『祝宴』  Dead Heat      

(2007年作品)


 いよいよ共著者として息子フェリックスの名前が入った。かつて物理学の教師だったということだから、本書に出てくる爆弾の記述や、エピソードとして“実際にあった”ロンドンでの元KGBスパイ暗殺に放射性物質が使われたことに関する記述はお手のものということになろう。作品とは関係ないが、この放射性物質の記述には「なるほど」と思った。これからも新作が期待できるということだろうか?

 今年、ミシュランの日本語版が出て話題になったが、今回の主人公は、ニューマーケットに一つ星のレストラン〈ヘイ・ネット〉を持つシェフ、マックス・モアトン。ニューマーケットの人気店で夜は毎日予約で一杯。だが、どこの国でも同じだと思うのは、向こうでもロンドンに店を持つことが一種のステイタスなのだ。モアトンもそれを狙っているのである。
 2000ギニー前夜祭でモアトンが料理を担当し、食中毒が発生。モアトン自身も下痢と嘔吐に苦しむのだが、翌日にはレースのスポンサー企業の昼食会の料理も担当する。食中毒の原因もわからない段階で翌日の料理も担当するということは実際に可能なのだろうか。日本なら保健所から待ったがかかるのではなかろうか、と思うのだが…。それはともかく、その昼食会の席に爆弾が仕掛けられ、多数の死傷者が出る。モアトンは危うく難を逃れ、軽傷で済むが、従業員が犠牲になる。その部屋は直前に中東の王族の部屋と交換されたので、それ狙ったテロと思われていた。
 食中毒事件で店の予約もキャンセルが相次ぐのだが、厨房の清潔さにも、調理方法にも、食材にも自信を持つモアトンは、何者かによって仕掛けられたものに違いないと信じ、当日の招待客を探り始める。その過程で、当初は爆弾テロも中東の王族を狙ったものだと思われていたが、実際には狙いどおりの犯行だったと推測する。だが、それを警察に話しても相手にされないだろう、ということで自ら調査を開始するが、それを阻止しようとするかのようにモアトンの身に災厄が重なる。いつものフランシスだ。
 ひょんなことから知り合い、互いに惹かれたオーケストラのヴィオラ奏者である恋人キャロラインを追って、難を逃れるために行った米国でも調査は続き、核心へとせまっていくが、それを阻止する手も執拗にせまってくるのである。災厄の記述がちょっと淡泊になったのかなあ、という気もしないではないが、主人公が困難を克服していくのは、いつものフランシスだ。

 これもストーリーに全然関係ないことだが、米国での記述で、「アメリカ中どこにでもある都市風景」としてファストフード店やスーパーマーケット、ドラッグストア、そして派手な看板が立ち並ぶ様子が書かれ、伝統ある英国と対照的であることが書かれているのは、まさに英米社会の違いが垣間見えて興味深かった。もちろん日本は米国型であるのは論を待たないが、それでいいのか、考えさせられる。
 それから、ポロ競技がストーリーにからんでくるのだが、日本にいると英国ではけっこうメジャーなスポーツのように思ってしまうが、そうでもなさそうなこと。英国人でも一般にはルールがよくわからないもののようだ。よくよく考えれば馬やその他そうとう金がかかるだろうから、上流社会特有のアソビなのだろうことはわかる。きっとTV中継などされないものなのだろう。また、米国でもけっこうポロは盛んだということだ。

 それにしても、『祝宴』という邦題はどこから発想されたんだろうか?