当初ハルは、もっと融和的な内容の協定案を出す積もりでいましたが、イギリス、オランダ、中国から反対された上、11月25日に、日本の大規模な輸送船団が、台湾南方を南下しつつあるという情報を受けて、それまでの融和的な内容の草案を廃棄し、一転して強硬な内容のものに変更しています。

 ちなみに日本は11月20日に「乙案」で「仏印以外の南東亜細亜及南太平洋地域に武力的進出を行はないこと」を提案しています、ところが、その一方で、明らかに武力的進出の準備を行っていたわけです。

 またハル=ノートが、「それまでの外交経過を」「無視」したものであることは事実ですが、「日本に「死ね」というのに等しい過酷な要求」でもなければ、「最後通告」でもありません。

 ハル=ノートについて、親日家として知られる駐日アメリカ大使のグルーは、11月29日の日記に以下のように記しています。
 米國政府は極東の全情勢を調整するための十ヶ條からなる提案草案を日本に渡した。範囲の廣い、客観的にして政治道を具現した文書であり、もし日本が侵略的政策を中止しさえすれば日本がそのために戰いつゝありと称するものをほとんど全部與えることを提議している。このプログラムに從えば、日本は必要とする原料を自由に入手することと、通商貿易の自由と、財政的協力と援助と、凍結令の撤回と、米國と新しい通商條約を交渉する機会を與えられる。だがもし日本が東亜の國々(美化して東亜新秩序と大東亜共栄盟と呼ばれる)を政治的経済的に抑圧しようと欲し−日本の極端主義者の多くはこれを欲している−武力によつて南進を遂行せんとするならば、間もなくABCD國家のすべてと戰端を開くことになり、問題なく敗北して第三等國の位置に落ちる。だがもし日本が賢明な手を打てば、これ以上戰爭することなくして、そのために戰爭を始めたと主張する要求、即ち職術的、経済的、財政的、社会的保全のすべてをうることが出來るのである。
 日本の世論はいつでも比較的短時間に形づくることが出來る。今政府がとるべき賢明な処置は、ワシントン会談でこれ以上武力にうつたえることなく、いままでそれを目的に戰つてきた保全乃至「自由」を獲得し、偉大な外交的勝利を占めたことを國民に納得させることである。
    (ジョセフ・C・グルー「滞日十年 下」毎日新聞社 P248)


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