『騎乗』  10-lb PENALTY    騎乗 騎乗

(1997年作品)


 17歳の主人公ベネディクト・ジュリアード。これまでのフランシスの著作だったら、彼の父ジョージのように30代が主人公になるべき年代だったが、父もフランシスの主人公になるべき人物ではあるが、今回は未成年をヒーローに据えた。父はザ・シティで財を築き、政界へと進出しようとしている。ベンは、これまで父の言うとおりの学校に行き、乗馬、スキー、射撃を学んだ。
 ベネディクトはいま、ギャップ・イヤー(大学入学前の社会勉強の期間といったところか。日本の「浪人」よりは有意義ではあるなあ)を厩舎で過ごし、プロ騎手を目指していた。ところが、ある日、その夢は無惨に打ち砕かれる。調教師から、麻薬常用の濡れ衣を着せられた上、騎乗技術を酷評され、失意のうちに厩舎を去る羽目に。そこで父に呼ばれ、父ジョージが補欠選挙に立候補したことを知る。そして、選挙運動の手伝いをさせられることに。
 父ジョージは党本部(保守党か?)から請われて補欠選挙に立候補。当選すれば将来の首相候補とされる。ここで英国の選挙の様子が描写されるが、運動自体はあんまり日本と変わらんなあ。死んだ議員の妻が候補者になろうとするところなんかそっくりだが、そう簡単にすんなりと候補に決まらないところが違いか。開票結果が候補者が一堂に集まって発表されるのも違うところ。英国は議会政治の老舗といわれるが、本書を読んでいると、政治はいずこも同じという気がしてくる。日本の政治もそんな卑下することはない。権力闘争もいずこも同じだが、日本はあまりにも国家の行方や国益を考えない国会議員が多すぎる。
 ジョージの姿は公明正大、国会議員の鏡である。とんとん拍子の出世街道だ。それを面白く思わぬ連中が存在するのも当然で、ジョージの出世を阻止しようとする手は、手を変え品を変え襲いかかる。息子ベネディクトは、父を守ることを誓い、さまざまな経験をするなかから人間的な成長を遂げていく。

 英国の競馬開催を一手に引き受けるウェザビー社が登場するのもフランシス作品では初めてではなかったろうか。

 ついぞ最後まで、なぜ邦題が「騎乗」なのかわからなかった。
 訳も正直ちょっとひどい。36作品も翻訳していて、進歩するどころか退化しているのではないか。「てにおは」は再版では直っているだろうが(でもあまりに今回は目に付いた)、むりやりありもしない日本語をつくったりする意味があるのだろうか。
 翻訳とは、言語のコピーではない。福田恒存は「自国語の語義や語法を拡張しようとする文化的・平和的略奪行為」が翻訳だと言ったそうだが、その態度とは正反対だ。