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     梅木 信治/Shinji UMEKI/sumeki@t3.rim.or.jp (http://homepage1.nifty.com/QCC/)

1999/12/09 掲載記事

*** "Aggressive and Communication" ***

このところ,2000年のオリンピック(シドニー)出場を目指して,各種目で予選がたけなわですが,11月21日には東京国際女子マラソン(オリンピック代表選考レースの一つ)が行われ,前評判には上がっていませんでしたが,山口衛里選手が2時間22分12秒(世界歴代6位)の好記録で優勝しました.ただ,不思議なのは,こんなにすごい記録で優勝しても代表に決定する訳でなく,ノミネートされるだけで,あと2回ある選考レース(来年1月大阪,3月名古屋)の結果待ちとのことです. 果たして,12月に入ってから,新聞やテレビでも,マラソン代表選手の選考方式に対する疑問の声があがっていますが,どうなりますか.

今月の主題は,実はマラソンでなく,サッカーの話題なのですが,日本はアジア地区予選を全勝で通過し,オリンピック出場権の1枚の切符を獲得しました.11月26日(金),NHKスペシャルで,トルシエ監督と選手たちの練習や,試合前後のやりとりの様子を取材した番組を見たのですが,これがとても面白かったので,そのエッセンスを紹介したいと思います.

スポーツの監督は,一般に,冷静で理論派と過激でムード派に分かれますが,トルシエ監督は,過激で理論派とでもいうのでしょうか,今までにないタイプのひとりだと思います.彼の持論は "Aggressive and Communication" です.日本代表が集まる練習でも,積極性のない選手はただちに練習から外してしまうし,試合ではもちろん,すぐに交代させてしまう.先ず,何はともあれ,積極性最優先の方針のようです.サッカーに限らず,チームで行う競技では,選手個人の能力だけでは,勝てないので,連携プレーが重要になってきます.見た目には,シュート場面が華やかなので,どうしてもそちらに目が向いてしまいますが,日本の選手には,独りでそこまでやれるような国際的なスター選手はいません.したがって,連携プレーを大切にする訳ですが,これがトルシエ監督の強調する "Communication"です.試合中に,意識的にそれ(連携プレー)をやれるように,練習を重ね,試合開始前のミーティングで,強調し,ハーフタイムでも,繰り返し訴えていた彼の姿は,印象的でした.

サッカーファンなら,カザフスタンとの第2戦を見ていたと思いますが,前半1点リードされて迎えた後半は,見物でした."Communication" は選手同志だけのものでなく,監督と選手との間にも,もちろん必要なわけですが,試合が始まってしまえば,サッカーの場合は,監督が直接プレーヤーに指示を出すことができません.ハーフタイムの時に,基本的な変更指示と,あとは選手交代の時に部分的な指示を交代する選手に託して行う訳です.実は私も,テレビの実況中継を見ていた時には,後半の中田選手のポジション変更には気が付いていたのですが,NHKスペシャルのハーフタイムにおけるトルシエ監督の指示と,その後のプレーを分かりやすくリプレーで再現した解説を見て,なるほどと思いました.

とにかく1点返さなければ,の場面でしたから,得点力のある中田をフォワードに回し,中村俊輔を司令塔のポジションに変更したのは,素人でも気が付くアクションでした.監督が意図したことは,もう一つ別の理由があったようで,前半,中田を執拗に密着マークしていたカザフスタンの16番の選手を惑わす目的の方が大きかったようです.結果的には狙いが見事に当たり,左サイド奥でフリーになった中田からの絶妙なセンタリング(彼のパスは,1人飛ばして,後ろの選手にターゲットを合わせる.するとゴールキーパーの背後になり,ゲットしやすくなる.)を平瀬が合わせて同点ゴールにつながったのは,後半開始数分後でした.

通常の監督であれば,このパターンの再現を期待して,このまま続行するのですが,トルシエ監督は次の手を打ちました.もう1点取るために,フォワードの高原を投入し,中田を司令塔の位置に戻したのです.司令塔のポジションにいた中村は,ハーフバックの位置に下がりました.中村はとても器用な選手で,臨機応変にどのポジションでもこなせます.トルシエ監督の方針で,一流選手は,状況に応じて,複数のポジションをこなせなくてはいけないと,練習の時から徹底していたようです.

うますぎる話ですが,果たして次のチャンスは,後方に下がった中村が,40mのロングパスを平瀬に送り,彼が,2点目を決めました.この時点で,観衆も,選手も,たぶん監督も勝利を信じたと思います.ただ,選手は常日頃から,厳しく監督にいつでもアグレッシブであれ,と言われ続けているから,このチームは,1点を守って勝とうとは思ってはいないようでした.終了直前になって,高原がドリブルで前へ出た時,ファウルを誘い,絶好のフリ―キックのチャンスを掴みました.状況からして,中田なら,得点できる可能性が高かったので,観衆からも中田コールが起こり,相手チームも中田のシュートを防ぐ体制をとりました.キックする位置には,中田と中村の二人が何やら囁いてから,キックの体制に入りました.一瞬早く,中田が動いたので,これがフェイントとなり,キーパーが右へ体重をかけた瞬間に,中村のシュートが,逆サイドに決まり,決定的な3点目が入りました.

このゲームのMVPは,2点をゲットした平瀬でも,常に注目を浴びた中田でもなく,中村俊輔でした.試合終了後のインタービューで,中村は,涙ぐみながら,勝つことできて良かったと語っていましたが,ロッカールームに引き上げた選手たち,コーチ,監督が皆で喜びを爆発させながら,盛り上がり,嬉しさのあまり,ドリンク用ボトルの水をトルシエ監督に浴びせかけるシーンも見られ,いつもフランス語で怒鳴り散らしていたトルシエ監督も喜びに浸っていたのが印象的でした.

世界のサッカー界の壁は,想像以上に厚いので,どこまで日本のサッカーが通用するか,今は誰にも分かりません.でも,今回のNHKスペシャルを見て感じたことは,監督の考え方,ゲームにおける采配,選手とのコミュニケーションが,如何に大切か,改めて痛感しました.