◆ミーチャさん(「Knight of silver」)が「風の王国」掌編として、
「〜ある春の日〜」を書いてくださいました!!大感激(T-T)
小説を頂いたのは初めてです。夢にも思ってませんでした。カデルの心理をよおく書いてくださっていて
またしても大感激ですっ私の漫画を補ってくれてますです。ミーチャさんありがとうございました!
おこがましくも、挿し絵?を描かせて頂きました。(とっても楽しかったです〜(^-^)
| 「だめだ!追い付かれる・・・もう走れない・・・」 |
| 諦めようとしたカデルの脳裏に、ふとディオスの顔が浮かんだ。とても怒っている。 |
| 自分を殺そうとして追い掛けてくる得体の知れない魔物より、そちらの方がよほど恐ろしく、カデルはうなだれかけた頭をブルっと震わせた。 |
| 「まだ大丈夫だ。まだ走れる。」 |
| カデルは振り返らなかった。魔物の正体を知りたくはなかった。そして、どれだけ近付いているのかも。 |
| ディオス、ディオス、ディオス! |
| 心の中で叫び続ける。そうしなければこれ以上走れはしない。 |
| ディオスが助けに来てくれるわけではない。来てくれないと分かっている。でも、ここで諦めてむざむざ殺されれば、ディオスは自分を軽蔑するに違いない。それはどうしても嫌だった。 |
| 何故嫌なのだろう。自分はディオスを愛しているのだろうか。そしてディオスは・・・。 |
| 突然の衝撃にカデルは小さな叫びをあげた。足下に大きな木の根が広がっており、躓いたカデルは地面に胸を強く打ち付けた。考え事をしながら走っていたので、足下に気付かなかったのだ。 |
| 「うっ。」 |
| 立ち上がろうとしたが足をひねったらしく、痛みに思わず呻いた。魔物の足音がすぐ近くに迫っていた。逃げなければ殺される。 |
| 左腕をついて立ち上がろうとした時、すさまじい殺気を感じ、カデルは素早く仰向けになって剣を構えた。 |
| 「死ね!!!」 |
| いつの間にこんなに距離をつめられたのか、金の髪の魔物が血だらけの指でまさに剣を降り下ろさんとしていた。 |
| もうダメだ! |
| カデルはかたく目を閉じた。 |
| 「カデル様、カデル様。」 |
| 悪夢から救ってくれた声はフェイナだった。全身汗びっしょりだ。 |
| 「またあの夢か・・・・。」 |
| カデルは口の端を釣り上げて薄く笑った。 |
| 「今日の予定は?」 |
| カデルはずきずきと痛む頭を右手で支えながら、フェイナの方を見ずに聞いた。 |
| 「何もありません。」 |
| 「何!?そんな事あるか!」 |
そうだ、そんな事あるはずがない。何もない日なんて。何もせずに、何も考えずにいられる日など、今まであったろうか。そんな幸せは許されるはずがなかった。![]() |
| フェイナは睨み付けるカデルをお構い無しに、透明なクリスタルの花瓶に白い花を飾っている。 |
| そして、世間話でもするかのように、静かに口を開いた。 |
| 「カデル様、昨日の事を覚えてらっしゃらないのですか?高熱が出てばったりと倒れたんですよ。それからずっとうなされておいででした。」 |
| カデルは黙っていた。ハッキリとは覚えていないが、言われてみればそうだった気もする。 |
| 「だから今日はずっと寝ていなければいけません。」 |
| 「そんな事!何か大事な予定があったはずだ!」 |
| 「全部キャンセルしました。」 |
| フェイナの口調は優しいが、有無を言わさぬ響きがあった。 |
| 「ディオスは・・・」 |
| カデルは途中で口を噤んだ。何を言おうとしたのか自分でも分からない。 |
| 「ディオス様はゆっくり休ませるようにとおっしゃいましたよ。」 |
| フェイナの言葉にホッとすると同時に言い知れぬ不安がつのってくる。もしかしたらディオスに見放されたのではないか、そんな不安だった。 |
| ・・・まるで子供のようだ。・・・ |
| カデルは心を占める不安を打ち消すように、自嘲気味に笑った。それはフェイナには痛々しく感じられた。 |
| 「何か召し上がれますか?」 |
| フェイナはカデルを見ているのが辛く、花瓶に意識を集めながら聞いた。 |
| 「いらない。」 |
| 答えは分かっていた。カデルは独りぼっちでおびえた子供のように、ひざを抱えてベットの上にいた。 |
| 「ではお薬を飲みましょう。水を取ってきます。」 |
| 扉がパタンとしまりフェイナが出ていく足音が遠ざかる。 |
| カデルはベットの中で窓の外に広がる青空を眺めた。 |
| 空など見たのは何年ぶりだろう。平和そうな鳥のさえずりが耳に心地よい。 |
| あんな夢にいつまでも苦しむちっぽけな自分が、無意味な存在だと思える。この広大な空にくらべたら、自分の存在など塵にも等しい。苦しむのにももういいかげん疲れた。こんなのどかな日はフェイナの言う通りのんびり過ごしたっていいではないか。 |
| カデルは勢い良くベットの中に潜った。 |
| フェイナが戻って来たら寝たふりをしてやろう。フェイナはどんな顔をするだろう。起こして薬を飲ませようとするか、もしくはそっと寝かしておいてくれるかも知れない。 |
| 小さないたずらを思い付くと途端に気分が良くなった。 |
| まだ熱の残る身体は火照っている。 |
| ・・・着替えた方がいいな。・・・ |
| ぼんやりしているとまた悪夢に捕まってしまいそうで、カデルはフェイナが早く戻って来ないかと考えた。戻って来たら・・・。 |
| まどろむようにゆっくりとその眠りはやって来た。フェイナの足音が規則正しいリズムで更に眠りをさそう。 |
| 「カデル様、水をお持ちしましたよ。」 |
| フェイナはベットに潜っているカデルの返事を待った。 |
| 「眠ってしまわれましたか。」 |
| フェイナは優しくカデルのベッドを整えた。 |
| ・・・なんだか暖かい。気持ちがいいな。フェイナはまだかな。・・・ |
| 今度は、平和な夢を見られそうな気がする。それとももう夢の中なのか。 |
| フェイナはしばらくの間、カデルの寝顔を見つめていたが、そのうち、起こさないように静かに部屋を出ていった。 |