■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 【珍獣の食卓】第13回 わるものからの挑戦状 2000年8月4日発行

======================================================================

 突然ですがピンチです。
 わるものから挑戦状がと謎の物体が送られてきました。

----------------------------------------------------------------------
        ちょうせんじょう

       ちんじゅうへ。
       このぶったいのしょうたいをあててみろ。
       いっておくが、いもむしではない。
       たべてもだいじょうぶなのであんしんしろ。
       1かい1こだ。わすれるな、1かい1こまでだぞ。

                わるものより

わるものから送られてきた物体の写真
----------------------------------------------------------------------

 ええい、ちょこざいなわるものめ。わたくしに挑戦しようなんて、1万年は
やいのですわ。おそらく珍獣様の美貌と人気をねたんだ者の犯行なのです。
やっつけてやらなくちゃなのですっ。こんなもの珍獣様の知恵にかかれば、
ちょちょいのちょいと、正体くらい見抜いて……う、ううむ、さっぱりわか
らんっ(汗)

 その物体は、たしかに芋虫のような形をしているのです(とにかく写真をご
らんいなってなのよ)。なんらかの植物を生のうちにぐるぐるにねじって乾燥
させたものだってことは分かるのです。
 こういった乾燥したブツの扱い方は、大きくわけて以下の2種類。
  1.水、またはお湯でもどして食べる
  2.お茶にする(もしくは出汁にする)
 挑戦状には「1回1個」だと書いてあるところを見ると、お茶か出汁にする
のじゃないかしら。

 とにかく、お湯をそそいでみましたの。大きめのマグカップに謎のぐりぐり
をひとつ入れ、たっぷりのお湯を注いで待つこと5分。
 ふうむ、少し開いてきたけれど、ぐりぐり自体を食べられる感じじゃないの
ですわ。ならばもどし汁をひとくち……

 んげっ、にぎゃい。ぐびゅ〜。

 たしかに害はなさそうだけれど、こ、これは殺人的に、にーがーい〜!!
あまりの苦さに頭痛すらおぼえるほど。
 ぐりぐり1個につきコップ1杯ではお湯が少ないのだと思って、今度は2リ
ットルくらい入るヤカンにお湯をわかし、ぐりぐり1個を放り込んでみたので
すが……うーん、今度はまあ飲める味になりました。でもやっぱり苦い。
 苦いんだけど、不思議と爽快な気分になるお茶です。熱いまま飲んでいるの
に、体が火照ってきません。むしろ涼しくなる感じ?!

 とにかく、こんな苦いのが出汁になるわけありませんことよ。おそらくお茶
ですわ。しかも、日本茶や烏龍茶にする植物とは別の、薬草茶のたぐいなので
す。一体なんのお茶??

 そうこうしているうちに、わるものから2通目の手紙がとどきました。

----------------------------------------------------------------------
        ひんと

       どうだ、わからないだろう。
       おまぬ〜なちんじゅうのことだ、
       そのまましょくして もんぜつしているにちがいない。
       しんせつなおれさまが、ひんとをくれてやる。

       それはちゅうごくというくにのおちゃだ。
       「ぶつぞうのかみのけ」といういみのなまえがついている。
       1かい1こだ。ながくむらしてはいかん。
       わかったか。1かい1こだぞ。

                わるものより
----------------------------------------------------------------------

 きーっ、わたくしにもお茶だってことくらいわかりましたことよ。でも、
なんという植物のお茶なのかわからないのですわ。
 とにかく、ぐりぐりのままじゃまるっきり正体不明なので、お湯で充分にふ
やかしてみたところ、このような物体に変化いたしたのです。

ふやけた物体の写真

 葉っぱはいくらか厚みがあって、まわりに細かいギザギザがあって、樹木の
枝にも見えるけど、もしかするとごっつい草かも。こんな状態じゃ、やっぱり
ぜーんぜんわからな〜い。
 もちろんインターネット上を検索もしてみたのですわ。「中国茶 仏 髪」と
いうキーワードで探してみたけどダメ。

 そうだわ、こんな時こそ珍獣がほこる東北の英知、書店員で薬剤師なおとも
だちにSOSのお電波びびび(←ようするに他力本願)。

----------------------------------------------------------------------
        へるぷみ〜ぷり〜ず

       しょうたいふめいのわるものから、こんなのとどいたの。
       ちゅうごくのおちゃなの。
       「ぶつぞうのかみのけ」といういみのなまえで、
       まちがっても、う○ちやいもむしではないのね。
       のんでもだいじょうぶだけど、1かい1こまでなのよ。
       それいじょうつかうと、
       がいはないけどしぬかもなのでちゅうい(むじゅん)。
       じゃあ、あとはよろしくなのよ。

             ちんじゅうより
----------------------------------------------------------------------

 こうして謎の物体は、正義の味方郵便屋さんの手によって野を越え山を越え、
東北は岩手県まで運ばれたのですっ。
 そして数日後。おともだちから次のような怪文書がとどきました。

----------------------------------------------------------------------

        おへんじ

       ブツはたしかにうけとっただわ。
       これはたぶん、
       クーディエン茶(苦丁茶)というものだわよ。
       『中国名茶館』という本に
       そっくりな写真があるのだわ。
       福建省ではクーディエンの木からつくるけど、
       よその省ではオトギリソウ科のしょくぶつから
       つくったりするそうなのだわ。
       のみかたはおゆをそそぐだけ。
       あじは、あまくてさわやかと、
       本にはかいてあるけれど、
       実際に飲んでみると……うぎゃ〜!☆△*#※
       たしかにこれはほんとうににがいのだわ。
       いったいなじぇなのよ。

       というわけで、
       よくわかんないけどそういうことなので、
       わかっただわね(むじゅん)。

            おともだちより
----------------------------------------------------------------------

 さすがは珍獣が誇る東北の英知。手紙も漢字まじりで知能指数の高さをかい
まみせているのですわ。珍獣はさっそく『中国名茶館』という書物をさがしに
本屋さんへと急行いたしたのです。ええ、近所のイトーヨーカドーまで、お買
い物ついでに。
 あった。ありましたわ。最近出た本らしく、料理コーナーに平積みされてい
ましたの。たしかに、わるものから送られてきた謎の物体とそっくり同じもの
の写真が載っていますわっ!!

◎中国名茶館の詳細データ(amazon.comの書籍検索より)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4471400029/ref=sr_aps_b_/249-3676117-3283514
  珍獣のおともたちによれば「写真もいっぱいで解説も詳しくて、けっこう
 良い本なので、願わくば 中国茶を愛する人の目に止まってなるべく売れて
 ほしいなーと思っています」と、まさに書店員の鏡のような発言。
  珍獣も見たけど、中国茶の魅力たっぷりの本なのよ。

 さて、その本には、たしかに甘くて爽やかと書いてあるのですが、謎の物体
の抽出液は、どう贔屓目に見ても甘くはないのです。苦いっ。ひたすら苦い。
 たぶん、本に書いてあるのと味が違うのは、苦丁茶の原料が1種類じゃない
ってことと関係がありそう。とにかく「苦丁茶」というキーワードで再度検索
してみたのね。
 キーワードセット「苦丁茶」検索ごー!

 うおお、あった、あったのですわ。ここ、ここ見てくださいなのよ。なんか
読みにくい文章だけど(人のこと言えるか)、苦丁茶について詳しく書かれて
いますことよ。

◎苦丁茶について詳しく書かれているサイト
 http://www5a.biglobe.ne.jp/~kanan/kuding2.htm
  お茶の通販をやってるサイトらしいですわ。

 このサイトによれば、「苦丁茶」は大まかに言って
   1.藤黄科の喬木(あんまり出回っていない)
   2.木犀科の何か(葉っぱが薄くてパラフィン紙みたい。味は甘い)
   3.冬青科の枸骨刺種(とにかくにぎゃい)
というものが出回っているふうですわ。どうやら『中国名茶館』に出てくる
「甘くて爽やか」な苦丁茶は、木犀(モクセイ)科の植物ですわ。

 すると、わるものから送られてきたブツは、味の点からいって「冬青科の
枸骨刺種」というやつなのかしら。

 ところで、冬青科って何?
 植物の和名に、そんなのあったかしら。
 はっ、もしやこれは、中国語をそのまま書いてるだけ?!
 ぬるい、ぬるいぞお茶の通販屋(文章もどっかから引き写して来たみたいな
感じだし)。そんなことではダメダメなのですわ。日本人ならお茶漬けだろう
とラモスも言っていたじゃありませぬかっ。

 そこでわたくしはさらにサーチいたしたのです。検索ですわ。波乗りですわ。
日本じゃなくて、今度はちゅーごくの波に乗ったのですわ。こんなときのため
に、珍獣様のパソコンには中国語フォントがいんすと〜るされているのですわ。
 そして、答えは中国な林業試験場のページにありました。冬青科はラテン語
(学名)でいうと、Aquifoliaceae というらしいのです。それさえわかれば
こっちのものなのよ。
 ラテン語の科名はここへゆくと意味がわかりますの。

◎磯キリンのガーデニング道楽(ラテン語植物科名索引あり)
 http://plaza.across.or.jp/~harikyu/herb/herb.html

 Aquifoliaceaeは 和名でいうと……モチノキ科!!
 おお、それならわかるのですわ。クロガネモチとかタラヨウなどが、モチノ
キ科の植物ですことよ。

 さてさて、わるものとの戦いは佳境をむかえました。みなさまそろそろ飽き
てきた頃と思われるので、根性をいれて先を急ぐのでございます。
 中国のサイトをいくつかまわってみると、どうやら苦丁茶はあちらで大人気
らしく、通販ページや解説のページがけっこうあったのです。

 そこでわかったのは、モチノキ科で、一般に苦丁樹と呼ばれている植物は
和名でいうと「シナヒイラギ」という植物のようです。中国のサイトのURLだ
と、フォント入ってない人はブラウザが落ちるかもなので、日本のサイトで
写真をどうぞ。

◎シナヒイラギの写真があるサイト(植物園へようこそ)
http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/BotanicalGarden/HTMLs/sina-hiiragi.html
  これは日本でもよく見かける庭木。中国名では「狗骨冬青」とも言うら
 しいです。
  葉っぱが尖ってて、赤い実がなるの。アメリカでクリスマスリースにす
 るのはこれの仲間ですわ(日本で普通ヒイラギって言ってる植物は実が赤
 くないでしょ)。
  シナヒイラギの葉で作ったお茶は、苦くて、体を冷やす作用があるのだ
 とか。

 でも、わるものから送られてきたものは、これとは葉っぱの形が違います。
これじゃないのですー。

 それじゃあ、やはりモチノキ科で薬になりそうな植物はというと、中国名で
「毛冬青(学名:Ilex pubescens)」っていうのがけっこうあやしいのです。
和名は調べてみたけどよくわかりませなんだ。
 中国なサイトの説明文によると「高さ3メートルくらいの常緑灌木で、葉は
卵形または長楕円形で、細かい毛が生えていて、先端がとがっている。縁に細
かいギザギザがある。実は直径0.4センチくらいで、熟れると赤くなる。味は
苦くて冷性」だそうですわ。日本でいうと、モチノキ科のウメモドキっていう
のとちょっと似てるかも。
 ただし、こっちは薬にするときは、主に根っこを使うらしいのです。悪者か
ら送られてきたブツは、葉っぱでした。

[追記]でも、薬にするときとお茶にするときで、違う部分を使う植物ってけっ
こーあるですわ。しばらく前に流行った杜仲茶も、お茶で飲むときは葉を使う
薬にするときは樹皮を使うことが多いらしいし。

 結局、はっきりとこれだーというのには出会えなかったのですが、味の点な
どを考えると、どうやら中国名でいうと毛冬青というモチノキ科の植物に近い
種類じゃないかって気がいたしてきたのです。
 わるもののヒントにあった「仏の髪の毛」という言葉は見かけなかったので
すが、おそらく苦丁茶の中でもぐりぐりっと捻って丸めた形状のものを、お釈
迦様の螺髪(ようするに天然ぱーまのことですわ)に見立てて呼ぶことがある
のでせう。

 というわけなので、よくわかんないけど、わかったか!>わるもの
 (やっぱり文章に矛盾があるようなきがする。でもきっと気のせい)

---おまけ知識---------------------------------------------------------
藤黄科の喬木
  たぶん、「オトギリソウ科の高い木」という意味だと思うー。おともだち
 が教えてくれた本にあった「オトギリソウ科の植物」というのは、これのこ
 とらしいけれど、これだけじゃ種名まではよくわかんないにゅー。
  ちなみに「藤黄」って単独で言うとオトギリソウ科の樹木の名前で、樹脂
 を日本画に使うから広辞苑にも載っているの。でも、どういう樹木なのかは
 見たことないのでわかんないの。

木犀科の何か
  木犀科は日本語でも読んでそのまま、モクセイ科のこと。キンモクセイと
 かヒイラギがこの仲間。モチノキ科の樹木と雰囲気が似てる植物が多いので、
 お茶も同じ名前で呼ばれてるのかも(でも甘いのに苦丁茶って、変)。
----------------------------------------------------------------------

 にが〜い苦丁茶ですが、健康にかなりいいらしいです。たっぷりの熱湯で入
れて冷蔵庫で冷やしておくと、夏場はおいしく飲めそう。どこかで見つけたら
チャレンジしてみてなのよ。仏の髪の毛みたいな形のものだけじゃなく、普通
の茶葉みたいになってるのもあるらしいです。

 なお、今回の配役は...
   わるもの ひろこ様
  おともだち たく☆様
以上のおふたりでした。みなさま、拍手をよろしくなのよ。

======================================================================
メールマガジン【珍獣の食卓】第13回 2000/08/04
マガジンID:0000032034
発行者:珍獣ららむ〜
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

[追記]
 ここで苦丁茶=シナヒイラギとしたのは、中国のサイトにシナヒイラギの学名を
載せてるところがあったからです。でも、中国で一般的に苦丁茶と呼ばれているの
は、どうやら同じモチノキ科の「苦丁茶」という名前の植物で、シナヒイラギとは
別のもののようです。日本には自生していないのか、正式な和名はよくわかりませ
んが漢字を音読みして「クチョウチャ」もしくは「クテイチャ」と呼ぶのが適当だ
と思います。
詳しくは【珍獣の食卓】第75回「苦丁茶の謎はとけるのか?」をどうぞ。

 また、シナヒイラギの中国名は狗骨冬青だと書きましたが、台湾のサイトで改め
て検索しなおすと「構骨」という名前をたくさん見かけます。呼び方は色々ありそ
うです。
 この号を書いたころ、中国のサイトは今よりずっと少なくて情報も入り乱れてい
ました。さらに珍獣様の勉強不足などもあり、おもいっきりアヤシゲである可能性
が高いです。今あらためて調べなおすと、もっと面白いことがいろいろわかるかも
しれません(中国の話にかぎったことではないですが、中国関係はとくにその可能
性が高いです)。