出石素人そば打ちツーリング
私が池波正太郎氏の時代小説に手を出し始めたのがちょうどこの頃。そして氏の作品中に度々出てくる「蕎麦」にハマり出したのもちょうどこの頃から。
関西はうどん文化のお国柄なせいか蕎麦屋が少なく、神戸近辺で美味しくて安い蕎麦を出してくれるお店はあんましないので、私は満たされない思いをしていた。
そんな折、同僚・ファルコン美和ちゃんが「出石ツーリング」を企画してくれたのは、とってもタイムリーだったのだ。
AM7:00、神戸を出発。やや曇っているため少し肌寒い感じだった。R428を北上し、二軒茶屋のファミリーマートでファルコンと合流。
彼女の後ろについてR428から吉川町に向かい快調に走っていたのだけど、ふと見ると彼女のバリウスのチェーンがどうもヘンな雰囲気。どう見てもチェーンがたるんでいる様子。
赤信号で停止したときに「大丈夫?」と尋ねてはみたものの、「まあなんとかなるでしょ」の一言。
ゴルフ場まみれの吉川町を抜けて、R176へ。傍目に見える水田には早くも苗が植えられ、辺り一面緑色の絨毯と化していた。途中、鐘ヶ坂のお土産物屋でトイレ休憩。
この日は休日だと言うのに交通量は少なく、柏原町についたときは予定より1時間も早かった。ここでファルコンはチェーンに多少の不安を感じたのか、オートバックスに飛び込み、スプレーワックスを調達。気休めの応急処置を済ませて再出発。
氷上町からは青垣柏原線を北上。傍らの加古川がキレイだった。
穏やかな日差しの中、R427に突入。ツーリングマップルを見てみると遠坂界隈は「シカに注意」とある。
私たちが行ったときはもちろん出てはこなかったが、出てきても不思議ではないところ。野生の鹿、一度ぐらい見てみたいけどね。
クネクネ道の遠坂峠をクネクネと抜け、和田山町へ。「わっだやまたけだか〜ぐ♪」と一人でわめきながら和田山出石線へ突入。ここの峠、キツかった〜!
対抗車が全くなかったから良かったようなものの、狭い車線は正直言ってちょっと怖かった。
しかしこの交通量の少なさは(たまたまこの時だけだったのかもしれないけど)特筆モノ。下手に国道を使うよりも早く豊岡市などへ抜けられると思う。
AM11:30、出石町に到着。R426沿いに「蕎麦打ち教室」なる張り紙をした店を発見し、停車。ここが町外れだったためか店は空いていた。
店のおじさんに早速蕎麦打ちを申し込む。案内されたのは「家庭科実習室」みたいな広い厨房。手をきれいに洗って、前掛けをつけて準備完了。
調理台の前で待ち構えているとおじさんが団子状態になった蕎麦生地を持ってきた。てっきり粉から扱わせてくれるもんだと思っていたが素人には無理との事だった。
大きなまな板の上で生地をぐにぐにと練りこみ、打ち粉を撒いて長い麺棒で伸ばしていく。これが結構難しい。私は料理はやや得意な方なので「楽勝やで」なんて思っていたが、甘い考えだった。
生蕎麦は小麦粉を使ってないんで粘り気がない。これだったらパイ生地の方が楽である。ちょっと油断するとバランスが悪いのか生地がデコボコになる。隣のファルコンを見てみると、彼女も悪戦苦闘していた。
苦労しつつも生地を伸ばし終えて畳んで切りにかかった。レール上に固定されたでっかい包丁で切っていくのだが、結果は惨憺たるものだった。
まず生地の伸ばし方が悪いので麺の太さが均一でない。包丁の下ろし方が悪いのかブチブチと麺が切れてしまう。
出来上がったのは溜息が出るほどぶっさいくな蕎麦だった。それでも苦労して作ったんである。人も食べ物も見てくれで判断してはいけない。きっと美味しい皿蕎麦になるだろうとささやかな期待をよせた。
厨房を出てぶさいくな蕎麦が茹であがるのを待った。昆布の利いたそばつゆに薬味をたっぷり入れて待っていると、ようやく皿蕎麦登場。でてきたモノはやっぱしぶっさいくだった。
中途半端な麺をつゆに漬けて啜りこんでみると...まずかった。まずいのなんのって、あんなにまずい蕎麦を食べたのは後にも先にもこの時だけだ。もう二度とお目にかかりたくはない。
たった五皿の手作り蕎麦だったが、食べるのが辛かった。あまりのまずさにファルコンと力なく笑うしかなかった。
次は職人さんが打った蕎麦が出てきた。こちらの方はとてもいいルックスをしている。食べてみるとコシも香りも十分な美味しい蕎麦である。時として見てくれはとても重要な判断基準だと思い知った。
まずいのを含めてファルコンが15皿ほど、私が20皿+天ぷらを片付けてランチ終了。(食べた量に大差があるのに割り勘にしちゃった。ごめんねファルコン。)
蕎麦屋を出て、出石町公会堂(?)にてバイクを止めた。ツーリング日和なせいか数十台のバイクが止まっている。きっとこのライダー達もまずい蕎麦を打っているのだろう。
町中は観光客と観光バスでごった返していた。人ごみを掻き分けてまずは出石城跡へ。大阪城や姫路城みたいな大きな城もいいけれど、こじんまりとした出石城も趣きがあってなかなかよろしい。
城跡から町を眺め、櫓時計の下で写真を撮リ、みやげ物屋で蕎麦粉を買って(まだ懲りてない。自宅でリベンジするつもりだった)観光終了。
出石町に別れを告げ、R426からR482へ。天気が素晴らしく良くなってきた。前走のバリウスのエンブレムがぴかぴか光っていたのが印象的だった。
神戸より空気がきれいなせいか日差しがきつかったので、ここぞとばかりにGジャンを脱いでTシャツだけになった。陽光と風を受けながら田舎道を走るのはやっぱり気持ち良い。この時ばかりは四輪にたいして「ざま〜みろ」なんて気持ちになってしまう。(ホントは上着着てないと危ないんだけどね。)
R426から但東町に入って、「但東シルク温泉」へ。(入浴料500円ぐらい)もしかしてと思って持ってきたお風呂セットが役に立った。観光客がごった返していたけれど、中は結構広かった。露天風呂に打たせ湯、サウナまでついていた。
大きな湯船に飛び込んで体を思いっきり伸ばすと、背骨と肩がぱきぱきと音を立てる。バイクは楽しい乗り物だけど、どうしても背中に負担が掛かるものだと実感。そしてツーリングには温泉が付き物ってのも実感。
一人で納得していたら、いつのまにかファルコンが消えていた。探してみると彼女は露天風呂横の打たせ湯で肩をマッサージしていた。私も同じように湯に打たれてみると、これがなかなか気持ち良い。
しかし嫁入り前の女が、すっぽんぽんで並んで仁王立ちって言うのも問題か?
徹底的に体をほぐし、お肌に磨きをかけ終わって、再スタート。R426を南下して福知山市へ向かった。このR426、私にとって結構楽しいルートである。所々、くねくねした道が続いたかと思うと、長いストレートが水田を切り裂いていたりもする。
受ける風の中に土の匂いが混ざっていて、夏が近づいていることを感じた。思わず、この夏はいっぱい走ろうや、なんてことをGPXに語りかけてしまった。
珍しく空いていたR9に突入。市街地に入った頃から胃が音を立てだした。お昼にあれほどお蕎麦食べたのに...まったく私の胃はどうなっているのか。少しはGPXの燃費の良さを見習って欲しい。
情けない思いをしていると、いきなりファルコンがウインカーを点滅させ、喫茶店へと入っていった。彼女はほんの休憩のつもりで入ったけれど私にとっては渡りに船、ここぞとばかりにホットケーキを片付けた。
R9から舞鶴自動車道へ。ガラ空きの道をとばしていると、だんだんと日が沈んでいった。茜色の空の下でグリップを握っていると「帰りたくないなあ」って気分になる。
もしもBGMを選ぶのなら、カーペンターズの「イエスタデイ ワンス モア」あたりだろうか。
吉川JCTから中国縦貫へ入り、吉川ICに到着。この頃には日は完全に暮れていた。夜道に慣れていない私には、真っ暗なR428は怖かった。なのに地元民のファルコンは勝手にどんどん走っていく。女の友情なんてこんなもんなのね...
ひいひい言いながら簑谷に到着。ここでファルコンはR428を北鈴蘭台へ。私は新神戸トンネルの超直線を140キロで飛ばして帰宅。
家に着くなり、蕎麦打ちのリベンジをしてみたけれど...やっぱし、更に、とってもまずかった。 もう二度と蕎麦なんて作るもんかと心に誓ったツーリングとなってしまった。