
認めてくれないのよ!」
「もっと大人になれって言ってるんだ!」
「そんなの…わたしはあなたたたちみたいに、生まれたときから〈大人〉じゃ
ないんだから!」
言葉の放った冷たさが、どうしようもない気持ちが、放たれたままそこに
漂っていて…やりきれなさが、一秒ごとに積み重なっていくみたいに。
「…もう、帰るね。ヴァーチャル・アウト…」
光の中でユイが消えた後、シンクロも…じゃあな、と去って行った。
「フォロー!!」
残ったメンバーに詰め寄られても、困ってしまう。
「…ボクだって、オジさんよりは可愛い女の子に変身する方が好きなのに…」
生みの親・犬養博士が聞いたら、さぞかし頭を抱えることだろう。
(なによ、なによ!誰もわたしの気持ち、わかってくれないんだから…)
トントン、とドアをノックする音が響いた。ママだ…パパはノックしないで
いきなり飛び込んでくるもんね。はぁい、と返事しながらベッドから起き直っ
た。
「結がおやつを食べないなんて、珍しいから…具合でも悪いの?」
「ううん、全然!持ってきてくれて、ありがとうねママ。う〜ん、美味しい!
イヤなこと、全〜部忘れちゃいそう!」
どういたしまして、と微笑むママ…いつも、こんな風に見守ってくれた。
だからつい、ため息ついちゃう。心の中のこと、全部出てきちゃいそう。
「べ、別に大したことじゃないんだけど、メモリアル・グロウって、今度ある
でしょ、なんか…みんなカップルになっちゃってさ。わたし、ひとり…」
ママの顔見れないまま、うつむいて、今食べたばかりのアイスのガラスの、
透明な光のところを、みつめて。
「パパやママと一緒がイヤ、っていうんじゃないの。みんながカップルになっ
て幸せそうなのを、ねたんでるってわけでもなくて。でも、なんか…今年は誰
か、特別な人といたかったの。彼氏…を作るのってそんなの簡単じゃないけど、
友達とか… でも、なんかみんな、どんどん、変わっていっちゃって…
わたし一人だけ、とり残されちゃった感じがして。将来のこととか、夢にも、
全然近づいてないし…なんか、そう考えたらすごくつらくて、苦しくなってき
て… わたし、どこかおかしいのかな?」
ううん、とママはゆっくりと首を振った。静かな、やさしい目で。
「結は正直ね。焦ったり、悩んだりしていることを、ちゃんと言葉で言えるん
ですもの。だから、だいじょうぶよ。どれだけ高く遠く見えても、いつかは、
願いに近づけるわよ。その強さがあれば、かならず」
そうかな… そうですとも!何秒か見つめあって、なんだかホッとしてし
まう。
「コムネットの友達にね、『もっと大人になれ!』って、言われちゃったの。
なんか、すごくショックで…だってまだ、14歳なんだし、わたし。なんでも
良くできるって人もいるけど、そんな人と比較されたって、自分でもどうしよ
うもないんだもの。今のわたしを、等身大のわたしを見て、良いところとか、
まだできないこともあること、認めてほしいのに… どうして、分かってもら
えないのかなぁ、って。それで、ケンカしちゃって、なんかすごく後味悪くて
…」
「…その人は、結のことが、とても好きなのね」
えっ、と驚いて見返してしまう。冗談…じゃなくて?
「今の結が好きじゃなかったら、大人になった結に期待なんかしないわよ。
もっともっとステキになってほしい、今よりずっと成長した結に会いたい。
…でも、今のままの結の良いところを、持ち続けてほしい。そんな気持ちが、
入り混じっちゃってしまったみたいね、その人は」
「わかるの?」
「わかるわよ、ママだってそう思うもの。いつまでも、小さくて可愛い結で
いてほしい、でも…自由にはばたいていく、翼を持ってほしい。空の向こうに
必ずある、自分の夢をつかんでいける人になってほしい。…そんな時にね、
自分が嫌われることを恐れずに、まっすぐに本当のことを言ってくれる人は、
大事にしなきゃいけないのよ。だって、あなたのことを、本当に想ってくれて
いるんですもの…」
そっか…いつでも、スタートラインに立てるんだ。それって、わたしが
グロッサーに言ったのと同じこと。悲しみや苦しみを抱えたまま消えたいとか、
考えちゃいけないんだ。だって、もう一度会いたいもの。わたしの大切な仲間
…コレクターたち。傷ついて、凍えかけた気持ちを、イニシャライズして…
もう一度、この手の中に、取り戻すために
「ママ…わたし、夢はマンガ家か声優だけど、ママみたいになるのもいいな、
って思い始めた!ママみたいに、ひだまりみたいに…わたしたちを幸せにして
くれる人になるのも…いいなっ、て」
「ママ〜ユイ〜ここだったのか〜 お腹ペコペコだよ〜 ママの美味しい料理
を、早く食べさせてくれよ〜」
やっぱり、ノックをせずに飛び込んできたわね、パパ。階段をドタドタ上っ
てくる足音がなかったら、おちおち着替えもできないじゃないの。
「お帰りなさい、あなた。お食事、いま用意するわね。でも、結…ママだって、
人生これからですもの。春日結ちゃんのママ、ってだけじゃなくて、春日
さくらとして…これから改めてスタートして、夢をつかみに行くつもりだから」
えええ〜〜とすがりついてくる夫を、よしよしとなだめながら、ママ…じゃ
なくて、さくらさんは、ニッコリと。
「もちろんパパ、あなたと一緒によ。これまでも、これからも…」
やっほ〜ランランラン〜と鼻歌交じりに食堂に向かう父・伸一は、まるで
子供のよう…バグの多いプログラマーって、ピースは言ってたけど…あっちで
転んだり、こっちでぶつかったりしながら、何かを作っていくパパって、
やっぱりステキ。だからママも、パパが好きなんだろうな…
「結も、パパに負けないくらいステキな人を、見つけてきてね」
「もっちろんよ!春日さくらさんの娘ですからね、わたしは!」
だから、きっと言えるはず…コムネットを蝕む影が、最後の光を呑み込む前
に。
(04/08/04 掲載)
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