作者は、キンメル提督の前任の太平洋艦隊司令長官であるリチャードソン提督は、ハワイに艦隊を駐留させることは危険であるとして反対したために、ルーズベルト大統領に太平洋艦隊司令長官の職を追われたとしています。
 しかし、奇妙なことに、「真珠湾の真実」に掲載されているリチャードソン提督があげた五つの反対理由の中には、ハワイ駐留の危険性は全く触れられていません。

「一、基本的な訓練施設が不足している。
 二、大規模な弾薬及び燃料の補給が十分でない。
 三、曳船及び工作艦などの支援船が不足している。
 四、家族から引き離された兵士の士気の低下。
 五、乾ドックおよび機械工場など(艦船)定期検査施設の不足。」
 (四〇〜四一頁)

 しかも、細かいことにまで註釈をつけているにも関わらず、リチャードソン提督は、ハワイに艦隊を駐留させることは危険であると主張したことに関しては、註釈がついていません。
 註釈がついていない、というよりもつけられない理由は簡単です、これは事実ではないからです。

「 彼〔リチャードソン提督〕は艦隊が眞珠灣を恒久的に根據地とすることに反封したが、それは彼が西半球の安全保障を『最高のもの』と見做したからばかりではなくて、眞珠灣を戦務(軍事上の警戒、捜索、補給、修理を總稱す)上の諸理由より好まなかつたからであつた。即ち同軍港は、無防備のラハイナ泊地を牧容し切れない艦船のための錨地に使用しない限りは、恐しく輻榛していること、また補充人員・艤装品、軍需品を囘送するために元々、不適當な補給部隊は二千浬も餘計な航海をせねばならないこと、さらに全員をその家庭より遠隔の地に留めておくのは士氣を沮喪すること、などの理由に依るものであつた。【註十九】」
 
「【註十九】眞珠灣攻撃査問記録第十四巻第九二四頁−二七頁及び第九三五頁−三六頁に依る。ホノルルはアメリカ水兵にとって不満足な上陸休暇の港であったし、その後もそのままであった。白人女性の敷は少なく、また商人達は米本國のヴァージニア州ノーフォーク軍港の商人達よりも、一層遠慮なく海軍軍人よりふんだくっていた。リチャードソン海軍大將は眞珠湾攻撃調査委員會に於いて、彼が眞珠灣より合衆国艦隊の引揚を勸告したのは決して航空攻撃の危険に依るものではなくて、唯その戰務上の理由に依るものであったことを明らかにした。
(サミュエル・エリオット・モリソン「太平洋戦争アメリカ海軍作戦史 第一巻 太平洋の旭日 一九三一年〜一九四二年四月 上巻」改造社 一九五〇年 七九、八一頁 以下「米海軍作戦史」と略称 〔 〕内筆者注記 以下同様)

 つまり、リチャードソン提督が、ハワイに艦隊を駐留させることに反対したのは「危険」だからではなく「不便」だからだったわけです。
 このことは、リチャードソン提督の反対理由にも合致しています。

 以上のことから、作者の「艦隊を危険にさらすことに反対したので、リチヤードソンは艦隊司令長官をクビになったのである。」という主張が、根拠のないデタラメであることは明かです。

 しかし、作者は、モリソンの「太平洋戦争アメリカ海軍作戦史」を読んでいる(五五頁の下段の注釈三七で、「太平洋戦争アメリカ海軍作戦史」に言及しています)いるにも関わらず、このリチャードソン提督の証言には全く触れていません。
 気が付かなかったのでしょうか?かなり不自然な話ではありますが、そうかもしれません。
 しかし、仮にそうだとしても、あれ程頻繁に真珠湾攻撃査問記録を引き合いに出す作者が、どうして、リチャードソン提督の証言を見落としたのでしょうか?
 実に不可解な話です。


戻る