『標的』  Long Shot

(1990年作品)


 主人公ジョン・ケンドル(32歳)。旅行会社でサバイバルの専門家としてガイドブックの執筆を手がけ、6冊の著述を手がける。その後、小説家になるべく一念発起して独立。エージェントは将来を嘱望しているが、処女作(『遠く故郷を離れて』……なんとも平凡な題、原題はなんといったんだろうか?)の出版を待つ身のいまは、なんとか食わねばならない。
 両親はカリブ海のケイマン諸島(キューバの南、ジャマイカの西)に住んでいるという設定。おっと、ここは現在フランシスが住んでいるところだ。ちょうどこの作品を書いた頃に移住したのだろうか? 「母の健康にいいのだ」とケンドルに言わせている。(フランシスの)妻の健康にいいのだ。
 英国の冬は何とも寒いらしい。間借りしている部屋の女主人が"避寒"に出かけ、当座の住むところもなくなり、エージェントの事務所で出会った著名な調教師トレメイン・ヴィッカーズの自伝執筆を1カ月の住み込み付きで引き受ける。ここから数々の事件に巻き込まれていくはめになるのだ。
 ヴィッカーズ家はトレメイン、長男パーキンとその妻マッキイ、次男のガレス。厩舎を手伝っているのはマッキイだけで、パーキンは家具職人で、自前の仕事場をもつ。ガレスはまだ学生だ。隣人に馬主のハリイ&フィオゥナ・グッドヘイブン。そのいとこのアマチュア騎手ノーランは、喧嘩っ早くて粗暴(裁判沙汰にもなっている)。トレメインの専属プロ騎手サム・イエイガーは陽気で好き者。
 こんななか、ジョンは一家ととけ込み、トレメインとガレスの調理師として腕をふるい、騎乗技術をも発揮して朝の調教をも助ける。アマチュア騎手としてのデヴューも約束されるようになる。一家のよき相談相手ともいうべき立場で、トレメインの信望も厚いのだ。
 「あなたは説明されなくてもいろんなことが判る、たいがいの人間よりよく判っている、とトレメインが言ってるわ。ハリイは、……資質、想像を通じての洞察のせいだ、と言うの」
 さて、昨年失踪した女性厩務員アンジェラ・ブリッケルの死体が発見されたところから、事態は急展開する。ジョンはサバイバル技術で一家とその周辺の人たちの危難を救ってきたが、最後は自己自身が最大の生死のサバイバルを経験することになるのだ。Long shotからのサバイバルだ。それも、刑事にさえ頼られるジョンの洞察力のせいなのだ。