栽培と管理 
2000/ 1/10


2月の栽培

 会誌「サキュレント」96年2月号掲載記事より(筆者N.W. 東京都在)

 2月の声と共に,寒さもいよいよ本番を迎え,酷寮の気候にも耐えられるメセムやオロスタキス・センペルなどの一部以外の冬型多肉類は,防寒・加温の設備のある温室やフレームの中でヌクヌクと育っていることでしょう。

 さてこの,厳冬期の大型温室では,真冬日(終日0℃以下)が続く寒冷地は申すまでもなく,関東以西の各地では密閉栽培が可能で,扉や窓の開閉が不要となり,大いに手間が省けますが,これはあくまで各自の温室の立地条件や被覆材料の光線透過率を考えてのことで,晴天で大気が澄んでいる日は,新設のガラス温室などでは真冬でも陽焼けすることがあるので注意が必要です。そのため換気扇(特に首振り扇風機)を回して,室内の空気を攪拌することは陽焼け防止のほか,徒長を防ぐためにも効果的な手段です。これもサーモスタットと連動すれば省力も万全となります。

 小型の温室やフレームなどでは,ケース・パイ・ケースで一概にはゆきませんが,最高温度が35℃程度ならまず密閉栽培は可能です。これも,大小適当な換気扇を設置することをおすすめします。多肉植物もサボテンも,大陸性気候で,昼夜の温度落差(日較差)を好む植物で、冬の温室でこそこれが可能となりますが,凍らせないことが最低の条件といえます。

 膨大な数にのぼるこれら植物群の大半は,夏型か冬型かの生育期が決まっていますが,極く少数のものに冬も落葉しないものもありますが,新葉を繰り出さず,生長が止まっているものは夏型ですから断水して越冬させます。

 冬の間は過剰な加温は不要で,最低5℃あれば申分なく,高温で過ごさせることは,春以降の生育に支障を釆たす恐れがあります。寒さに弱いものは,断水して過ごさせるのが賢明な策といえましょう。

 農作業では冬は農閑期,しかし温室園芸には農閑期はなく,今年1年の計画を練り,釆たるべき春の植換えや大量に必要な土作りの準備,ハサミやメスなど,用具の手入れなどなど忙しさは相変らずです。温室の中では,戸外より1ケ月ほど早 く春を先取りするということで,2月も終るころ(東京)になると,そろそろ本作業に取り掛かります。

 先ず,エケベリア・セダムなどの茎の間延びしたものはカットして,空鉢か用土の上に置くだけで自然発根を待ちましょう。大型アユオニウムの各種は胴切りや芯えぐりにより,姿のよい複数の株立ちを作るのもこの時期が通しています。黒法師などは芯えぐりすると十数本の新芽が発生しますが,芽吹きして数本を残すことにします。センペルなど,酷暑を嫌い初夏のころまでに生長の盛期を迎えるものなどは,この時期に温室内に取り込み,用土を更新してしばらくの間,棚下などで水やりを続け,除々に馴らし,凍結しなくなったら戸外に出しましょう。

 ついでに,植換えはこれから生長期に入る春先か秋口に行うのが理想的で,3号鉢なら毎年,それ以上の鉢なら,2〜3年毎に行いたいものです。忙しいとこれも延びのびになりがちですが,1年程度ならさほど支障はないですが,それ以上放置すると,目に見えて生長が純ってくるのがわかります。特に生長の早いものほど,この傾向が強く現れます。

 多肉類は,極端なpHの用土を除けば,どんな土でも育つほど強健な植物といえましょう。私の乏しい経験では,川砂・赤玉・鹿沼・軽石・ミジン(用土をふるった残りカス)などの単用で肥料気の全くないものに植えたり挿したものの結果で,驚いたことに,最もよく生長したものは,ミジン単用のもの,次いで赤玉,川砂単用の順となり,鹿沼と軽石単用の土は発根は良好であるが,それ以後の生育は芳しくないという結果になりました。このミジンは,古土を水漬・水洗して再生した土を1%メッシュの篩(ふるい・台所で使う裏ごし用)にかけて落ちた土で,グラニュー糖ぐらいの程度のものです。今まで捨て去っていた憎まれもののミジンがなぜ?・・・…と首をかしげる次第。

 有機質肥料分が皆無に等しく,ミジンや砂礫土に自生するこれ等の植物が,鉢植えで多肥・多水で管理しているものより,はるかに健全な姿で生育していることは,私達の栽培に何等かの示唆を与えているような気がします。現地の気象の為せる業とも,奔放自在に伸びた長大な根の吸肥力によるものと考えるのもよく,はたまた,茎や葉は光合成により体内に必要な栄養分を自製するかたわら,根は無機質土から有機質土から得られると同程度の養分を体内に取り入れていると考えるのも自由です。限られた容量の鉢植用土について,肥料無用などという暴論はいただけませんが,あまり濃厚な肥料を多用するのは避けたいものです。

 因みに,植込みに際して,鉢底に堆肥類やマグアンプなどを敷くことが常道とされていますが,生長が早く,すぐに根が鉢底に達する大型株と,地表近くマット状に育ち根が浅い小型種とでは,肥料を置く位置を変える必要があるでしょう。前者は鉢底でよく,後者は中層か種類により,それより浅く置くべきです。

 ご存じの通り,肥料には即効性のものと緩効性のものがありますが,水で薄める液肥はいずれも即効性で,マグアンプなどは肥料分が約1年間持続する緩効性のものです。牛・馬・鶏糞,油粕・骨粉などに落葉を堆積して完熟させたものや,ビート(綿実粕)などはその中間的存在といえます。即効性の液肥は観葉植物などに与える濃度より更に薄めたものに,無肥料土に播いた実生苗や肥料切れで元気のない鉢植えを腰水させて急速に活気を回復させるのにも役立ちます。マグアンプの成分は,燐酸が突出して,イチゴなど果菜類に適した肥料ですが,多肉類に使っても全く問題はありません。

 寒冷期に、もうひとつ実施したいものに,殺虫作業があります。ワタムシ・ネジラミ・カイガラムシなどを退治しておきましょう。高温期の薬剤のスプレーは,エケベリア・アエオニウムなど薬物のベンケイソウ料のものがひどい薬害を受け,観賞価値を甚しく損ねることがあります。この時期にはほとんど薬害を受けないものです。

 スプレーは棚下など直射光を避けた場所で行い,2〜3日そのままで過ごさせます。メセムなどの根に多く寄生するネジラミは,浸透移行性の薬剤・ダイシストンなどを根元に散布して防除します。放置すると夏までに異常発生するこれら害虫も,今のうちに退姶しておきましょう。薬剤も2〜3回線返し散布すると,一層の効果が挙げられます。殺虫・殺菌剤は極めて多種類のものがありますが、一応必要なもの数種類は手許に備えておきましょう。

 冬至のころと比べ,日照時間も徐々に長くなり,心なしか日射しも強さを増しはじめ,春はもうそこまできています。もう少しのガマンです。

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