主人公ジョウナ・ディアラム(34歳)。脱臼癖が限界に達し、やむなくプロ障害騎手を引退して3年。引退後は、個人営業のサラブレッド仲介業者に転身。
競馬界でも、サラブレッドの売買は直接大金が絡むだけに、どろどろとした世界であることは、小説の世界でなくとも想像に難くない。サラブレッドの売買は、日本のような庭先取引が主流ではなく、ほとんどがセリによって行われる。虚々実々の駆け引きが繰り広げられるのだ。あるいは意地を張り合う馬主によって、サラブレッドの値がどんどん上がっていく様子など。また、不正行為に等しいような様々な取引もあるのだ。「サラブレッド取引の世界では、正直、不正直は人の考え方の違いにすぎない」。
主人公ジョウナは、競馬の一番華やいだ舞台から、こうした一番陰のある世界へと転身を遂げたが、この世界でも地道な努力で徐々に確固とした地位を築きつつあった。
最初は、ケリイ・サンダズのために買った馬が強奪された。帰宅するとアル中の兄は何者かが家に置いたウィスキーを飲んで泥酔していた。夜中に馬主に渡す途中の高価な3歳馬が厩舎を抜け出した。その馬が原因で引き起こされた交通事故(しかし、これによってソウフィ・ランドルフという恋人を得るのだが)。そして再びケリイのために買った馬が奪われそうになる(未遂)。なぜこうも? 当初は自分へ向けられた災厄だとは思わなかったが、一連の出来事はどうやら自分を危機に陥れるためのものらしいと徐々に悟る。挙げ句には、自宅が放火される。では、何のために? 裏で糸を引く人物は誰なのか? ジョウナは、脅迫に屈せず、そして不正に組みせず、孤軍奮闘。自分への災厄を逆にバネにするかのように犯人グループに対抗していくのだ。
ソウフィは言う。
「あなたは、契約をしたら、絶対に守る人ね」
「どうしてわかる?」
「自尊心が強すぎて、守らずにいられないのよ」
アマチュア騎手ニコル・ブレヴェットは言う。
「地面に立っている時はまるで柔和な人間なのに、馬に乗ると手に負えない相手だった」
「正直にいって……おれはきみからいろいろと学んだ。たとえ不公正な目に会っても、そこらじゅうの人間にいいつけてまわらない、ということを学んだ。……些細な不公正は肩をすぼめて忘れ捨て、過ぎ去ったことではねまわらないで次の仕事にかかり、先のことに全力を集中することを学んだ。いろんなことがうまくいかなくてもあまり気にしないことを学んだ」
米国の同業者ポウリ・テクサは言う。
「侵略者の典型的な手口を知らないのか? まわりでいちばん強い人間を選び出して、その人間を潰すことだ。そうすれば、残りの弱い連中は子羊のようにいいなりになる」
「しかし、わたしは、このあたりでいちばん強い人間ではない」
「自分を過小評価しているな」
この作品にもこんな記述がある。
「……あなたがどうしても気になるのであれば、ラドナー・ハレー事務所に依頼したら、どうでしょう? 彼らなら、調べ出してくれますよ」
〜ラドナー・ハレー探偵社の登場は本編も含めて何度目かな? シッド・ハレー再登場の伏線は、実に、ずっと続いているようだ。
|