『飛越』  Flying Finish

(1966年作品)


 主人公ヘンリイ・グレイ(26歳)。伯爵家の末子ながら長男。
 この作品が書かれた1960年代の時代背景を色濃く反映した状況設定になっている。英国の当時の様子は何も知らないが、ヘンリイが伯爵を継ぐことを嫌がり、あえて競走馬空輸の実務担当者になるのも、当時の思潮の表れだと感じる。書中にも「労働者の仕事」という言葉が出てくる。
 共産主義国家が一種の憧憬をもってみられていた時期。しかし、フランシスはそんな浮ついた雰囲気に流されてはいない。

 ヘンリイはアマチュア障害騎手であり、そして毎週末には飛行機の操縦を趣味(たまには実益)としている。口数が少ないことから、周囲の者はヘイリイを見誤るが、熱情と強固な意思をもつ。
 ガブリエラ曰く。「あなたは、一見エネルギッシュに見えない。物静かだし、油のゆきわたった機械のようになめらかに動いている。無理をしているようすはないし、がくがくしたぎこちなさもない。でも、体のどこかにダイナモを内蔵しているんだわ。そのダイナモは決して止まらない。私、その力を感じるの。一日中感じてたわ」
 サイモン曰く。「火山の上にのってる氷」

 障害競馬、そして飛行機のパイロットといえば、フランシスの独壇場。パイロットの出てくる作品は他にもあるが、これはその最初の作品だと思う。

 物語、そして謎は、日常の仕事の中で静かに進行していく。ヘンリイの転職先ヤードマン運送会社の競走馬空輸の実務担当者が以前2人、いずれもイタリアで姿を消した。そして今また、親友と思っていた事務担当のサイモン・サールがイタリアで消えた。ふと謎に気づいたヘンリイだが、これもまたイタリアで、恋人ガブリエラとともに凶弾の的となる。
 迫る死の恐怖。しかし、その期に及んでも冷静沈着で物事に対処するヘンリイ。

 圧巻は、この窮地からの大脱出劇だ。最後まで一気に読ませるフランシスの真骨頂である。