『証拠』  Proof

(1984年作品)


 トニー・ビーチ(32歳)。ワイン商。妻エマは27歳の若さで半年前、脳出血で死ぬ。祖父、父とも、勇敢な軍人として名誉を立てて勲章までもらい、障害競馬の騎手としても活躍した。だが、自分に父や祖父ほどの勇気がないと感じ、トニーは同じ道を歩まなかった。自分の前途もわからず、フランスへ渡ったとき、あるワイン・シッパーと出会い、自分のその後の仕事を見つける。トニーは味を見分けるのに天賦の才があったのだ。

 競馬調教師ジャック・ホーソーンの毎年恒例のガーデン・パーティに、今年もトニーは酒の注文を受けて出掛けたが、思いもかけない事故に遭遇する。無人の馬匹運搬車が坂を下り、宴席のまっただ中に飛び込み、多数の死傷者を出す大惨事となったのだ。率先して救助にあたるトニーは、そこで、その後行動を共にするジェラード・マグレガー(私立探偵)と知り合う。

 事故調査に来たウィルスン主任警視の言「ミスター・ビーチ? 君がパーティの飲み物を供給したのだな? ……それに、君は観察力が鋭い」

 その後、トニーは、その利き酒の才を警察に買われて、偽ラベルで売られるウィスキイの調査にかり出される(午前中から何軒ものバアが開いているというのは英国ならではなのか?)。一方、マグレガーからは、運送会社のタンク・ローリーから盗まれたスコッチの行方を追う仕事を依頼される。

 マグレガーの言「どうだろう。コンサルタント代をもらう気はないかね? 君の得意の分野だ。ウィスキイを識別するのだ。……君はほかにも優れた能力がある。……観察力、臨機応変の才、指導力」

 古今東西、アルコールは徴税の対象で、そこからアルコール度=「プルーフ(証拠)」という。こうして、酒、とりわけワインに関する蘊蓄を傾けながら話は進行し、酒にからむ二つの事件は、「シルバー・ムーンダンス」というバア(オーナーは先のパーティでの事故で死亡)を軸に交わり、非道な殺人事件をもひこ起こし、凶悪な犯人の姿が浮かび上がらせていく。
 トニーとジェラードは、幾度も凶悪な手から狙われながら、犯人の核心をとらえていく。ケガをして痛さをこらえながらの活躍は、フランシスの主人公の特長だ(騎手に通じることでもある)。
 決して臆病ではないが、自分は勇敢とは程遠いと思っていたトニーだが、パートナーの危機に際し、埋もれていた一族の血が湧き上がるのだ。