『査問』  Enquiry

(1969年作品)


 主人公ケリイ・ヒューズ(30歳)。障害競馬のリーディング・ジョッキー。農家の出で、L・S・E(ロンドン大学経済学部)卒業、その後偶然のきっかけで騎手となるという異色のジョッキー。妻ロザリンドは4年前に事故死。
 ある2月、調教師デクスター・クランフィールドと共に、査問委員会にかけられ、免許を剥奪される。ケリイの乗った人気馬スクェルチが2着に敗れ、同じクランフィールド厩舎の人気薄チェリイパイが優勝をさらったレースを八百長と断定されたのだ。しかし、騎手にも調教師にも身に覚えはない。査問会で、査問委員長ガワリイ卿はでっちあげられた証拠まで採用し、ケリイの反論は悉く却下したのだ。一般社会でいう冤罪である。
 昨日まで親しく接してきた人間が、冷ややかな視線を投げ、自分を避ける。自分の両親からも冷ややかな手紙を受け取る。これだけで立ち直れないような失意のどん底に陥る。普通の人間だったら自殺をも考えそうな絶望的な状況である。事実、調教師はその心がわずかにあった。
 しかし、自分はしていないことを一番よく知っている。クランフィールドは常日頃、騎手を雇人と同様(低い階層の人間)にみているため、真相究明のパートナーとはなりえない。味方はいない。自分だけが頼りだ。従って、ケリイは、誰が何のために自分を陥れたのかを探るため、まさしく孤軍奮闘である。
 真相に迫るケリイを阻止しようとする手は、命をも狙う。
 「こんな目にあうのを避けることができたけど……避けなかった、という意味?」
 「降参すべき立派な理由があれば、降参する。なければ、しない」
 事件の中で、嫌いだったロバータ・クランフィールドとの距離が急速に接近する。