『混戦』  Rat Race

(1970年作品)


 主人公マット・ショア。デリイダウン・スカイ・タクシイ社のパイロット。主に競馬場に騎手、調教師、馬主らを運ぶのを生業としている。34歳。離婚し、無一文。住まいはデリイダウン社のパイロットが歴代使っている古ぼけたトレイラーハウス。実は、定期航空機のパイロット免許を持つ一流飛行士。英国海外航空会社(BOAC)で訓練を受けた後、9年間、勤務した。副操縦士で、もうすぐ機長になるところで退社。その後、民間航空会社で会社解散まで機長を勤める。その後、南アメリカの航空会社、武器の密輸機の操縦、農薬散布の仕事を経て現職。

 パイロットにとってもっとも重要なのは、慎重、冷静、緻密、受容的であること、とくに、慎重であること。
 飛行機の操縦に関しては、フランシスは実体験を持つから実に詳しい(確か夫人もパイロットの免許を持っていたのではなかったかな?)。この作品より前にも、アマチュア・パイロットを主人公にした『飛越』で、飛行機を利用した大脱出劇を描き、息つく暇なく読ませてもらったが、今回も空を舞台にした緊迫した危機回避劇でハラハラさせられる。競馬に次ぐ、フランシスの独壇場である。

 マットはある日、競馬場からの帰り、英国の人気ジョッキー、コリン・ロスを乗せての飛行中、わずかな機器の異常を感じ、乗客に不平をいわれながら緊急着陸する。乗客が全員降りた直後、なんとそのチェロキイ機が爆発炎上したのだ。これが事件の始まりだった。
 誰が何のために、誰を狙ったものなのか。マットの英知は犯人を探り出すが、それがかえって事件と関わらざるを得なくなる。そして犯人から危害を受けるにもかかわらず、最終的な犯行を阻止するために不屈に意思力を発揮する。
 定期航空会社での経験から、誰ともかかわってはいけない、と心に決めながら、コリン・ロス兄妹との交流が深まっていく。

 人気ジョッキーは、1日に2箇所の競馬場で騎乗することも珍しくない本場英国。だから飛行機での移動が重要なときもある。滑走路のある競馬場も珍しくないというのだから凄い。

 残念ながら、フランシスは昔から日本にあまりいい印象は持っていないようだ。本編にこんな記述がでてくる。

 「私たち、日本ではとてもやせたわ、コリンと行ったあの年……」
 「あれは、暑さより、食べ物のせいさ」
 「あの食べ物、どうしてもなじめなかったわ……」

 誰か変な物食べさせたのかいな。