2003-5 QC&C Labo 梅木 信治

*** QCテクニック初級講座 *** 
これなら簡単,誰でも使えるSQC”(第17回)

計数抜取検査におけるサンプルサイズの決め方
---ロットサイズ 1000個,AQL=1%の場合 ---

 商品やサービスの品質保証はいろいろな形で行われるが,最終的には検査が重要な役割を果たすことが多い.量産品には多くの場合,抜取検査が適用される.日本では独自に抜取検査法が開発され,JIS規格として制定されていたが,ISO9000シリーズが品質マネジメントの国際規格として制定された後,抜取検査の分野でもISO規格が世界の標準として幅を利かすようになった.日本でもそれに合わせて1999年にJIS規格を大幅に改訂した.その中心になるのは JIS Z 9015 シリーズであり,AQL的な考え方が基本になっている.

適切なサンプルサイズの決め方 
 抜取検査の効率を左右する大きな要因のひとつはサンプルサイズでしょう.サンプルサイズが小さければ,検査は簡単になりますが,合否判定の精度は落ちてしまいます.例えばロットサイズが1000個のロットをAQL=1%の判定基準で抜取検査を行う場合,10個サンプリングして不適合品が0個なら合格にしますか? あるいは不適合品が1個見つかったら不合格ですか? 

 購入者の立場で考えれば,10個中1個がNGであれば,合格にはしないでしょう.10個ともOKの場合でも慎重な人はやはり合格にはしないと思います.100個サンプリングしてすべてがOKであれば,ほとんどの人は合格にするでしょう.では 1個NGの場合はどうでしょうか? この場合は多くの人は合格にすると思います.2個NGになると,直感的には不合格判定を出すでしょう.

 ところが生産者(納入者)の立場になると,判断がだいぶ異なってくるのではないかと思います.生産工程に自信のある場合は,10個ともOKなら合格にして欲しい.心配なら10ロット続けて検査してみたらどうですか? NG品は1個も出ない筈ですから・・・.100個もサンプリングするんですか? 1個NGでも合格は当然でしょう! 2個NGのケースも時々出るかもしれませんが,抜取検査である以上不適合品率が1%でも確率的に十分あり得ることですから,これを不合格にされるのは困ります.

 このように自分自身が出荷する立場なら基準はできるだけ甘く,購入する立場ならできるだけ辛くしたいと思うのが人情でしょう.これでは水掛け論になってしまい,接点が見出せません.そこでお互いに冷静になって,客観的な立場で公平に検討してみる必要が出てくる訳です.
 
 この例でサンプルサイズをいろいろ変えた場合,どうなるか調べてみましょう.基本条件はロットサイズが 1000個,不適合品数は 10個,不適合品率1%です.例によってExcel関数の1つである hypgeomdist(r,n,R,N) を使って計算します.(この関数の説明は 第15回をご覧ください.)

(1)n=10の場合
 f(0) = hypgeomdist(0,10,10,1000) = 90.4%
 f(1) = hypgeomdist(1,10,10,1000) = 9.2%

 この結果から分かることは,10個サンプリングしてそれらのすべてが適合品である確率は 90%ですから,生産者危険10%を我慢すれば,このケースならロット合格にしても問題なさそうですね.
 一方,購入者(消費者)側から見ると,このケースでは保証が十分とは言えない可能性(危険性)も相当ありそうなので,例えば不適合品率 20%(不適合品が 200個)の場合を考えてみると,次の式から分かるように, 11%近くが合格してしまう確率になります.
 f(0) = hypgeomdist(0,10,200,1000)= 10.6%

 抜取検査では,悪いロットでも 10%合格してしまう状態を消費者危険 10%と呼び,その時の不適合品率を消費者危険品質と定義します.従ってこの事例の消費者危険品質は約 20%ということになります.
 つまり,抜取数が 10個の場合,10個とも適合品である確率は,不適合品率1%のロットで 90.4%ですが,消費者危険 10%を想定した不適合品率(消費者危険品質)は約20%になってしまいます.このことは 20%も不適合品を含む悪いロットでも 10回に1回は合格してしまう可能性があることを意味し,消費者側のリスクが大き過ぎます.

 誤解のないように断わっておきますが, 合格ロット 10ロットの内,1ロットが不適合品率20%のロットと言う意味ではありません.不適合品率20%のロットが継続的に10ロット納入された場合に,確率的には9ロットはNGで,1ロットが合格する可能性があるという意味であり,実際にはNGが続けば購入停止になりますが,最悪のケースでは10個のサンプルがすべて適合品であっても不適合品率20%のロットがスポット的に合格になるリスクがあるという意味です.

(2)n=50の場合
 f(0) =hypgeomdist(0,50,10,1000)= 59.7%
 f(1) =hypgeomdist(1,50,10,1000)= 31.7%
 f(2) =hypgeomdist(2,50,10,1000)= 7.4%
 f(3) =hypgeomdist(3,50,10,1000)= 1.0%

 生産者危険8%を我慢すれば,不適合品が1個までならロット合格となります.このケースでの消費者危険 10%に近い消費者危険品質を求めてみると,約7.5%となります.
 f(0) =hypgeomdist(0,50,75,1000)= 1.8%
 f(1) =hypgeomdist(1,50,75,1000)= 7.8%

 この位なら生産者と消費者の双方が納得できるギリギリの線でしょうか.

(3)n=100の場合
 このケースは,すでに示したように
 f(0)=hypgeomdist(0,100,10,1000)= 34.7%
 f(1)=hypgeomdist(1,100,10,1000)= 38.9%
 f(2)=hypgeomdist(2,100,10,1000)= 19.5%
 f(3)=hypgeomdist(3,100,10,1000)= 5.7%

 以上のような結果になりますから,不適合品2個までを合格とするか,或は3個まで認めるかが判断の境目になります.そこで消費者危険 10%前後の消費者危険品質の計算をしてみると,

5.0%の場合
 f(0)=hypgeomdist(0,100,50,1000)= 0.4%
 f(1)=hypgeomdist(1,100,50,1000)= 2.6%
 f(2)=hypgeomdist(2,100,50,1000)= 7.5%
 f(3)=hypgeomdist(3,100,50,1000)=13.8%

6.5%の場合
 f(0)=hypgeomdist(0,100,65,1000)= 0.1%
 f(1)=hypgeomdist(1,100,65,1000)= 0.6%
 f(2)=hypgeomdist(2,100,65,1000)= 2.5%
 f(3)=hypgeomdist(3,100,65,1000)= 6.0%
 f(4)=hypgeomdist(4,100,65,1000)=10.8%
 
 上の結果から分かることは,消費者危険品質を5%に抑えようとすれば,3個は認めるわけにはいきませんが,6.5%位までなら容認すると判断すれば,3個まではロット合格にしてもよいという結論になります.

(4)n=200の場合
 f(0) =hypgeomdist(0,200,10,1000) =10.6%
 f(1) =hypgeomdist(1,200,10,1000) =26.8%
 f(2) =hypgeomdist(2,200,10,1000) =30.4%
 f(3) =hypgeomdist(3,200,10,1000) =20.2%
 f(4) =hypgeomdist(4,200,10,1000) = 8.8%
 f(5) =hypgeomdist(5,200,10,1000) = 2.6%
 f(6) =hypgeomdist(6,200,10,1000) = 0.5%

 f(0) =hypgeomdist(0,200,50,1000) = 0.0%
 f(1) =hypgeomdist(1,200,50,1000) = 0.0%
 f(2) =hypgeomdist(2,200,50,1000) = 0.1%
 f(3) =hypgeomdist(3,200,50,1000) = 0.4%
 f(4) =hypgeomdist(4,200,50,1000) = 1.2%
 f(5) =hypgeomdist(5,200,50,1000) = 2.8%
 f(6) =hypgeomdist(6,200,50,1000) = 5.3%

 以上のような結果になるので,不適合品 6個までを合格としても,消費者危険 10%前後の消費者危険品質は 5%程度になるので,双方とも満足できますが,n=100の場合より特別なメリットがあるとは言えません.

 以上を整理してみると,次のようになります.
ロットサイズ:1000個, AQL =1% の場合
(消費者危険品質:消費者危険 10%の場合)
 
サンプル
サイズ
合格
判定個数
不合格
判定個
生産者
危険
消費者
危険品質
n Ac Re (%) (%)
10 0 1 9.6 20.0
50 1 2 8.6 7.5
100 2 3 6.9 5.0
100 3 4 1.2 6.5
200 5 6 0.6 4.4
200 6 7 0.1 5.0
 
 結論としては,サンプルサイズが小さ過ぎると生産者,消費者ともリスクが大き過ぎてお互いに不満が残ります.OC曲線の形で説明すればブロード過ぎて合否判定の精度が低いのです.今回のケースでは,100前後が適切なサイズと言えます.それよりサンプル数を増やしても実質的なメリットは認められず,検査効率は悪くなります.

 1999年に制定された新しい規格である JIS Z 9015-1 では,なみ検査の場合,1回抜取方式では n=80(Ac=2,Re=3),2回抜取方式では1回目 n=50(Ac=0,Re=3),2回目n=50,累計 n=100(Ac=3,Re=4) の抜取数とそれぞれの判定値を指定しています.運用上は2回抜取方式が効率的でしょう.

 直感的に理解しやすいように,具体的な事例としてロットサイズ1000個,AQL=1%のケースで計算してみましたが,同様にロットサイズとAQLの組合せをいろいろなケースを想定して計算して作成したものが JIS Z 9015シリーズです.