2002-10 QC&C Labo 梅木 信治

*** QCテクニック初級講座 *** 
これなら簡単,誰でも使えるSQC”(第14回)

実験計画には直交表を使おう!(その2)
---L8(27)型直交表を使った事例紹介 ---

 実験計画で直交表を使えば開発スピードが控えめにみても倍増する.日本では50年の歴史がありながら,一部の研究者や技術者しか活用していなかったが,最近はマーケティングの分野でもアンケート調査などに利用されるようになり,SQC手法としてもポピュラーになりつつある.

 今回は表1に示すL8(27)型直交表を使った実験計画の事例を紹介しましょう.この直交表は,2水準型のもので,8回の実験を行う時に使います.列がつありますから,実験因子は最大で7つ割り付けることができます.交互作用を考慮するなら,実験因子を少なめにした方が安全ですが,今回は4つの因子を割り付けた実験計画の例を紹介します.本論に入る前に,交互作用の見方について説明しておきます.

2列間の交互作用の見方(L8(27)型直交表の場合)
 表1の場合で説明しますと,1列と2列の交互作用は3列に現れるのですが,表1の下方にある成分と書いてある部分を見て下さい.3列の成分は ab となっていますね.これは1列の成分である a と2列の成分である b の積を示しており,ab の交互作用に相当することを意味しています.同じように考えると,1列と4列の交互作用は5列に,2列と4列の交互作用は6列に現れることがわかるでしょう.7列は1列,2列,4列の3つの交互作用です.

 一般に3つの交互作用は小さいことがわかっているので,この列にもう1つ新しい要因を割り付けることができます.ここで注意してほしいのは,7列に要因を割り付けた場合,1列との交互作用がどこかに現れる筈なので,これを見つける方法を教えましょう.1列と7列の成分のを求めると, a2bc になりますね.ここでa2 を 1 に置き換えて下さい.すると bc になりますから,それに相当する列を探すと6列になります.これが1列と7列の交互作用の列です.同じように,7列と2列の交互作用は成分の積がab2c ですからb21 に置き換えて ac ,すなわち5列に現れます.また7列と4列の交互作用は3列に現れることもおわかりでしょう.これらを整理してみると表2のようになります.


表1 L8(27)型直交表 表2 割り付けと交互作用
列番 成分 割り付け 交互作用
1 a A   
2 b B   
3 ab    A×B C×D
4 c C   
5 ac    A×C B×D
6 bc    B×C A×D
7 abc D   



 今回の実験のテーマは
「高性能磁性粉末の開発」です.先ず実験のバックグラウンドを説明しましょう.皆さんは家電製品のひとつとしてVTRを使っておられると思いますが,これに使われるビデオカセットテープの話です.最近はデジタル化が進み,ハードディスクレコーダーが出現してVTRも最新の家電機器とは言えなくなってきましたが,30年ほど前には放送局などの業務用にしか使われていなかったVTRがその後の技術の進歩で一般家庭にまで普及し,日常生活の中で使用されています.ご存知のようにビデオカセットテープを使って録画,再生を行うわけですが,このテープの表面には微細な磁石の粉末がコーティングされています.この磁石の粉末の特性が画質を左右するのですが,これから説明するのは約30年前に行われた高性能磁性粉末の開発に関する基礎実験の一部です.

 当時放送局で使用されていたVTRは価格も高価で大きさも机以上で,これを小型化し,コストダウンして家電機器にすることなど夢のような話でした.ビデオカセットテープに使われる高性能磁性粉末の開発もそれを実現するための大きなテーマでした.磁性粉末の代表的な特性のひとつである保磁力と呼ばれる特性が当時は約300エルステッド(エルステッドは保磁力の単位)であり,当面の目標としては500エルステッドに高めることでありました.それから磁性粉末は針状の形をしており,長さがミクロン弱でしたが,ノイズを下げるために0.5ミクロン程度まで細かくする必要がありました.

具体的な実験計画と速報的な結果
 粒子サイズは原料になる酸化鉄粉末の合成条件を変更することにより,ある程度可能でしたが,保磁力を高めるには磁石にするための化学反応条件が鍵を握っていました.そこでいろいろある条件の中から,粒子サイズ(長さ),熱処理還元温度還元時間の4つの要因を選び,L8(27)型直交表を使って表3 に示すような8回の実験を行いました. それぞれの実験要因を1列,2列,4列,7列に割り付けてあります.表2に示したように,交互作用は3列,5列,6列に現れます.

 分散分析法によるデータ解析は後で述べますが,とりあえず直感的にわかる傾向を調べることにします.細かい技術的な説明は省きますが,実験結果を見ると,実験No.3 と No.4 の保磁力が500エルステッド(Oe)を超えています.No.3 と No.4 の共通する実験条件を探してみると,粒子サイズが 0.57ミクロン,熱処理温度が 500℃であることがわかります.つまりより細かい粒子の原料を使用して,還元する前に還元温度より高い温度であらかじめ熱処理を施すことで目標にしていた 500エルステッドをクリアすることがわかったのです.次の段階では技術的裏付けを検討し,更に実験条件を細かくしてベストな組み合わせ条件を調べるステップに入ります.
3 L8(27)型直交表を使った実験例
列番 1 2 3 4 5 6 7 特性
要因 粒子サイズ 熱処理   還元温度     還元時間 保磁力
単位 (ミクロン) (℃)   (℃)     (分) (Oe)
実験No.1 1 (0.57) 1 (Non) 1 1 (350) 1 1 1 (60) 421
2 1 (0.57) 1 (Non) 1 2 (400) 2 2 2 (90) 393
3 1 (0.57) 2 (500) 2 1 (350) 1 2 2 (90) 525
4 1 (0.57) 2 (500) 2 2 (400) 2 1 1 (60) 508
5 2 (0.82) 1 (Non) 2 1 (350) 2 1 2 (90) 430
6 2 (0.82) 1 (Non) 2 2 (400) 1 2 1 (60) 436
7 2 (0.82) 2 (500) 1 1 (350) 2 2 1 (60) 463
8 2 (0.82) 2 (500) 1 2 (400) 1 1 2 (90) 454


分散分析法によるデータ解析
 前回の事例と同様に,各列の平方和を計算します.表4の右端にその値が記入されていますが,一見して2列と3列の値が大きいことがわかります.3列は粒子サイズと熱処理の交互作用の列ですから,4列から7列までを誤差項とみなして分散分析をしてみると,Bの熱処理および粒子サイズと熱処理の交互作用が高度に有意であることがわかります(表5).
表4 割り付けと交互作用,平方和の表
列番 成分 割り付け 交互作用 平方和
1 a A(粒子サイズ)    512.0
2 b B(熱処理)    9112.5
3 ab   A×B C×D 3528.0
4 c C(還元温度)    288.0
5 ac   A×C B×D 220.5
6 bc   B×C A×D 2.0
7 abc D(還元時間)    84.5

表5 分散分析表
要因 自由度 平方和 平均平方 分散比 P値
Source DF Sum of Squares Mean Squares F Ratio Prob >F
A(粒子サイズ) 1 512.0000 512.0000 3.4420 0.1372
B(熱処理) 1 9112.5000 9112.5000 61.2605 0.0014
交互作用 A×B 1 3528.0000 3528.0000 23.7176 0.0082
誤差(4,5,6,7列) 4 595.0000 148.7500    

要因効果のグラフ表示
 分散分析で有意となった粒子サイズと熱処理条件の交互作用のグラフを描いてみると図1のようになります.

熱処理条件(℃)
図1 保磁力を左右する粒子サイズと熱処理条件
得られた実験結果の技術的な検討
 実験の結果として現象的には粒子サイズを小さくして,還元する前に熱処理を行うことにより,保磁力は500エルステッドを超えることがわかりました.少し専門的になりますが,これらの実験条件の技術的背景を説明しておきたいと思います.一般に実験する前に関連する技術文献や該当する技術分野の専門知識を参考にして実験計画を立てるのですが,今回の事例では磁気理論固体化学反応に関する知識が必要です.

 具体的には,磁性粉末の粒子サイズが小さくなると保磁力は高くなる傾向にあるのですが,粒子の結晶構造が不完全な場合は逆に保磁力が下がってしまいます.結晶化を高めるためには熱処理が効果的なのですが,出発原料である酸化鉄粉末を還元して磁性を持たせる工程でも400℃前後に加熱されますので,従来の汎用品は熱処理と還元反応は同時に1つの工程で行っていました.今回の実験サンプルのNo.6が従来品の条件に近い組み合わせです.同じような条件で粒子サイズの小さいサンプルを還元すると,保磁力は上がらずに逆に下がってしまいます.

 そのようなサンプルをX線分析で結晶化の程度を測定してみると従来品より低いことがわかりました.温度を高くすれば結晶化が進みますから還元温度を上げてみると,今度は反応が進みすぎて安定な磁性粉末になりません.そこであらかじめ高温熱処理を施す方法を考え,実験してみたのが今回の計画なのです.このヒントがきっかけになってその後いろいろな検討を行い,小型VTR用ビデオテープの開発に成功しました.

 すでにお気づきの方もおられるかもしれませんが,3列に現れる交互作用は表4で触れたように,A×BのほかにC×D である可能性もあります.そのどちらが有力であるか判断するには,統計的にはそれぞれの成分の主効果を較べてみる方法があります.一般に交互作用がみられる場合には,その組み合わせの要因の主効果も大きいケースが多いのです.今回の場合は,表4からわかるように,主効果が大きいのはBで,CとDは小さいですね.もう1つの判断基準は技術的にその交互作用が説明できるかどうか調べてみることです.すでに述べたように,A×B技術的根拠があります.

 文章に書いてしまえばコロンブスの卵と同じで,あまり感激がないのですが,実験を行っている当事者にしてみれば,いろいろなモデルを考えてその予測が当たるかどうか実験を繰り返し,不十分ながらもわずかでも可能性が見つかると,それをテコにして新しいモデルを考えてまた実験を繰り返して目標に向かって進むのです.直交表を使えば同時にいくつかのモデルを想定して短期間に目標がクリアできるので,実験効率が高いといえるのです.