コレクター・ユイ 二次創作小説
MEMORIAL GLOW
メモリアル・グロウ
chapter.3
〈高原リゾートネット〉での事件を解決したコレクターズは、コムネット内
の極秘・専用チャットルームに戻っていた。一件落着でホッと一息、飲み物な
ど飲みながら、くつろいでいるはずだったが…室内の空気はどこか緊張し、
重苦しかった。モニターを背に黙り込む犬養博士の言葉を、皆は待っていた。
「博士……」
「う、うむ… 今回の現場で採取されたコンピュータ・ウィルスは、現在ウィ
ルス研究所で解析中じゃ。結果が出るまでには、時間がかかるので…いましば
らく、待ってくれたまえ」
博士は言葉を切り、コレクターたちを見渡した。特に、そう、うつむいたま
ま、カップに手をつけずにいるレスキューの姿には… 今回ウィルスに感染し
被害増大の一因となってしまったことで、自分を責めている様子が、痛いほど
よくわかってしまう。
「…気にするな、レスキュー」
つかつかとかたわらに歩み寄ると、彼女の肩に手をやり、コントロルはつぶ
やいた。
「今回のことは、君が悪いわけではないんだからな。そう、自分を責めるな」
「でも…!でも、わたしのせいで、皆さんにこんなに迷惑をかけてしまって…
だって、わかりますもの。コントロルさんがバグルスに感染したとき、わたし
たち本当に、大変で、苦労して、ヒドイ目に遭いましたもの。あんなに悪いこ
とをしたなんて、わたし…」
「こ、こらっ、ちょっとは気にしろ!俺だって悪いわけじゃなーい!!」
慰め合いではなく責任のなすりつけあいに発展しそうになり、犬養博士は
あわてて、次の話の糸口を探した。
「ともかく…この件では、フリーズがよく頑張ってくれた。ワシの作ったコレ
クターズと、グロッサーの作ったフリーズたちは、いわば親戚のような関係じゃ。
これからも、コレクターズをサポートしてやってくれ」
えっ、あぁ、いや…と、フリーズは大照れ。誉められることに、慣れていな
いのだ。
「ホント、プリプリお姉さんのおかげで助かっちゃった。ありがとうね!」
「も、もう、いいからさ…実際のとこ、ウィルス探知能力を意識して使ったこ
とが少ないから、もうちょっと訓練が必要ってとこなんだ。やっとこ、自立へ
の第一歩を踏み出した、って感じかな。…本当は、ウィルスそのものが発生し
ない、あたしの出番なんて無い方が、世の中のためなんだろうけどね……」
「そんなことありません!フリーズさんがわたしのために、危険を省みず助け
てくださったこと…本当に、本当に感謝してます!」
「う、うわっ、べ、別にレスキューだから助けたってわけじゃなくて、あたし
はあくまで仕事であって、だから抱きつくなって… うわっつつ!!」
「おい、フリーズ!いくらレスキューが苦手だからって、突き飛ばすことはな
いだろう?!だいじょうぶか、レスキュー?おい、レスキュー!」
チャットルームがどよめいた。抱き止めたシンクロの腕の中で、レスキュー
はグッタリしていた。駆け寄った犬養博士が、ハッと頬をこわばらせた。
「これはいかん、ひどい熱だ… ウィルス反応は治まっているのに、後遺症な
のか?ともかくレスキュー、すぐ医務室に行こう」
「博士…わたし、平気ですから…」
「無理をしちゃいかん。このミーティングが終わった後で精密検査をするつも
りだったのだから、予定が少し繰り上がっただけだ。すまんな、気付かずに
おって。こんな状態では、座っているだけでも苦しかっただろうに…みんな、
悪いが先に失礼させてもらうよ」
博士に支えられてフラフラと去っていくレスキューの後ろ姿を、皆はただ、
見送るしかなかった。
「くっ、ウィルス研究所に行って、ワクチンかなんか無いのか、確かめてやる!」
フリーズが足音高く出ていって、しばし後、シンクロが切り出した。
「…とにかく、今は俺たちにできることをするだけだ。今回の件を、もっと
検証するべきじゃないか?そもそも、あれが事故だったのか、事件だったのか
すら、俺たちには分かっていないじゃないか」
「えっ?それってどういう…………う〜ん………」
「?」
「………ことなのよ、シンクロ!よしっ、ちゃんと言えるようになったわよ!
ウォーウルフじゃなくてワンちゃん、じゃなくてシンクロ。シンクロ〜シンク
ロ〜ほらっ、ちゃんと間違ってないでしょ。ユイちゃんってば、偉い!」
「…たたき売りじゃないんだから、そんなに連呼するなよ。話を続けるぞ。
事故だとしたら、正直言って、あまり問題ではないな」
「その通りでありまするね〜高原リゾートネット固有のシステムだけを調査し
て、正常にプログラミングしなおせば良いだけでありまするから〜手間と費用
さえ惜しまなければ、復調するのはたやすいことでありまする〜」
「じゃ、じゃあ、もし…事件、だったら?」
「犯人を捕まえるまで、他のネットでも同様のことが起こるかもしれん、と
いうことだ」
えーっ!というユイの叫びを遮り、コントロルはこうも付け加える。
「だいたい、あの火事は不自然だった。コンピュータ・ウィルスの特徴とも、
かけ離れていた…ウィルスをまいた奴が、カムフラージュで起こした火事、
という見方もできる。むしろ、その方が納得できる考え方だ」
「そうだとしたら、大変なことでありまする〜無限に広がるコムネット内で、
犯人を見つけ出すのは、容易なことではありませぬ〜大海に投げられた石を
探すようなものではありませぬか〜…」
「それをやるのが、わたしたちコレクターの役目じゃない!だいたい、ウィル
スって治す薬があるんでしょ、ワンちゃんじゃなくて、ワンタンじゃなくて…」
「ワクチン!…それよりもっと、気になることがある。今回なぜ、コムネット
内の消火システムや救助システムが作動しなかったんだ?そういう、重要な
緊急システムは何重にも用意されていて、たとえ一種類がダウンしても他で
フォローするようにできている。それが、高原ネットでは、すべて使い物に
ならなかったんだぞ…」
シンクロの重い声に、コントロルが気楽な、明るい調子で反論した。
「そ、それはもちろん、レスキューがコンピュータ・ウィルスに感染して
しまったからだろう。彼女には、保護の能力がある。彼女が参ってしまった
から、緊急システムもダウンしてしまった、としか考えられんな。
かくいう俺も、思い起こせば(あまり思い出したくないが)バグルスに感染
したときには、持ち前のコントロール能力が暴走してしまって解決に多少〜
影響したことがあったじゃないか。まぁしかし、バグルスほど強力で悪質な
ウィルスというは、滅多にあるものじゃないし……」
と、ペラペラとまくしたてたところで、はた、と我にかえり、愕然とする。
「ちょ、ちょっと待て、ウィルス対策を厳重に行っていたコレクターが感染
するような、強烈なウィルスだと……? そんな!」
「問題はそこだ。これからコムネット十周年で、アクセス者も増える時期なの
に…早く解決しないと、フェスタ当日が思いやられるぜ」
「万が一を考えると、計画の縮小・中止も検討せねばならないでありまする〜」
(ええーっ、それって、メモリアル・グロウが中止になっちゃったりするって
ことなの〜?!)
「そ、それはそれで、ショックかも…ユイちゃん、がっくし…
んじゃみんな、何かあったらまた連絡してね… ヴァーチャル・アウト……」
ユイがコムコンにつぶやくと、その姿は光の中で消えた。一般の人が、ヴァー
チャライザーと呼ばれるアイマスクでコムネットにアクセスするのに対し、コ
レクターであるユイは左手のコムコンでエンターできる。小型だが、高性能だ。
「ユイ殿の落ち込んだテンションを、無理矢理持ち上げる方向にせねばなりま
せぬ。一苦労ありそうでありまする〜 おや、シンクロ殿、どうかなされまし
たか?」
「い、いや… 別に、なんでもないぞ…」
(また、渡せなかった… まぁ、いいか。誰にも気付かれていないし…)
誰にも?果たして、そうだろうか。
パソコンに向かう結の表情は、冴えなかった。嫌々宿題に取り組んでいる、
という以上に、さきほどのミーティングの内容に、堪えていた。
(そりゃあ、まだ誰もメモリアル・グロウに誘ってくれないけどさ…でも、
やっぱりやっぱり、中止なんてイヤだもん……)
「結ちゃん…?」
「あ、あっゴメン春菜〜 せっかく家に呼んでもらって、宿題も付き合っても
らって、その上ケーキまでごちそうになるっていうのに、ボンヤリしちゃって。
あれ、ケーキはまだだったか。えへへ…」
「うふふ…お待ちかね、結ちゃんの恋人を、用意するわね」
「キルシェのチェリーパイ!ま、今日のところは彼氏は、お腹に入れちゃいま
しょ!!」
紅茶の琥珀色の面を見つめる横顔に…問いたくて仕方なかったことを、
なかなか口にすることができない。
「ごめんなさいね、結ちゃん…わたし、特別進学コースの夏期講習を受けてい
たの。お父様に勧められて、断りきれなくて… 言わなくてごめんなさいね、
どうしても、言い出せなくて…」
そ、そりゃー仕方ないわ、と結は納得した。落ちこぼれ用の補習を受けさせ
られている・もしくはスレスレのところにいる人にそんなこと、なかなか告白
できないという、気持ちは。
「結ちゃんが、うらやましい… 立派な夢を、もってるんですものね」
「えっ、わたし?!いやぁ、でも、まだ単なる夢にすぎないし…声優になるっ
てのも、演技の勉強が大変そうよね。愛ちゃんとお芝居してみて、なーんか
すっごく難しいってわかったし… 一応、マンガ家目指して投稿作品描いて
みてるけど、コレクターの仕事も忙しいから、なかなか形にならないしぃ…
ま、なんとかなると思うけど!春菜こそ、あれだけ成績がいいなら、将来の
可能性は、無限じゃないのよ」
春菜の穏やかな表情が…静かな、でもやりきれない哀しみに彩られた。
「わたしは…将来は、お父様の事業のお手伝いをするから。小さなころから
そう決まっていたし、それにふさわしい人間になろうと生きてきたわ。でも…
それって、夢とは違うんじゃないかしら?結ちゃんが抱いているような、
ステキな〈夢〉とは…」
なんでも良くできる春菜が…こんなに、縛られてるんだ。見えない糸や、
見えないレールの上から、動けないでいるんだ…
「そ、そんなこと無いわよ!お父さんとは違うことやったっていいじゃない、
自分の好きなように!そのためにわたしたち今、こうやってわけのわかんない
勉強やらいろいろさせられてるんだし、春菜はそこんとこ、ちゃんとクリア
してるんだし!とにかく、バカシからメモリアル・グロウのチケットを、
ちゃんと受け取ること!あのバカが動くの待ってちゃダメよ、自分からハイッ、
って手を出してもいいんだから、必ずもらうのよ!!」
「で、でも、そのコンピュータ・ウィルスの件もあるし、わたしもコレクター
なんだから、コムネットでの仕事が……」
「コレクターの仕事は、わたしとコレクターズで、なんとかするから!
春菜は女の子の幸せをガッチリつかむの、これ、約束よ!」
なんだかやたらめったら力の入った結の励ましに、春菜もニッコリ微笑み
かえした。
(春菜の元気が出たのはいいけど…わたしの幸せの青い鳥は、どこ?)
「えーっ、シンクロさん、まだユイちゃんにメモリアル・グロウのチケット、
渡してないんですかぁ?!」
大声をあげたのは、レスキュー。あの後精密検査でも、レーダー等に故障は
見つからず、休養した結果、すっかり元どおりの体調を取り戻していた。
「ねぇねぇIR、それって本当なのかなぁ?」
「間違いないでありまするよ、フォロー殿〜シンクロ殿がチケットを二枚持っ
ていて、一枚をチャットルームでユイ殿に渡そうとすれど渡せず〜にいる現場
は、何度も目撃されているでありまする〜」
「そっかぁ、シンクロは、ユイのことが好きなのか。一緒にいたいんだものね」
エコのつぶやきに、一同はううむ、と意味不明のうなりをあげた。
「でも、どうしてチケットを渡せてないんだろう?」
「ユイちゃんなら、きっと受け取ってくれると思うな。僕たちがメモリアル・
グロウをどう過ごすかって、気にかけてくれたんだし…もっと気軽に、ハイッ、
って渡しちゃえばいいのに。ユイちゃんだって、誰か声をかけてくれるの、
まってるんだよね。だったら…」
あやつは生真面目だからのう、と、ピースがパイプの煙をふかした。
「シンクロ殿の気持ちは、フォロー殿とは、ちょ〜っと違うでありまする〜
ユイ殿に彼氏ができそうになっただけで、傍目にもわかるほどヤキモチを焼い
ていたでありまする〜 そう気軽には、いかないのではありませぬか〜」
「確かにシンクロさん、ユイちゃんのこととなると、熱中しちゃいますものね。
ジャギー図書館でコントロルさんを踏みつけても、全然意に介してませんでし
たから…」
踏みつけたシンクロも、踏みつけられたコントロルも、チャットルームには
いない。犬養博士に呼び出されて、留守だった。残ったコレクターズソフト
六人は、いつにない話題で、頭を突き合わせていた。
「ユイ殿は面食いでありますからね〜シンクロ殿のようなタイプがお気に召す
かどうかは、判断しかねるであります〜」
「でも、抱きついてたじゃない。ほら、バグルス事件が解決した時に」
「ユイとコレクターズの信頼関係なら、それくらい当然じゃない?わたしだっ
て、抱きつかれたことはあるわ」
アンティの言葉に、一同また考え込む。おずおずと、フォローが聞いた。
「どうする?僕らで、シンクロの応援をする?シンクロって慎重なタイプだか
ら、なかなか自分から動けないでいるんだよ、コントロルと違って」
「そうですよ、シンクロさんは…シンクロさん、今でも手鏡を持ち歩いてるん
ですよ、自分が〈ウォーウルフ〉の姿に戻っていないかって、心配で…
あんなにいかつくて目つきが悪いのに、本当は、とっても小心者なんです!!」
失礼極まりないレスキューの解説に、コレクターズは全員、うなづいた。
「で、ユイの方はどうなんじゃ?以前憧れておった、隣のお兄さんとやらは?」
「いま、留学中なんです。メモリアル・グロウはお母さんと一緒に過ごすって、
メールが届いたらしいですわ。ユイちゃんも家族で過ごすといいよ、って書い
てあって、ユイちゃんしばらく落ち込んでいたもの…」
「相変わらず、瞬殿の方ではユイ殿を、手のかかる可愛い妹程度にしか思って
いないようでありまする〜この先ユイ殿が大人になる頃には分かりませぬが、
今すぐもっと特別の間柄になるようには、見受けられないでありまする〜」
「じゃあ、いいじゃないか!ボクは応援するよ、シンクロもユイも好きだもの、
二人が仲良くなるためだったら、なんでもするよ!」
ワクワクするように、ピョンと席を立って勢い込んだエコにつられ、他の
みんなも同意しかけた時だった。アンティが、待ったをかけたのは。
「待って、みんな… もう少し、シンクロの気持ちを考えてあげて」
「へっ?そ、そのために、コレクターズを緊急招集しての、ミーティングを
開いた次第でありまして…」
アンティの深刻な表情と重々しい言葉に、コレクターズは一瞬顔を見合わせ
て、黙り込んだ。なにしろ恋占いネットの管理者なのだ。彼女の予測能力に
は、皆一目置いている。
「確かに…恋は、どちらか一方が打ち明けなければ、始まらない。逆を言えば、
どちらか一方が気持ちを伝えれば、片想いが両想いになるのは、わりあいと
簡単なのよ。条件さえ整っていればね。お互いに、友人程度の好意を、持ち
合わせていれば…」
「ならいいじゃないか。ボクらコレクターズで、これまでたくさん一緒にいて、
危険を乗り越えてきたんだもの。アンティの言う条件は、そろってると思うよ」
「だから、よ。わたしたち、仲間として絆を深めてきた。シンクロがユイに特
別な気持ちを持つようになっても、なんら不思議じゃないわ。だから、もしか
したらユイも、シンクロを好きになるかもしれない」
ピースが、ハッと目を見開いた後、ううむと腕組みしてしまった。それを
見やって…なお、アンティは続ける。
「…そうなって、それからどうなるの?ユイは現実世界に住む人間で、わたし
たちはコムネットに住むコンピュータ・ソフトなのよ。時間だって、256倍
も違う。今14歳のユイが大人になるまで、わたしたちはどれくらいの時間を
過ごすと思うの?シンクロが、ただ勇気を出せないからじゃなくて、そこまで
考えて動けなくなっているのだとしたら…」
「で、でも…」
フォローが、どもりながら次の言葉を口にするまでに、長い時間がかかった。
「現実世界にいるカップルだって、いっつも一緒にいられるわけじゃないよ。
一日のうち何時間か、それこそ何日に一度しか会えない人たちだっているって
いうじゃないか。だったら…」
「なら、ユイもそうする?コムネットの恋人と過ごす時間だけを大切にする、
現実世界では夢をつかめない、そんな人間になってもらう?」
「そんな、アンティさん、そんなのヒドすぎます!ユイちゃんには、声優か
マンガ家になるって、大きな夢が…」
「厳しい言い方をすれば、現実世界とコムネットを割り切って、二重生活する
手もあるわ。現実で夢を成功させたり、誰かと結婚したり、子どもをもったり
しながら、この世界でも恋愛し続ける…」
「そんなのダメだよ、許されるはずないじゃないか!」
アンティにつかみかからんばかりのエコの肩を、ピースがゆっくりと押さえ
た。
「まぁまぁ、そう真剣に怒ることはあるまい。ワシら、シンクロ本人に何も聞
いてはおらんのだから、ヤツがそんなに思いつめているとは限らんじゃろうて」
ピースは、シンクロは生真面目だから、という自分の発言と矛盾することに
気付いてか否か、つとめてのんびりとした調子で説いた。
「だいたい、恋愛の告白など、そうそう成功するものだろうか?確率は低いぞ。
今まで仲間でいてそんな気持ちにならなかったものが、いまさらどうこう進展
するじゃろうか?…ワシには、そうは思えんがのう。結局は、シンクロがフラ
れて今まで通り、となるのではないかな」
「もしくは…そういう展開を見越して、シンクロが想いを胸に秘めて、これ
からもずっと仲間として過ごす。ユイに迷惑をかけないように…ね」
「それじゃ、それじゃ結局、シンクロは幸せになれないじゃないか!みんなは
いいの、仲間がそんな思いをしても、平気なの?!」
平気ではないから、今こんな会合を開いているのだ。もちろんエコも、それ
は分かっていた。それは、共通した叫びだった。
「じゃあ…なんで、なんでボクら〈心〉を持っているんだよ…ソフトなのに…
コムネットでしか生きられない、コンピュータ・ソフトなのに!!」
「必要だったからよ、コムネットにとって。今までも、そして、これからも」
ふぅ、とレスキューがため息ついた。ピースが思い出したように、パイプに
火を付け直した。フォローはモゾモゾと、大きなお腹を揺らした。
「それなら、現実世界の人間なんか…好きにならなきゃよかったのに…」
「まぁ、ソフト同士なら、まだ共通した世界がありますものね」
「コントロル殿みたいにでありまするか?それは、どうでありまするか〜」
話が外れたおかげで、みんなの間に、少し笑顔が戻ってきた。
「そうだよ、コントロルみたいに簡単に口説いたりすればさ、ユイだって
気楽に返事してくれるかもしれないじゃないか」
「あら、わたしなら、絶対断るけど」
「うふふ、アンティさんに何度断られてもアタックし続けるコントロルさんて、
実はすごい人かもしれませんわ〜」
「ま、根性だけは認めてやらんとな」
「さすがは、自称:リーダーでありまする〜」
「僕なら、あそこまでは頑張れないなぁ〜スゴイよねぇ〜結局、全然成果が
あがってないんだけどね〜」
「ちぇっ、シンクロも、少しはコントロルの精神を見習うべきだよな…」
ともあれ、リーダーをまな板に乗せている限りは、コレクターズは平和だ。
「おおっ、これは珍しい。コレクターズ八人が勢揃いとはな。何か、あったのか?」
チャットルームに、話題にのぼっていた二人、コントロルとシンクロが入っ
てきたから、席についていた六人は薄ら笑いや、咳払いをしてごまかした。
「そうだアンティ、先日の件は検討してもらえたかな?」
「ちょっとコントロル、みんなの前で聞くようなことじゃないでしょ」
「俺はいつでも誰の前でも、自分の気持ちに正直なのさ。ヒーローたるもの、
裏表があってはいかんからな。隠さず、ズバッと言ってくれたまえ」
キラ〜ン、と歯を光らせるコントロルに、心底困った様子のアンティ。
(みんなの前で断って恥をかかせたくないっていう、アンティさんの気遣いに
どうして気がつかないのかしら…)
(さっきの取り消し。やっぱり、コントロルのことは見習わなくていいよ)
(ふっ、未熟者じゃのぅ…)
「と、ところで、犬養博士のご用事は、何だったのでありまするか〜?」
意外にも、コントロルは黙り込んでしまった。シンクロも、言葉を選ぶよう
に、口ごもりながら。
「…この間の〈高原ネット〉での、ウィルスの検査結果が出たんだ。それで、
追加調査をしていたんだが……」
「実は、あの事件の原因は…」
席上の仲間を眺めまわし、遂に覚悟を決め、コントロルは言い渡した。
「……バグルスだったんだ」
(04/07/30掲載)
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