栽培と管理 
2000/ 1/10


3月の栽培

 会誌「サキュレント」96年3月号掲載記事より(筆者N.W. 東京都在)

 マーチ(March)に待った,百花繚乱の季節の到来です。身を切る朔北の風も,厳しい氷雪も,季節を先取りするかのような枕丁花や梅の香りと共に何処かに消え去った今日この頃です。皆様ご自身は申すまでもなく,愛培される植物も変わりなく冬越しされたでしょうか?

 一方,関東以北の寒冷地や白本海沿いの豪雪地帯の皆様には,春は名のみ,無事に過ごされるよう祈らざるを得ません。冬日本海沿いの各地は,さぞや冬越しに苦労されたことと存じます。このようた環境下では,植物育成用の蛍光ランプを設置して,少しでも太陽光の補助としたらどうでしょう。この器具を使って,ガラスケースの中で,セントポーリアなどを作っているのをよくデパートなどで見掛けますが,……。

 ついでの話ですが,強光線を嫌い,拙宅では棚下で作っているハオルチアやガステリアを古い熱帯魚飼育用の水槽の中で作っていますが,ツヤツヤ,ポッテリと育ち,具合は非常に良好です。ガラス蓋は冬中閉め切ったままで育てていますが,気湿は飽和状態でこれが気に入ったのでしょう。鉢の用土は根腐れ阻止のため米粒大以上のものを用いています。いわば,エアプラント並みに空湿で育てる方法です。但し,この作り方は,夏になる前までで,暖かくなるに従い,除々に蓋をずらして外気に馴らし,真夏は容器から取り出して蒸れ腐るのを防ぎます。

 因みに,ハオルチアやガステリアは,暖かくなるこれから盛んに花を咲かせますが,観賞価値のほとんどないこれらの花は,徒らに植物体の勢力を殺ぐことになるので,交配の目的があるほかは早めに摘み取ることです。また,現地の写真などを見ると,両者とも遮蔽物のない場所に,真赤に陽焼けした姿で自生しているのを見掛けることがありますが,これも長大な根を張ってこそ生きのびられるもので,鉢植えなどでは生長を停止,到底まねのできないことでしょう。急激な気温の低下で発生する濃い夜霧で生気を取り戻し,こうした苛酷な環境にも耐えられる秘密がありそうです。

 今月から,植替え,繁殖の最盛期を迎え,作業は大忙しとなりますが,用土・鉢・置き場所の準備はぬかりなくやっておきましょう。

 間伸びして姿が悪くなったセダム・エケベリアアエオニウムなどは,切りつめて更新を図る好期ですので,躊躇なく切断することです。切断する個所は,昨年伸びたまだ青味のある部位がよく,年数を経て木化した所で切断すると,上の部分は発根が,下の部分は仔吹きが思わしくなく,そのまま枯れてしまうこともあります。切り取ったロゼットは,直ちに床土に挿さず,半陰の場所に転がしておくだけでもよく,暖かくなるにつれて発根も早くなるので,その時に植込んで直ちに水やりを開始します。但し,茎や菓が細く,あまり保水力のないものは,衰弱を避けるため直ちに湿気を持たせた床土に挿したらよいでしょう。

 貴重種の繁殖,保全には,種子播きは欠かせない作業のひとつです。種子播きは,加温設備が完備していれば,寒冷期にも実施できますが,今月下旬から4月にかけて気温も安定してきますので昨秋以来保存しておいたいろいろの種子を播く好期です。まず,ぬるま揚を注いだグラスに種子をカプセルごと漬けてかきまぜると,種子はカプセルから離れて,グラスの底に沈澱します。更に指先でカプセルをもみほぐし,残った種子を全部放出させます。ついで,ピンセットなどで空カプセルや爽雑物を全部取り除いた後で水を捨て去り,更にチり紙などで底に残った水分を吸いとります。こうしてグラスの底に残った種子を白紙の上に拡げて水気を完全に除けば種子だけが回収されます。

 播き方は,いろんな書物に記載されているので省略しますが,以前は,播き床の鉢ごと蒸し器に入れて殺菌したものぜすが,こうした手間を省き,私は殺菌剤(トップジン)を筆先につけたものを用土の全面に振りかけるだけで済ませます。播き土は,砂・赤玉・鹿沼・桐生などのミジンに近いものを使い,表土から1〜2cmの深さに,マグアンプKを薄目にバラ撒いておきます。これに均等に種子を播き,水を張った皿で腰水させ,ガラス蓋を冠ぶせて柊了です。これだけですと,吸水した鉢の側面から気化熟を放散して用土が冷えるので,全体をビニール袋などで包むことをお励めします。

 発芽後は,直ちに植替えるのがこれまで普通に行われていましたが,何分にもひ弱い微小な苗は,根に傷を受けるため枯死率が高いので,そのまま1年間は植替えせずに過ごさせ,苗が充実した段階で植替えたほうがよいようです。いささか自己流のそしりを免がれませんが,私はこの法がベストだと思っております。従来の,一教科書的な作り方を憤然と踏襲するのではなく,たとえ試行錯誤を繰り返しながらも,新しい分野を開拓してゆくところに進歩があると思いますが・・・…。ついでながら,ハエマンサスのように,果肉の付いた種子は,果肉の部分に発芽抑止物質が含まれていることがあるので,これを完全に取り除いて下さい。

 時折り「冬も普通に水をやるのですか?」という質問を受けることがありますが,冬型種は,たとえ肌寒い日が続いても,鉢土が乾いていたらタップリ水やりを続けます。菓や球体にテリ(輝き)がなく,何時もクタクタの状態は水不足が原因です。充分に水やりをして,ピーンと張りつめた姿にしましょう。それでも生気を取り戻せないものは,根の故障が考えられますので,鉢抜きして根を調べることです。メセン類を始め,冬型の各属・種のものは,これから当分の間,気嫌よく生長し続けるものです。

 終りに今年は,センペルの寄せ植えを楽しんでみませんか? ヨーロッパ原産のこの植物は,耐寒と耐乾の両性を備えた高山性の多肉植物で,寒さには抜群の強さを発揮しますが,泣き処は高温と蒸熱に弱い点です。春から初夏にかけて爆発的(?)とも思われる生長を示し,最高の見せ場を作ってくれますが,今が植替えの最適期となります。戸外から室内に取り込み,枯れ葉や根を整理して植え込みますが,平鉢に岩石を配し,自生地の景観を祐彷(ほうふつ)させる鉢植えを作るのは楽しいものです。

 植え込んだ後は,明るい棚下などで水切れのないよう管理して除々に陽光に馴らし,4月に入ったら戸外に出すようにします。この植物は,ワタムシの被害を受け易いので,用土のダイシストンなどを混ぜるなり,少しでも虫を見たら殺虫剤をスプレーして予防します。

 サボテンも,白系マミラリアなどは可憐な花を鉢巻状に咲かせ,強刺類も美しい新刺を出し始める頃です。一年中で最も忙しいが,最も楽しいひと時ではあります。

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