コレクター・ユイ  二次創作小説

                           MEMORIAL GLOW

                         メモリアル・グロウ

                             chapter.1


  コンピュータ・ネットワークが、特別な知識を持つ一部の人々の集う場で
あった時代が遥か遠い過去になって…どれほどの時間が流れただろうか。

   世界的総合ネットワーク・コムネットが開設されて、早くも十年。
人々は気軽に、簡便にヴァーチャル空間にアクセスできるようになった。
現実世界の256倍の世界を享受していける陰に…コムネットの平和を日夜
維持する〈コレクターズ〉の存在がある。彼らの詳細はコムネットのトップ
シークレットであり、知る人は少ない。それゆえに、〈コレクター〉は一部の
マニアに、アイドル的存在として熱狂的支持を受けていた…

「…一連のバグルス事件が終結して、早いもので一ヶ月が過ぎた。いまここで、
無事に〈コムネット・フェスタ〉の準備報告が行えるのも、すべて諸君の努力
のおかげだ。改めて、礼を言わせてくれ」
「水臭い言い方はやめてください、犬養博士。オレたちは〈コレクターズ〉と
して当然のことをしたまでです」
  犬養博士の眼鏡越しの柔らかな視線が、円卓を囲むコレクターズ全員に
向けられた。
  彼ら八つのソフト・コレクターズは、本来コムネットのホストコンピュータ
〈グロッサー〉を制御するために作られた。グロッサーの追求を逃れ潜伏する
ために感情と意志と特殊能力を備えられ、グロッサーを鎮圧する〈コレクト〉
時には、八人全員が同一化して、コムネットの存在する限り制御し続ける…
つまり、意識レベルの「死」を宿命づけられていた。彼らはその過酷な運命を、
感情を持つがゆえに悩み苦しみながら、受け入れざるをえなかった。しかし、
彼らは今も、ここに存在する。
  一人の少女の起こした、奇跡のおかげで。

  コレクターズ専用チャットルームのドアが開き、二人の少女が飛びこんで来
た。髪の長いおとなしげな少女は、遅れてすみません、とすまなそうに頭を
何度も下げた。一方の、肩先ほどのくせっ毛の少女は、ごめんねぇ〜と、
ちっとも反省の色なく、微笑んだ。
「遅いぞ、ユイ。今日のミーティングはおまえの都合に合わせて、集合時間を
決めてあったんだぞ」
  コントロルの叱責に、ユイは少しむくれ、間に立ったハルナはオロオロした。
「あ、あの…ユイちゃんが悪いんじゃないんです。わたしに急用ができて、
それでユイちゃんにつきあってもらって……」
「そ、そうなのよ、ハルナってば例のバカシとデートの約束ができちゃって、
バカシってホント困ったヤツよね〜」
「そうなんです、だからけっして、ユイちゃんが補習のために学校によびださ
れていたせいではなくて…」
  全員に、あぁやっぱり…という呆れたというか、納得したような空気が流れ
た後、真っ赤になったハルナとユイは、犬養博士のそばにそそくさと座った。

  如月春菜…コレクターズソフトを指揮するために、犬養博士が最初に選んだ
人間〈コレクター〉が、彼女だった。コンピュータの知識に詳しく、成績優秀
・容姿端麗・性格温厚と、非の打ち所のないハルナの、そんな長所がかえって、
グロッサーにつけこまれる原因になったのだが。
  そして、今し方ようやく補習から解放された、いささか学校の成績が芳しく
ないこちら、春日結こそが、現在コレクターズを率いている〈コレクターユイ〉
その人なのだ。グロッサーの用意した「偶然に見せかけた必然」というクモの
網にからめとられながらも、コムネットを、コレクターズを、そしてグロッサー
自身をも救ったのは、一見実に頼りない、このコレクターユイだったのだ。
コムネットの平和を守る、正義のヒロイン…には、とても見えなくても。
  もう一人のコレクターとともに、コレクターズソフトと協力しコムネットで
活躍する人間の乙女たち三人…彼女たちの正体は、家族すら知ることのない、
極秘中の極秘事項だ。

「気にすることはないよ、ユイくん。これからコレクターズに、〈コムネット
・フェスタ〉の準備の様子を聞くところだったから、ちょうどよかった」
「コムネット・フェスタ!あの、コムネットが開設されて十周年って、お祭り
のことですよね!〈メモリアル・グロウ〉とか開かれるんでしょ、楽しみ〜」
「ユイ、俺たちはコレクターなんだぞ。催しが無事行われるように、気を配ら
なければいかん」
  コホン、と咳払いをしてコントロルは続けた。コレクターズ第一のソフトで、
制御をつかさどる。高い加速能力を持ち、コレクターに〈風〉の能力をインス
トールできる。申し分のない能力、容姿に優れ、コレクターズのリーダーを
自認してやまないのだが…
「いよいよ、フェスタが近づいてきた。各自ネットの管理に忙しいかもしれな
いが、コレクターズとしての使命を忘れないでくれ。俺たちはコレクターだ。
いついかなる時も、コムネットの平和を守るのが、俺たちの役目だ。準備期間
も、そして当日も、リーダーである俺の指示に従ってくれ。いいか、リーダー
の指示に、だ」
  コントロルが言葉を切ったのは、満場に漂う(またリーダー風かよ…)
(いいかげんにしろ)(早く終われ)といった冷たい空気に気付いたからでは
なく、己の前置きに十分満足し、その余韻に浸っていたからだった。そういう
意味で、彼は相変わらず、かなりお幸せな野郎だった。
「バグルス事件が解決したからといって、油断してはいかんぞ。祭りに乗じて
よからぬことを企む輩が、根絶されたわけではないからな。そのために俺たち
は一丸となって、コムネットの平和に尽力せねばならん。目下、そのための
方針を検討中だが、当日はリーダーである俺の号令のもと、各自存分に働いて
くれたまえ!」
「す、すばらしいですわ、コントロルさん…そこまでコムネットの平和のため
を思っていらっしゃるなんて、さすがリーダーですわ。今までの活躍ぶりを見
れば、すべてをコントロルさんにお任せできますとも。でも、どうでしょう…
コントロルさんのお考えを皆さんに行き渡らせるには、このミーティングの
時間は充分ではないように思います。ぜひ、改めて別の機会を設けてはいかが
かと思うのですが…ねぇ、犬養おじさま?」
  う、うむ、ハルナくんの言うとおりだ…犬養博士はゆっくりとうなづき、
一瞬キョトンとしたコントロルも、納得して座りこんだ。ヒーローであること
に執着する彼にしては、意外にあっさりとした引け際だが、前半の誉め言葉の
羅列が功を奏したようだ。全員が独演会から解放されホッとしていたが、一番
助けられたのは、犬養博士だっただろう。いったいまたどうしてコントロルは、
こうまで自意識過剰なソフトに仕上がってしまったのか…コレクターズ同士で
注意し合えばケンカになるだろうし、自分が頭ごなしに叱りつけたのではカド
が立つ。ハルナの機転に、博士は感謝した。

「では次に、シンクロ、別荘ネットのほうはどうかね?」
  博士の言葉に、静かに口を開いたのは、第二のソフト・シンクロ。協調能力、
そして火の属性を持ち、レイソードを操る武人でもある。グロッサー事件の折、
バラバラになったソフトたちの最後に見つかったのが彼だが、意外なことに
シンクロは敵の配下〈ウォーウルフ〉として洗脳されてしまっていたのだった。
それもこれも、その一途な性格ゆえの宿命だったのだが…
「俺の別荘ネットは、この時期特に、利用者が多い。今回はフェスタの開催に
合わせて規模を拡大したが、利便性を追求してはいない。通常の環境から離れ、
自然や、不便さに触れることが大切だと考えているからだ」
「さっすがワンちゃん!まさに、一匹狼って感じね〜」
  ユイに能天気な声に、ガックリと肩を落とすシンクロ。バグルスの後遺症で
ウォーウルフの姿に戻ってしまい、人間型に戻るのに、それはそれは苦労した
のだが…いまだにユイには、ワンちゃん呼ばわりされてしまうのだった。
「そ、それはともかく…今回は、エコの自然観察ネットとリンクして活動して
いる。別荘を利用する人は、自然への興味を強く持つ人が多いからな」
  シンクロに話をふられて、目を輝かせながら、うん、そうなんだ!とうなづ
くのは、第四のソフト・エコ。環境保全能力を持つエコは、コレクターズソフ
ト唯一の少年型である。自然環境を操る能力を持つ彼は、コムネット内での人
間たちの横暴な振る舞いに怒り、心を閉ざしていた。コレクターズに打ち解け
るきっかけを創ってくれたユイには、姉を慕うような気持ちを持ち続けている。
ウォーウルフへの葛藤から、シンクロを憎んでいた時期もあったが…
「シンクロには、とても…助かってる。犬養博士にコムネットニュースで、
捨てられた電脳ペットのことをに知らせてもらったおかげで、たくさんの人に
手伝ってもらってるんだ、お金とか関係なく、ボランティアって形で。
そうそう、フォローにも手伝ってくれてるんだよ!」
  エコの言葉に、福々しい笑顔をかえしたのは、第七のソフト・フォロー。
大地の力を持ち、変身能力を持つ彼は服従をつかさどるが、一方で大変なイタ
ズラ者で、さまざまな人や動物に変身し、みんなを驚かせたり怒らせたりもし
ていた。それでも憎まれないというのが、フォローの人徳か。のんびりと、
いつもの調子で。
「そんな、たいそうなことじゃないよ…みんなの応援をするのが、ボクの役目
だしね。エコのネットは居心地が良くて、手伝うのは全然苦にならないんだよ。
そうだよねぇ、ピース?」
  いきなり話をふられ、パイプをくゆらせていたピースは咳き込んでしまった。
第六のソフト・ピースは、シンクロと同じ火の属性をもつ。彼の能力は一風変
わっていて…どんな武器でも自由自在に生み出すことができるのだ。
だからといって好戦的ではない、むしろ闘いを好まず、一人でひっそり過ごす
のが好きな、頑固ジジイである。とかなんとか言いながら、傍らにはいつも
フォローがいて、ニコニコしてたりするのだが。
「わ、ワシは別に…暇で仕方ないからのぅ。こういったイベントにはあまり興
味が持てないのだがな。ユイ、おまえさんたちのような若い者たちには、お祭
り騒ぎも楽しいだろうが」
「もうっ、ピースったら相変わらずなんだからぁ…でも、コムネット・フェス
タは現実世界でもすっごい話題なんだから。ねぇ、ハルナ!」
「えぇ…フェスタに合わせて文化祭を繰り上げて開催する学校も多くて。夏休
み中を利用して、みんながんばって準備しています」
  そういえば、今は夏休みなのだ。夏休み中なのにわざわざ学校に呼び出され
て補習を受けているユイに、一同は呆れるを通り越し、むしろ感嘆していた。
が、当のユイは補習のストレスがたまっているのかどうか、むっつりふくれる。

「そりゃあ、彼氏のいるハルナは良いわよね…フェスタのメインイベント
〈メモリアル・グロウ〉だって、参加しがいがあるでしょうけど〜  なんだか、
すっごくロマンチックなイベントなんでしょ。電気を全部消して、蛍みたいな
光の中で、一時間過ごすなんて…ちょっと、ちょっと、犬養博士!」
「な、なんだね、ユイくん、いきなり叫んだりして……」
「叫びたくもなります、コムネットはみんなのものでしょ!老若男女の区別な
く、楽しく参加できるのがいいんじゃないですか!こんなカップル限定みたい
なイベントをメインに据えるなんて…そんなの、そんなのっ、ピースみたいな
お爺さんがかわいそうじゃないですか!」
  かわいそうなのは彼氏のいない自分だろ、と命知らずな声があがったりも
した。コレクターズは、遠慮が無い。
「確かに、メモリアル・グロウのメイン会場のチケットって、破格の値段で
取引されてるって、聞いたことがあります〜」
「バカげておるな、商業主義に煽られおって」
「理由はどうあれ、愛があればすべてオ〜ケ〜なのだ〜〜」
  レスキューとピースの発言(とコントロルの戯れ言)に、いまや円卓はハチ
の巣をつついたような騒ぎとなっていた。その勢いに乗って迫ってくるユイを
なだめつつ、犬養博士が慌てて弁解した。
「ま、待ってくれたまえ、ユイくん…それからコレクターズの諸君も聞いて
くれ。今回のメモリアル・グロウの、本質的な意味を」
  ざわついていたコレクターズも、博士の言葉に耳をかたむける。博士は、
両手を組み合わせて、静かに語りだした。

「知っての通り、コンピュータは電力によって動いている。昔…コンピュータ
ネットワークが芽生えた頃は、電力需要の拡大に発電能力が追いつかず、しば
しば大規模な停電が起こった。今では、考えられないことだがな…」
「今では、どんな街角にも、風力発電機が設置されていますものね」
  ハルナの言葉に深くうなづき、博士は続けた
「さよう、今では風力・太陽光・地熱などによる発電設備の効率化が進み、
電力不足によるシステムのダウンなどを気にせず、コムネットを利用すること
ができる。だが…だからこそ、電力に苦心した昔の事情に立ち返る意味で、
我々はメモリアル・グロウを企画したのだよ。電力を利用しない、発光体に
よるほのかな灯火のなかで、コムネットの原点を感じてもらうために…」
  博士自身が、かすかなゆらめきの中にいるように見え、チャットルームは
深海のような静けさに包まれた。
「おっと、いかんいかん。これはワシのような年寄りにとっての、意味合い
じゃ。ユイくんたち若者は、ぜひ楽しいイベントとして利用してくれたまえ。
恋人、家族、友人…大切な人との、思い出に残る機会にしてほしいのだよ、
この、メモリアル・グロウを」
  だから相手がいなきゃ、楽しいイベントにならないんだってば…とユイが
再び抗議に立ち上がろうとした時、ハルナが席を立った。彼女にしては意外な
ほど、大きな声をあげて。
「おじさま!よろしければ、メモリアル・グロウをご一緒しませんか?おじさ
まが一人でフェスタを過ごされるかと思うと、わたし…  コムネットを利用す
る皆さんが家族や、親しい人と楽しい時間を持つのでしたら……」
  ユイは、ポカンと口を開けたまま、親友の横顔を見つめていた。まさかハル
ナがそんなことを言い出すとは、思っても見なかったのだ。当然、彼氏である
富士タカシ…幼なじみのユイは親しみを込めて「バカシ」と呼んでいたが…と
過ごすものとばっかり思っていた。優等生のハルナと平凡なタカシがなぜ付き
合っているのかは理屈では割り切れないが、二人が本当に信頼しあっている
カップルであることは、誰よりもよく知っている、ユイだったから。今、これ
ほど思いつめた、真剣な様子のハルナの心の内を、ユイは測りかねていた。

「犬養博士!そのような意図でありましたなら、みどもがおつきあいするで
ありまする〜  みどもは犬養博士に作られたソフトでありまするから、いわば
家族でありますからして、そういう大事な時間を過ごすのは、当然のことで
ありまする〜」
  妙な奇声で飛び上がったタヌキ、もといロボットは、第八のソフト・IR。
フォローと同じく大地の属性を持つ彼は、もともとはユイをコレクターに選ん
だインストーラーであった。ユイがコレクターとして変身するためには、必ず
IRが必要だったのである。今となってはユイもハルナもコムコンを使って、
単独でコレクターに変身できるので、当初のように四六時中ひっついている
パートナーという役割からは少し離れているけれど、ユイにとって一番親しい
コレクターズソフトであるという位置は変わっていない。丸々と黄色く、コロ
コロと表情を変えるIRがそこにいるだけで、場の雰囲気が和むのである。
「…ありがとう、IR。ワシにとって、コレクターズ諸君は家族同然だ、一緒
に居てくれると言ってもらえて、本当に嬉しいのだよ。ただ…ワシは、コム
ネット総合管理責任者として、フェスタ当日はメインルームで待機することに
なるだろう。それに、実際のところメモリアル・グロウは、一人で過ごしたい
と思っていたんだ。コムネットのこれまで十年間を振り返り…先立っていった
多くの人々の思い出に、静かに浸る時間にしたいのだよ」
  亡くなっていった人たち…ユイは、ハッとした。愛ちゃんのお父さんの篠崎
博士、それに、コムネットを恨んでいたあの黒川という人…そんな風に、
死んでいった人たちへの、レクイエムとするつもりなのだ…
(アイちゃんも、お父さんのことを思い出しながら、メモルアル・グロウを
過ごすのかな…)

  いつも明るいユイがいつになくしんみりとした様子なのをチラとながめ、
アンティが…わざと声を高めて、話し出した。第三のソフト・アンティは、
コントロルと同様に風の属性だが、能力は少し違い、未来予測・予知の力を
持っている。冷静で美しい大人の女性で、コレクターズの信頼も厚い。一同を
陰で率いているのは彼女というのが、もっぱらの評価だ。
「…ともあれ、メモリアル・グロウのおかげで、私の恋占いネットも毎日盛況
です。きっかけはどうあれ、人々が自分の思いに正直になって相手に向き合お
うとしていくのは、とても良いことですから」
「う〜ん、君も自分の気持ちに正直になったらどうだ、アンティ〜」
  コントロルのいつもの口説き文句は、いつものように軽くスルーされた。
「わたしも救急医療ネットのお仕事の合間に、アンティさんのお手伝いに行く
つもりですから、何でも言いつけて下さいね〜」
  ニッコリと微笑む少女は、第五のソフト・レスキュー。エコと同じく水の属
性を持ち、保護の能力を持つ彼女は、コムネットの医療担当ソフトであると同
時に、コンピュータウイルス探知能力によってコレクターズの活躍を支えてき
た。女性型コレクターズソフトでも、アンティとはかなり違う個性があり、
ささいなことで衝突することもあったが…いまは上手く付き合っている。

「アンティはすごいよな〜本当はボクも、自分の力で自然観察ネットをやって
いきたいんだけど…独りで頑張ってるアンティは、本当にスゴイよ!」
「その通りだぞ、エコ。アンティはスゴイ、スゴイ女性なのだ!だからしばし
の休息は、ぜひ俺の腕の中で……」
  コントロルの独り言はきっちり無視し、アンティは微笑んだ。
「ありがとう、レスキュー、エコ。でも、私は私のできる範囲でネットを運営
しているだけよ、特別のことではないし…  ネットの管理は、人手が必要な時
というのが必ずあるから、そういう時は助け合っていくべきだわ。エコ、捨て
られた電脳ペットの問題とかは、みんなで考えていかなければいけないことだ
から…無理せず、たくさんの人に協力してもらう時なのよ、今は」
  うん!とエコが満面の笑みを浮かべたところで、コレクターズのミーティン
グはお開きとなった。

「バイバイ、ユイ!またボクのネットに来てよね!!」
「やれやれ、暇つぶしに、少しは手伝ってやろうかのぅ…」
  元気なエコと、ブツブツ言うピースが、結局同じ自然観察ネットに帰っていっ
た後、ユイはもじもじと口ごもっていた。ハルナに、先ほどの妙な様子を問い
ただしたかったのだが、何と切り出したものか、きっかけがつかめなかった。
そんな気配を察するのは、フォローの得意中の得意。
「ユイちゃん、ハルナちゃん、コムネット・フェスタ、楽しみだね〜」
「う、うん…そういえばフォローは、メモリアル・グロウを誰と過ごすの?」
「アハハ、たぶんピースとだよ。なんだかんだ言ったって、ピースもボクらと
過ごすの好きなんだもん。あれ?ピース本人にはまだ聞いてないけどね。ボク
はエコのネットで、一緒にのんびりしたいなぁって、思ってるんだ。じゃあ、
またね、ユイちゃん」
「そっかぁ、じゃあまたね、フォロー。って、あれーっ、ハルナまでいなく
なっちゃってる!もう〜なんなのよ、一体…」
  周りを見渡すと…犬養博士も現実世界に戻り、今はまたしても性懲り無く
アンティを口説くコントロルと、そんな二人を苦笑しつつ眺めているレスキュー
とIRが残るばかりだった。いや、もう一人…

「ワ〜ン〜ちゃん!な〜に隠してるの、見せてよ!」
「う、うわぁぁ、ユ、ユ、ユ、ユイ!!」
  あからさまに不自然な行動のシンクロに、ユイは首をかしげた。
「変なの…いつものワンちゃんと違うなぁ。その隠したのってひょっとして…
愛用の骨?あれ、どうしたのよ、床に手なんかついちゃって。土下座?」
「違う!だいたいなぁ、俺にはシンクロって名前が…」
「いやぁ、なんかわたしって、見た目にとらわれちゃうタイプみたいで。
条件反射ってヤツよ、ほら…パパイヤの犬、だっけ?」
「パブロフの犬、だろ。いいかげん犬から離れろよ…今の俺の、どこがワン
ちゃんなんだよ」
  そう言われてみると、目の前に立っているのは、かつてのウォーウルフ…
青い甲冑に身を包み、グラスの奥に冷たい瞳を光らせていた狼人間ではなかっ
た。浅黒い肌、大きな鋭い瞳、意志の堅そうな口元などは、誰が見ても美男子
に作られているコントロルと比べたら、好みの分かれそうな容姿であるけれど
…いかにも武人らしく、それなりに凛々しい青年である。
「もう、俺の名前忘れたのか?見かけによらず、早くもボケが来たのかよ」
「な、なんですって!そんなに言うなら、遠慮無く呼んであげるわよ、シン…」
「シンクロ〜!!トレーニングに行くぞ、ついてこい!汗を流し、一時の痛手
から立ち直ってやる〜  アンティ、気が変わったらすぐ連絡してくれ、俺の
スケジュールはいつでも君のために空けておくからな。行くぞ、シンクロ!」
「あらら、行っちゃった…なんだかんだ言って、仲良しよね、あの二人。
あ〜!もうこんな時間〜補習抜け出して来てたのよね、いくら256倍って
いっても、まなみ先生に怒られちゃう〜〜  じゃあねみんな、またね!!」
  一陣の風のように走り去っていくユイの後ろ姿を見送りながら、レスキュー
はつぶやいた。
「…結局、まだ渡せていないみたいですねぇ……」
「ま、シンクロどのらしいといえば、らしいでありまするけれども〜〜」
  ふぅ、とアンティもつい、ため息をついてしまった。
                                                    (04/07/21掲載)

  メモリアル・グロウ  chap.2「メモリアル・グロウ」TOP百草園 topHOME