『配当』  Twice Shy

(1981年作品)


 本編は、二部構成で、連続したストーリーながら、主人公が換わる。しかし、「敵」は同じ。共通の「敵」からの災厄に直面し、各々自分の持てる技量と知恵を駆使してそれを克服していく。

 第一部の主人公、ジョナサン・デリイ(33歳)。中学校の物理学科の主任教師で、射撃の名手。射撃で英国のオリンピック代表選手だった。冒頭、フランシスは
 「射撃の名手であり物理の教師である わが息子、フェリックスに
 愛と感謝の念をこめて 本書を捧げる」
と記述している。つまり、ジョナサンのモデルは、ディック・フランシスの息子なのである。
 ジョナサンは、「50ヤードの距離の親指の爪ほどの的に十中九回命中させるほどの腕前」を持つ射撃の達人。唯一順調でないのは、夫婦関係。妻セアラに子供ができないことが主因で、最近つとに冷え切っている。

 友人のコンピュータ・プログラマー、ピーター・キースリーからひょんなことから預かったカセットテープは、3度に1度は当たるという競馬予想プログラムだった。これを手に入れようとする邪悪な敵が、ジョナサンを執拗の追いつめる。
 コンピューター・プログラムがカセットテープに記録されているのは時代を反映しているもの。しかも、グラントリー・ベイシックという言語で書かれている。「コンピュータを造る会社はどこも、自社独自のベイシックを組込んでいる」「良識より利益優先だよ」「彼らは力づくで顧客を確保することはしても、自社の機種にかえるよう人を説得することはまずしないよ」。時代はだいぶ変わりつつあるようだが……。
 当時、教師の給料は相当低かったのだろうか(いまはどうか?)。「教師。給料の安い惨めな連中だ」という言葉が出てくるし、同僚のコンピュータの教師テッド・ピッツは、妻子を抱え、トレーラーハウスに住まいし、給料日前の食費もままならない様子が出てくる。従って、ピッツはこのプログラムに食指を動かすが、「おれの場合は、100%の確率じゃなけりゃならないんだ」。
 この勝馬システムの作成者は、リーアム・オゥローク。彼は馬券で生計を立てていた。そのシステムが書かれたノートが、オゥロークの老未亡人のところから盗み出されたのだ。
 「人は年とともに愚かになるわけじゃないわ。若い時に愚かだった者は、年をとっても愚かでいるかもしれない。若い時に頭脳明敏だったら、その明敏さは必ずしも衰えるとはかぎらないでしょう?」
 敵はジョナサンからテープを奪い取るため、妻セアラをも巻き込むが、ジョナサンの沈着冷静な行動と射撃の腕で、危機を脱し、敵を追いつめていく。

 第二部の主人公、ウィリアム・デリイ(29歳)。第一部の主人公ジョナサンの18歳違いの実弟。場面は、第一部から14年が経過した。米国のリューク・ヒューストンの英国における競馬関係支配人。一年契約。キャシイ・モリスと同棲中。
 「人は、当面の必要に応じて絶えず権力意識を調整することができないと、運が傾いた時には慢性的な欲求不満に陥ることになる。下手をすると、気難しくなり、権勢欲にとりつかれ、専制的になる。自分の場合は、リュークとの1年契約が切れたら、分相応の生き方に縮まるはずだ」。
 ウィリアムにとっても、兄ジョナサンの存在は大きい。ジョナサンは妻と共に米国に渡り、大学教授に職を変えている。
 「非常な危機にさいして、なにも異常なことが起きていないような物の言い方をし行動するのがジョナサンだ」。
 同じ敵がウィリアムを襲う。14年を経て、改めて勝馬プログラムをめぐる災厄。でも、いま誰の手にあるのか? 今でも有効なプログラムなのか? ウィリアムはそれを追及し、意外な事実に出くわす。そして、ウィリアムを襲う災厄は、ジョナサンのときを上回るものだった。ウィリアムは、キャシイや友人バナナにも助けられながら、この苦境を脱する。