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6月末に起きた「雪印乳業製低脂肪乳による集団食中毒事件」は,3週間経った7月中旬になっても
いまだにトップニュースのひとつとして繰り返し報道されている.これは,操業を中止して工場の総点検と
第三者による監査を行うことになったことにもよるが,まさかこのようなトラブルが起こるとは消費者には考え
られない事件であったと同時に,フタを開けて見れば,経営者の姿勢や管理能力に疑問を感じたと
同時に直接的には子供でも分かるような単純な原因に,国民がびっくりした事件であったことによるのであろう.
当然,「再発防止策はどうするのか?」に関して,いろいろな議論がなされている.今回は「食品衛生法
やHACCPの基準はクリアしていたのに,どこに問題があったのか?」
が焦点になってくる.
一般論で言えば,問題が発生するといつも「管理者が現場を見てない.」,「倫理観が欠如している.」,
「合理化やコストダウンに追われて手抜きをした.」 などの共通した指摘が新聞記事には多く見られる.
私自身には食品衛生の専門知識はないので,固有技術的な面からのコメントは出来ないが,品質管理的
な切り口で私見を述べてみたい.
1.品質保証の原点は,検査から始まる.
現に,食品衛生法による食品安全基準の第1項目は,「腐敗・毒性の検査」 となっている.
今回の中毒は,黄色ブドウ球菌が出す毒素「エンテロトキシン」によるもので,これは加熱しても
分解されない.この事実は,食品を扱う関係者には常識のようであり,当然雪印関係者は知っていた.
2.では,どうして「エンテロトキシン」の検査をしていなかったか?
聞くところによると,「エンテロトキシンの試験は技術的に難しく,費用もかかる.」とのことであるが,
これは言い訳にしかならない.これだけ分析技術が進歩しているのに,工業レベルで活用できない
とは考えられない.実は,通常の正常な製品には,エンテロトキシンが存在しないから,検査
しても意味がないと判断して,出荷までの工程検査では実施していないのだと推察する.
ところが,これが「落し穴」なのである.
3.出荷検査までに検出されない不具合はどうするのか?
家電製品のような場合は,寿命試験も含めて,信頼性テストと称して,サンプリング間隔は長い
けれども定期的に詳細なテストを行う.その間,設計段階では考えられない問題が見つかれば,
原因究明は勿論だが,市場でトラブルが無くてもその間に出荷した製品を回収することもある.
食品の場合,HACCP の思想の中に,そのような考え方があるように思うが,必須事項に
なっていないのかも知れない.
4.検査結果だけで判定するのは心配なので,管理の思想が生まれ,工程にも
活用されるようになった.
エンテロトキシンが発生する原因は,黄色ブドウ球菌である.だったら,黄色ブドウ球菌の有無を
生産工程でチェックすればいいことになる.と同時に,黄色ブドウ球菌が発生しない環境にすれば
良いわけで,今回のトラブルは,バルブや配管設備の定期的な洗浄をルール通りに実施
しなかったことにある.先の JCO のバケツ騒ぎも同じであった.
でも,この事実だけを取り上げてスケープゴートにしても問題は解決しない.
今回の中毒事件発生後,厚生省の指示で,自治体が乳製品工場に対して一斉点検を行なっているが,
その中間報告によれば,例えば,洗浄記録が不十分な工場が,HACCP認定工場でも
半数もあったとかで,厳重な指導をしたようである.記録をして,それらを保管すること自体はHACCP
を
持ち出すまでもなく,基本的な必要事項ではあるが,それを100%忠実に実施していても,
トラブルがなくなる訳ではない.
ルールを守ることは,必要条件ではあるが,十分条件ではない.ルール違反が
あったら結果としてその悪さが次工程で検出できるようなしくみ,すなわち管理システムが
必要なのである.ルール通り実施していても,予想外の原因でトラブルになる場合もある.
いずれのケースでもその悪さが見つからないと,検査の対象外の品質不良が流出してしまうことになる.
今回のケースを教訓にして点検を行うのであれば,一歩踏み込んで,「殺菌前の工程で,
黄色ブドウ球菌の検査をする システムになっているか」 がポイントになるのだが,食品衛生法
は中間工程での チェックは義務付けていない
と思うし,HACCP は考え方としては前向きなのだが,
個々のケースに おける具体的なチェックポイントまでは言及していないのであろう.
お役所のチェックは,決められたことに対しては忠実に行われるが,本来の意味での管理が適切
で あるか否かについては,触れないし,そこまでの強制力はないので,十分とは言えない.
5.実害を伴うトラブルは,飛行機の墜落事故と同じで,悪条件が重なった時に起こる.
それを避けるために,管理のメッシュを二重,三重に設定して,最悪の事態を起こさない
ようにシステム化するのが,本当の管理であり,知恵でもある.
(1)今回の例では,ルール(マニュアル)では洗浄することになっていた.
(2)もし,洗浄が不十分であれば,黄色ブドウ球菌が発生するのだから,殺菌工程前で,
中間検査としてブドウ球菌の検査をするように,管理特性を定めておくべきであった.
(3)洗浄作業は作業員の義務であり,責任でもある.でも,理由はともかく,洗浄しないことも
あり得るのだから,その結果を次工程で検出できるように2番目の管理点を
決めておくべきである.実際には,班長やリーダーが週一回ぐらいは自分でチェックする
ルールにしておいた方が良い.
(4)完成品の出荷検査では,検査コストや検査に要する時間が長くてタイミングが合わない
場合でも,サンプリング間隔が長くてもよいから,エンテロトキシンの検査は必ず実施
して,問題があれば,店頭に並ぶ前に回収できる体制をとって置く.
6.以上のように決めたとしても,実際には機能しない場合がある.だから事故が起こる.
社長直轄(いや取締役会直轄)の品質監査部門を設置し,トータルシステムの妥当性と
実施状況の定期的な監査を書類だけでなく,現場に入ってチェックし,その結果と
不具合点の是正措置を社長にレポートする.いや,レポート先は監査役の方がベターか.
もっとも,監査役が腰抜けでは意味がないことになってしまうが・・・.
とまあ,勝手なことを書いてしまったが,これは雪印乳業に限らず,最近多発する単純ミスをシステムと
してどうカバーし,トラブルの芽を摘み取っていくかの根本的な問題だと思う.
もう一度要約してみると,製品検査は,程度の差こそあれ先ず必要である.時間がかかったり,検査コストが
かさむ場合は,サンプリング間隔を広げてもよいから,必ず実施して,万一に備える.作業マニュアルは
当然技術的判断に基づいて作成し,遵守するよう指導・訓練を行うが,作業者が手抜き,間違いを犯すことを
前提に,中間工程でのチェックポイントを作り,管理特性として上級者が工程が正常であるか否か
判断する.
基本的には,以上述べた「検査」「標準化」「管理」の3つがベースであるが,それらが総合的に
バランス良く機能しているか否か「監査」が必要になる.実際の場面では,管理も監査もデータや書類だけで
なく,現場を見て,自分の目で確かめることが重要である.締めくくりとして,監査結果の指摘事項を
最高責任者自らが,該当部門に伝え,改善指示を行うことをシステムとして定着させる必要がある.
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