<ビッグブラザー(Big Brother)>(2002.5.20)


 英語でbig brotherといった場合、普通は「兄」のことを指す。
 が、語の最初を大文字にした場合、独裁者や統治者といった意味でも用いられる。

 由来は、ジョージ・オーウェル(1903-50)の小説「1984年」。
 全体主義の極限状態を描いたこの小説の中で、世界を3分割する超大国の1つ・オセアニア国を統治するのが「偉大な兄弟」=「ビッグブラザー」である。


 オセアニア国では、政府の発表を流す「テレスクリーン」は、同時に盗聴器の役割も果たし、国民は常に監視されている状態だ。
 しかし、洗脳された国民たちは、その状態に何の疑問も感じない。


 町中のいたるところに貼られているビッグブラザーのポスターに書かれた、

 "Big Brother is watching you"
 (偉大な兄弟があなたを見守っている)

 の言葉は国民に安らぎを与える言葉なのである。

 小説の主人公はこの状態に疑問を持つようになり、1984年4月4日に禁止された日記を付けはじめる−−

 というのが小説の始まり。
 使う言葉すら制限される中で、人間がどのように洗脳されていくかが、克明に描かれている。


 オーウェルは、英国の評論家であり、小説家。

 「1984年」は1949年、ソビエトのスターリン支配に触発されて描かれた作品と言われるが、オーウェルの思想が反共主義にとどまるものでないのは、「動物農場」(1945)の序文にある次のような言葉からも明らかだ。


 「おそらく、この本が出版されるころには、ソビエトについてのわたしの見解は広く社会に認められているのではないか。
  だが、そのこと自体には何の価値もあるまい。
  一つの正統思想からまた次の正統思想に変わってみたところで、必ずしも進歩したことにはならないのだ」
 (「出版の自由」より)


 欧米のマスメディアでは今も、管理主義的な社会のことを「オーウェル的世界」といって忌み嫌う論調が強い。

 「戦争は平和である 自由は屈従である 無知は力である」

 これは、「1984年」のオセアニア国で、国民に刷り込まれるスローガンだが、今後、このような社会が訪れないことを願わずにはいられない。


<参考文献>
ジョージ・オーウェル著、新庄哲夫訳「1984年」ハヤカワ文庫
小野寺健編訳「オーウェル評論集」岩波文庫

《編集後記》
 今号を書こうとして、「1984年」を読み返していたら……
 いやー、本当におもしろい。
 オーウェルの、緻密な構成力に引き込まれ、時が経つのを忘れます。

 しかし、異論を許さぬ全体主義的な空気、というものは、日本社会にとって
は人ごととは思えぬのですが。