実験というと,ごく一部のエリート研究者が大学や研究所で行うもので, 一般の人にはなじみのないことのように思われがちですが,日常生活の中でも結構実験は行われています.ただ厳密性に欠ける場合が多いので,常識の範囲内で「独断と偏見ですが・・・」と謙遜しながら自分の意見や見解を仲間同士で話題にするケースならよくあるでしょう.
たとえば健康食品などの効き目は,人によっても異なるし,摂取する量とか方法,期間,メーカー,有効成分などなど,いろいろな条件が絡んである人は効果があったと言うし,ある人はそう思わなかったなど人それぞれの意見が出てくるでしょう.
ここでは分かりやすい例として,日本人なら多くの人が毎日飲んでいる「お茶の入れ方」について考えてみましょう. 思いつくまま書いてみますと,飲むお茶の種類は,玉露とか煎茶,番茶などいろいろありますね.
入れ方になると使う水の種類,お湯の温度,急須の大きさ,蒸し時間(浸出時間),茶碗の大きさ,形,デザイン,注ぐスピード,
使用回数,・・・など挙げればきりがないくらい多くの条件があるでしょう.
実際にはおいしく飲むための基本的な方法と組合せがお茶に関する技術的な判断と長い間の経験によるノウハウによって, ほぼ最適条件が決まっているのでしょうが,改めて客観的に実験して確認しようと考えたらどうなるのでしょうか?
まず実験の組合せを考えてみましょう. 分かりやすくするために実験の要因として次の4つを取り上げ,それぞれに対して3水準の条件を選んだとしましょう.
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| 表1 実験する要因と水準の一覧表 |
| 要因 |
水準1 |
水準2 |
水準3 |
| A.お茶の種類 |
番茶 |
煎茶 |
玉露 |
| B.使用する水 |
水道水 |
浄水 |
自然水 |
| C.お湯の温度 |
60℃ |
80℃ |
100℃ |
| D.蒸し時間 |
1分 |
2分 |
3分 |
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実験計画(その1)
お茶に関する予備知識がない場合は, すべての組合せを実験することになるでしょう.その時は,81通り(3×3×3×3=81)になりますね.
実験計画(その2)
ある程度お茶のことを知っている人なら,
無意味な組合せに気が付きますから,その分の実験はやらないでしょう.
たとえば,玉露を100℃で入れる組合せや, 番茶を60℃で入れる組合せではおいしい味は出ないことが分っているので,お茶の種類ごとに分けて計画を組むでしょう.
実験計画(その3)
お茶の知識がなくても実験回数を少なくするテクニックを知っていれば,予備実験としてわずか 9回の実験で得られたデータから役に立つ情報を抽出し,さらに数回の追加実験でよりおいしい味を出せる組合せ条件を見つけることができるでしょう.そのテクニックこそ
直交配列表(直交表)と呼ばれるものを活用した実験計画法なのです.
「目から鱗が落ちる」とはまさにこのことであり, この方法をマスターした暁には,研究対象となる分野の基本的な固有技術を身に付けている人なら,「向かうところ敵なし」といってもいい位の威力があり, SQC手法の中でも最高のテクニックといっても過言ではありません.
1. 9回の実験で様子を見る!
先に挙げた4つの要因とそれぞれに対する3水準の条件を直交表を使って組み合わせます.
使用する直交表は表2に示した L9(34)型直交表です. 表3に具体的な 9通りの実験の組み合わせを示しました. |
表2 L9(34)直交表
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表3 9回の実験組合せ表
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A |
B |
C |
D |
| No. |
お茶の種類 |
使用する水 |
お湯の温度 |
蒸し時間 |
| 1 |
番茶 |
水道水 |
60℃ |
1分 |
| 2 |
番茶 |
浄水 |
80℃ |
2分 |
| 3 |
番茶 |
自然水 |
100℃ |
3分 |
| 4 |
煎茶 |
水道水 |
80℃ |
3分 |
| 5 |
煎茶 |
浄水 |
100℃ |
1分 |
| 6 |
煎茶 |
自然水 |
60℃ |
2分 |
| 7 |
玉露 |
水道水 |
100℃ |
2分 |
| 8 |
玉露 |
浄水 |
60℃ |
3分 |
| 9 |
玉露 |
自然水 |
80℃ |
1分 |
列番1から4までにとり上げた要因のA,B,C,Dをその順番に割り付けます.
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5人のテスターに試飲してもらい,それぞれの組み合わせで入れたお茶のおいしさを4ランク評価してもらいました.具体的にはおいしい順に ◎,〇,△,×としました.後でデータ解析する際にはそれぞれ3点,2点,1点,0点という具合に点数化しました.
表4に結果の一覧表を示します.例えば, No.1の組み合わせ実験では,5人全員が×印を付けました.No.2の実験では,3人が〇,2人が△でした.以下No.9までの結果は一覧表の通りです.
それぞれの評価結果を点数化し,平均点を一番右の欄に示しました.
次に,実験した要因A,B,C,Dのそれぞれについて,水準1,2,3の平均値をを計算し, バラツキの目安である平方和求めて表の下部に示しました.平均値に大きな差のある要因ほど平方和が大きくなる訳ですが,
今回の実験では4列と2列の平方和が相対的に大きい値を示しています. |
表4 おいしいお茶の入れ方:5人による評価結果
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No.
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A:お茶の種類
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B:使用する水
|
C:お湯の温度
|
D:蒸し時間
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3
◎
|
2
〇
|
1
△
|
0
×
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合計点 |
平均点
|
|
1
|
番茶
|
水道水
|
60℃
|
1分
|
|
|
|
5
|
0
|
0.0
|
| 2 |
番茶
|
浄水
|
80℃
|
2分
|
|
3
|
2
|
|
8
|
1.6
|
| 3 |
番茶
|
自然水
|
100℃
|
3分
|
|
2
|
3
|
|
7
|
1.4
|
| 4 |
煎茶
|
水道水
|
80℃
|
3分
|
|
4
|
1
|
|
9
|
1.8
|
| 5 |
煎茶
|
浄水
|
100℃
|
1分
|
|
|
3
|
2
|
3
|
0.6
|
| 6 |
煎茶
|
自然水
|
60℃
|
2分
|
|
1
|
1
|
3
|
3
|
0.6
|
| 7 |
玉露
|
水道水
|
100℃
|
2分
|
|
|
1
|
4
|
1
|
0.2
|
| 8 |
玉露
|
浄水
|
60℃
|
3分
|
3
|
2
|
|
|
13
|
2.6
|
| 9 |
玉露
|
自然水
|
80℃
|
1分
|
|
1
|
3
|
1
|
5
|
1.0
|
|
|
|
|
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総平均
|
1.09
|
|
水準1の平均値
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1.00
|
0.67
|
1.07
|
0.53
|
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水準2の平均値
|
1.00
|
1.60
|
1.47
|
0.80
|
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水準3の平均値
|
1.27
|
1.00
|
0.73
|
1.93
|
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平方和
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0.14
|
1.34
|
0.81
|
3.32
|
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|
自由度
|
2
|
2
|
2
|
2
|
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2.得られた実験データの解釈(分析)
通常は分散分析と称する統計的検定を行うのですが, そのよりどころになる平方和の相対的な大きさを比較することにより,効果の大小が分ります.もっと直感的には水準ごとの平均値の大小で効果の大きさが分ります.
よく考えてみればあたり前のことなのに,統計学者はまわりくどい方法で有意性の検定と称して結論を出すのに躊躇します. ただし直感で判断する場合は,平均値の差がバラツキより大きいことを確認する必要があります.
ここでいうバラツキとは同じような繰り返し実験データから計算される標準偏差を基準に考えるのが適切です.
また,今回のようにランクごとに判定するような場合には,
数人の平均値で比較するのであれば,0.5位の差があればその水準間に有意差があると考えていいと思います.
このように考えると,4列と2列が意味のある差を示していると考えられますが,単純にDとBの要因が有意と考えるのは早計です. 実はここが直交表の難解な部分なのですが,4列と2列は1列と3列の交互作用でもあるのです.
つまり,4列の主効果である「蒸し時間」と2列の主効果である「使用する水の種類」がお茶のおいしさを左右しているのか,
あるいは1列と3列の交互作用である「お茶の種類」と「お湯の温度」の組み合わせでおいしさが変化するのか,データだけでは決められないのです.
ここでお茶に関する知見があれば,それを考慮して判断するのです.今回の場合はおそらく交互作用の関係の方が強そうなので,
そのように考えてグラフを描いてみると図1のようになります. なお,縦軸の目盛3はおいしさ◎に相当します.
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入れる時のお湯の温度(℃) |
| 図1 お湯の温度とお茶のおいしさ |
このグラフで示されるおいしさの傾向は, あくまで予備実験ですから,次の段階で玉露であれば60℃前後の水準を細かく選んで時間や水の種類を変えた実験を組むのが普通でしょう.
また,番茶や煎茶については, 80℃から100℃の高温側で細かく実験することになるでしょう.
このように実験回数を大幅に短縮できる直交表のからくりについては次回詳しく説明しましょう. |
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