お話 1

at 2002 07/29 22:41 編集

これまでも仕事上の失敗は数え切れないほどあった しかし今回の失敗はこれまでとは比べ物にならない大きな失敗だ 取引先の営業部長を招いての接待ゴルフだった 休日返上で望んだ大イベントだったのだ
「君ほどゴルフが下手なら あえて手を抜いて先様に勝たせろとは言う必要もあるまい」とは口の悪い上司の言葉だ その言葉どおり私は前に飛ぶのも珍しいほどゴルフが下手だった そのはずだった
「あちらの営業部長は”教え魔”と言われるほど人にゴルフを教えるのが好きなのだそうだ 良い機会だからしっかり教えてもらって来い」
上司の言うとおり 私もそのつもりでいた その上で先様のご機嫌をうかがって大口契約を取り付ける段取りだった

ところがその日の私はまるでタイガーウッズが乗り移ったかのように良いスコアを出してしまった 途中そのままではまずいと思いわざとよそに向いて打ってもボールはフェアウエイをはずれることはなかった それだけではない 終盤のショートホールではホールインワンまでしてしまったのだ
出会って挨拶を交わしたときには上機嫌だった先方の営業部長も最後には鬼瓦のような顔をしていた・・・ 

 


お話 2

at 2002 07/30 23:57 編集

その日のゴルフが原因で結局商談は決裂した 私はそのために営業課から庶務課に転属させられた その上自家用車での通勤を禁じられた こうなると人権も何もない

今日は初めて電車での帰宅である 慣れない雑務で遅くなったがなんとか終電に間に合った 駆け込んだ車両にはラジカセで演歌を流す労務者風のおっさん 酔いつぶれたOLと介抱するふりをして体に触りまくる会社員風の男 どこかでガス欠したのか特攻服を着込んだ暴走族風の青年などが乗っていた 私は彼らから均等に離れたところに席を取って座った 誰とも関わり会いたくない私は即座に寝たふりをした

 


お話 3

at 2002 08/02 09:14 編集

寝たふりをしながら 最近の出来事について思いを廻らせた これまでの人生は大きな挫折もなく順調におおむね思い通りに進んできた 今回の失敗は体験したことのないものだった 耐えがたい屈辱だ 仕事の能力とはまったく別のところで自分を評価されたのだ 自分に全く落ち度がないというのに職場で罵声を浴び侮蔑され屈辱を味わった その後こみ上げてきたのは恨みと憎しみだった 取引先の営業部長 上司 ゴルフ場 その日の天気や見送ってくれた受付嬢にまで恨み言のひとつでも言いたい気分だ

ゴルフで良い成績を出したくらいで人生が暗転してしまうのならこんな人生は値打ちがない
「チクショウ! 死んでやる」

そう思った瞬間 乗っていた電車全体に強烈な衝撃が起こった!!! 

 


お話 4

at 2002 08/07 21:43 編集

激しい衝撃を受けた後 しばらく気を失っていたようだ 先ず視界が開けた グニャグニャに歪んだ世界が徐々に元に戻っていく 私はまだ電車の中だった その衝撃からして電車は事故にあったかのように思われたのだが車両に変化はなく現在も走行している しかし変化もある 他の乗客がいなくなっているのだ 車両には私一人しか乗っていない 不可思議な状況に不安を感じるが頼れるものもいない 何より下車すべき駅は? まだ到着しないのか? それとも通り過ぎてしまったのか? 私はとりあえず次の停車駅で下車しようと決めた

 


お話 5

at 2002 08/15 23:32 編集

かなりの時間が経過したにもかかわらず電車は次の停車駅に止まらなかった 何時の間にか地下に入ったらしく窓の外には殺風景なコンクリートの壁が続いている 他に乗客もいない状態であまりにも不安で退屈だ どうにかならないものかと思っていると電車は駅に停車した すぐさま下車しようとした私の前に乗車してくる二人の男が現れた その意外な人物の出現にたじろいだ私は下車するタイミングを逃してしまった それは一世を風靡した漫才コンビのやー坊ときー坊だった きー坊はともかくやー坊は故人のはずだ そんな事ありえない 下車し損ねた私の存在も死んだはずの人物が生きている理不尽さもお構いなしに二人はネタの練習をしていた まるで私一人に見せているかのように

 


お話 6

at 2002 08/21 00:42 編集

やー坊ときー坊は座席に座っている私の前でひととおりのネタを披露して 私が退屈を感じ始めたころに停車した駅で下車していった 自分自身が下車すべきなのにこのときもタイミングを逸してしまった
そのときの停車駅の名は?車内アナウンスが全くない 車掌は何をしているのか? 私は立ち上がって車掌の所在を確かめるべく車両の進行方向とは逆に向かった しかしそちらに歩みを進めはしなかった 何故なら車両は果てしなく続いておりその行為が徒労に終わることが容易に察することができたからだ

こんな状況が現実にはあり得るはずがない これはきっと夢の中なのだ 夢ならば私が思うように事を進めることも可能なはずだ だったら・・・私の好みの女の子の一人でも乗車してこないものだろうか? 賢明でおしとやかで従順な若い娘 夢であるなら望めば登場しないこともないはずだ

ほどなく電車は駅に停車した 開く前の扉の前には私の望みどおりの娘が立っていた

 


お話 7

at 2002 09/01 00:17 編集

私は確信した 夢に間違いない 望んだものが望みどおりに現れるなど現実ではあり得ない まもなく扉が開く 彼女はこの車両に乗り込んでくるだろう 夢ならばその後も私の望むように事が進行するだろう しかしその後どうなろうと結局は夢なのだ 葛藤が始まった 夢に甘んじて浸っていてはいけない 今乗り込んでくる彼女の横をすり抜けてこの車両を出れば もしかすると夢から現実に帰れるかもしれない 私が成すべきことは一刻も早く目覚め 一から出直すことだ しかし急ぐことはない 今は心身ともに傷ついた自分を夢の中の理想の女性とのロマンスで癒すことも悪くはない このまま夢を進行させるのも良いではないか? どうする? どうする?

自分の考えが決まらないうちに私は座席を後にして立ち上がり 開いた扉に向かって歩みを進めていた

 


お話 8

at 2002 09/06 21:38 編集

まるで引力に引き寄せられるかのように私は開いた扉に向かって駆け出していた それは私の意思とは全く関係のない行動だった 私はまだ迷っている 現実に戻るのか夢の続きに浸るのかを にもかかわらず体は車両の外に向かって突進していくのだ 乗り込んでくる娘に私が接近する 私は・・・私の体は娘の横をすり抜けて車両の外に出て行く・・・はずだった

娘の横に並び 今まさに私が車両の外に出ようとした時 この娘は何を思ったのか私の胸元に強烈なラリアットを食らわしたのだ 私は胸に電気ショックのような衝撃を受けて車両の内側にもんどりうって倒れてしまった この衝撃が・・・この痛みがはたして夢なのだろうか? これまで車両の中で私がしてきた憶測がこの一瞬で否定されてしまった これは現実だ しかも限りなく不条理な現実だ

「ごめんなさい! 大丈夫ですか?」
倒れて痛がっている私を娘がひどく心配そうに覗きこんでいる

 


お話 9

at 2002 10/02 20:07 編集

他に乗客がいないこともあり 私はその娘としばらく話し込んだ 娘は名を”山野里子”という いまどき珍しい古風な名前だ 将来は小説家になりたいそうだ 文章の表現力には問題がないのだが物語を作り上げる人生経験が足りないと自己を分析している そのためであろうか 娘は私に次々と質問を浴びせかける 私は娘の黒いレザーのタイトスカートから飛び出した膝を鑑賞しながらそれに答えていた

何の予告もなく 突然列車が駅に停車した 私はとにかく下車しなくてはならない 娘に「それじゃあ ここで降りますので・・・」と告げて座席を立ち上がった
「えっ? そんな・・・ 私 困ります」
娘も同様に立ち上がると私の右腕を取って抱え込んだ 扉が開く 私は引きとめようとする娘を引き連れたまま扉に向かって進む 私は下車しなければならないという強い強迫観念に突き動かされて娘のことなどお構いなしに扉に向かって進んだ ところが・・・

再び 私が下車することは娘によって阻まれた 娘は私の右腕をつかんだまま自ら一回転して私の右腕をひねり上げ 左の肘を私の右肩に叩き落した 私はその場にうつ伏せに倒れこんだ
「お願いです まだ降りないでください もう少しお話を聞かせてください!」
私の鼻先をかすめて 扉は閉じ 再び電車が走り始めた

 


すっかり忘れていた お話10

at 2002 11/20 00:02 編集

夢ではない世界 体に感じる痛みがそれを裏付ける しかし現実でもない世界 あり得ない車両構成の列車と駅の間隔 そして節操の無い時間
その後 私の下車は里子によって何度も阻まれた その度に私の体には激痛が走る 格闘技のフアンでもないだろうに里子は様々な技を私にかけてきた 現実ではないもうひとつの理由がそこにあった 里子の繰り出す技によって私は痛めつけられるもののダメージが無いのだ まるでめちゃ*2イケのストーカーコントのような時間が果てしなく続く

「野球はお好きですか?」
里子が初めて私の好きな分野に関しての質問をしてきた その後二人で野球の話題で盛り上がった 私も里子も初めて笑って会話を交わした
「あの時の宇野選手は最高に笑えましたよね!」
しかし 話題が古い・・・
はしゃいだ里子が私の腕を取り胸を押し付けて話しつづける 私は里子が女であることを急に意識させられた その意外に大きな胸は十分魅力的だった その時・・・列車は駅に停車した
扉が開く だがその時の私は下車しようという意欲がまるでなかった
「もう 大丈夫ですね」
下車しようとしない私に腕を取っていた里子がそのまましなだれかかってきた

 

リクエストがあれば続きを書きます

 

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