『追込』  in the Flame

(1976年作品)


 今回は、馬の絵を専門に描く画家チャールズ・トッドが主人公。しかも旺盛な冒険心の持ち主、回転の速い頭脳、逆境に怯むことはない(だがたまに判断をうっかり誤る)。
 オーストラリアに住む悪友で同業のジック・キャサヴェッツとその妻セアラを相棒に、従兄の家に押し入り、妻のリジャイナまで殺害した犯人を捜す。鍵は "in the Flame"。自分を邪魔者と察知した犯人との追いつ追われつの攻防だ。

 舞台の大半は、フレミントン競馬場で行われるメルボルン・カップ前後のお祭り気分のオーストラリアである。メルボルン・カップの日は、オーストラリアは休日である。

 「伝統というのは、生み出すのはかんたんだが、排除するのは容易ではない。」
 〜オーストラリアの競馬場には男性専用席がある。本書の執筆時にはあった。今はどうなのかは知らないが。その来歴も書かれているが。

<トッドの信条・思考あれこれ>

 「私は、秋は大嫌いだ。憂鬱の季節、死の季節だ。毎年、木の葉とともに意気消沈し、肌を刺すような冬の寒気到来でやっと元気を回復する。精神医学的統計によれば、自殺の発生率は、再生、生長、陽光の下で体を伸ばす時季である春にいちばん高いことになっている。私は、その点がついぞ理解できないでいる。かりに自分が崖からとび下りることがあるとすれば、それは、憂鬱な万物衰退の時季であるはずだ。」

 例えば、暗殺されたとき、リンカーンにケネディという秘書があり、ケネディが暗殺されたときの秘書はリンカーンという名前だった。

 「世の中に、酒呑みは大勢いるが、アル中は酒にとりつかれている。マニイホリックは金にとりつかれている。いくらあっても満足できない。満足することが不可能なのだ。いくらあっても、もっとほしい。おれはなにも、一般の金に困っている連中のことをいっているのではなくて、本物のきちがいのことをいっているのだ。金、金、金。麻薬と同じだ。マニイホリックは、金を手に入れるためには手段を選ばない……誘拐、殺人、コンピューター悪用、銀行強盗、親殺し……なんでもする」

 次の一連のフレーズ(作中では「トッドの法則」という)には、いちいちなるほどと感心してしまう。○○や××、あるいは一部国民にそのまま聞かせたい。

 「遠く離れていながら判断を下すべきではない」
 「事実は判断でなく、判断は事実ではない」
 「感情を政治の基底にすべきではない」
 「もっとも危険な嘘は、真実と思い込んでいる者が口にする嘘である」

 こんなフレーズがさりげなく飛び出すから、フランシスはたまらない。