| ホームへ戻る | 第1段階 | 第2段階 | 第3段階 | 第4段階 | 第5段階 |
| モデル適用の実際 | 第6段階 | 第7段階 | 第8段階 | 第9段階 | 参考文献 |
![]()
日本名:MIDORIモデルの由来
PRECEDEは,Predisposing, Reinforcing, and Enabling Constructs in Educational/
environmental Diagnosis and Evaluation(教育・環境診断と評価における準備・強化・
実現因子)の頭文字で,「実施に先立って行われる」という意味もあります。
また,PROCEEDは,Policy, Regulatory, and Organizational Constructs in
Educational
and Environmental Development(教育・環境開発における政策・法規・組織因子)の
頭文字で,「続いて行われる」という意味もあります。
日本では平成8年から10年まで,親しみを込めて「PPモデル」と略して呼んでいました
が,平成11年1月13日に,このモデルの提唱者である L.W.Green先生と懇談する機会が
あり,その際,彼から「PP」(ピーピー)という発音は,アメリカの幼児語で「おしっこ」という
意味があり,できれば,他の親しみやすい日本名をつけてはどうかと提案されました。
一杯やりながらのディスカッションで「MIDORIモデル」の名称が提案されました。MIDORIは
言うまでもなく,彼の名前 Greenの日本語「みどり」であり,
みんなで,どんな場面でも,りようできるモデルであるという思いを込めました。
また,彼自身のアドバイスもいただいて,
Mutually Involved Development & Organization of Research for Intervention
「相互の参画による展開と組織化を可能にする介入方法」といった意味を持たせて,
MIDORIというローマ字で表記することにしました。この名称は彼自身の承諾も得て,
日本におけるこのモデルの名称として使うことになりました。
PRECEDE部分は,地域診断(ニーズアセスメント)から企画までに相当する部分です。
第5段階と第6段階の間で折り返して,実施から評価のプロセスであるPROCEED
部分
とちょうど対称的になります。対称的というのは,診断プロセスで用いた指標がそのまま
評価指標になるということを意味しています。
PRECEDE部分は第1段階の社会診断から第5段階の運営・政策診断まで順を追って進
めることになっていますが,必ずしも,順番に進めなければならないというものではありま
せん。次に述べる原則を守ることで,臨機応変に展開することが可能です。
1)社会診断のプロセスを入れること
糖尿病対策や喫煙対策のように取り組むべき健康問題や保健行動が明確になっている
場合には,疫学診断や行動・環境診断から始めることも少なくありませんが,健康問題や
保健行動の改善が何をめざすのか,言い換えれば,対象者のどんなQOLを改善させよう
としているのかを確認することが不可欠です。こうした意味で,早い段階で社会診断のプロ
セスを入れることが望ましいのです。
2)当事者である住民や関係者とともに進めること
QOLに関することや生活習慣や環境要因に関すること,更には,行動の背景にある住民
の考え方などについては,当事者である住民や地域の関係者から情報を得ながら進めること
が不可欠です。フォーカスグループ(当該の問題に関わる住民や関係者)からのヒアリングや
デルファイ法などの各種の手法を用いて,診断に必要な情報を収集することが必要です。この
プロセスで各段階の診断で用いる項目が抽出されることになります。また,これらの診断項目に
関する地域の実状について,大まかな情報を得ることも可能ですが,必要に応じて,実態調査
(多数調査)を検討することも必要です。
3)既存の情報を活用すること
診断プロセスの中では,優先順位を検討する作業が重要な意味を持ちますが,そのためには,
保健行動と健康問題の因果関係,各因子が他地域と比較してどうかという相対評価のための
全国のデータや近隣地域のデータなどが必要になります。これらの情報を文献や各種報告の中
から得ることが重要です。
PROCEED部分
PROCEED 部分は,PRECEDE 部分で地域診断に基づいて企画された事業(健康教育や各種
保健施策)を実施し,評価するプロセスです。評価の部分は3段階に分かれており,事業の実施
経過についての情報をもとに評価される経過評価(第7段階),事業による影響(住民の意識や
行動,周囲の状況,社会資源の整備状況など)を評価する影響評価(第8段階),事業の結果
として,健康問題やQOLが改善したのかを評価する結果評価(第9段階)から成ります。
|
評価の段階におけるポイントは,3年後や5年後に評価するというのではなく,5年後の目標値
の達成に向けて,各評価指標が改善されているのかを,随時モニターすることです。わざわざ,
実態調査を行うというのではなく,健診や相談業務といったルーチンワークの中で,評価指標が
集めれるような仕組みを作っておくことです。
![]()
社会診断(第1段階)
社会診断では, 取り組みにより改善すべきQuality of Life(以下QOL)を明確にし,
その指標を設定します。そのためには取り組もうとして事業の対象者は誰なのか,目的は
何なのかを確認することが必要です。事業の目的,言い換えれば,事業によって達成しよう
としているめざす姿とは,どんな状況なのかを専門職だけでなく,当事者竄サの家族,
さらには広く関係者と議論します。複数の項目が抽出された場合には,どれを優先するのか
優先順位を決めることも必要です。こうしたプロセスにはフォーカスグループインタビューや
デルファイ法が用いられます。
| 社会診断におけるポイント @既存の情報から現状を確認し,誰からヒアリングを行うべきなのかを検討します。 Aフォーカスグループ(当事者などの住民や関係者)等からヒアリングを行います Bヒアリング内容には,QOLの他,疫学診断,行動・環境診断,教育・組織診断に 必要な因子も含まれるので,記述をカードに転記して,各因子に分類します。 C複数の項目の中からの優先順位付けは当事者や関係者に専門家を加えた協議会や 検討会などを組織し,協議により決定することが望ましい。 D自治体の振興計画等との整合性を確認しておくことも重要です。 E目標年次までに達成すべきQOL指標の目標値を設定する。この目標値の設定も, 多くの住民参加を得て決定するようにします。 |
疫学診断(第2段階)
第1段階で設定されたQOLに影響を及ぼしている健康問題やその指標を明確にし,達成すべき
目標値を設定します。フォーカスグループからのヒアリングやデルファイ法等の社会診断のプロセス
でも,健康問題がいくつか抽出されますが,専門職として必要と思われる健康問題を追加すること
が必要です。
抽出された健康問題を定量的に評価するための指標(健康指標)は何かを考え,既存の指標が
ある場合には,その情報をどこで入手するかを検討します。また,複数の健康問題が抽出された
場合には,健康問題の頻度とQOLへの影響度の強さ,改善可能性に基づいて,優先順位の高い
ものは何かを決定します。
| 疫学診断のポイント @QOLに関連のある健康問題を列挙し,指標となる情報を集めます。 A相対的な評価ができるように,全国平均や近隣の自治体のデータも集めることが望ましい。 B複数の健康問題が関連する場合には優先順位を付けます。 QOLへの影響度の強さ,健康問題を有する者の地域における頻度,改善可能性 の3つを検討して決定します。 詳細は,行動・環境診断の項目を参照してください。 C目標年次までに達成すべき健康指標の目標値を設定します。 |
行動・環境診断(第3段階)の1
第1段階で選定されたQOLや第2段階で選定されたの健康指標に影響及ぼしている行動や
生活習慣,環境因子を明確にし,取り組むべき行動や生活習慣,環境因子を選定し,達成すべき
目標値を設定します。
行動診断
健康問題を介さずに直接QOLに影響を及ぼす生活習慣についても検討すことがポイントです。
通常,複数の要因が抽出されるますので,どの生活習慣や保健行動に最も優先的に取り組む
べきかを決定するために,優先順位を検討することが必要になります。優先順位はQOLや健康
問題との関連性(因果関係)の強さ,対象集団における頻度,そして,改善可能性の3つの
項目をもとに優先順位を決定します。
環境診断
環境因子にはさまざまなものがありますが,ここで取り上げるべき因子は,
@主に社会環境要因であり,
A行動との相互作用により健康に影響を及ぼすものであり,
B介入により変更可能なものです。これらの環境因子は,健康目標のみならず,行動や
生活習慣,そしてQOLにも影響を及ぼす可能性を持っています。環境目標も,行動目標
とほぼ同様の手順で決定されますが,介入によって変更が困難な環境因子(例えば,
家族構成など)についての情報を集めることも重要です。行動因子の改善可能性を考える
際に,こうした環境因子を考慮することが必要だからです。
行動・環境診断(第3段階)の2
行動・環境診断のポイント
@健康指標に関する生活習慣や行動因子・環境因子の実態について情報を集めます。
情報が不足している場合には,対象者や関係者等に実態調査を行います。実態調査
では行動・環境診断に必要な情報のみならず,社会診断,疫学診断,教育組織診断
に必要な情報を収集することも可能です。
A列挙された行動や生活習慣について優先順位を検討する。 QOLや健康指標への
影響度の強さ(因果関係),地域における頻度,改善可能性の3つを考慮します。
・因果関係は,既存の論文や実態調査結果等により評価します。
・地域における頻度(働きかけを必要とする対象者の割合)は,必要に応じて実態
調査を行います。
・改善可能性は,既存の論文がなければ,関係者との協議で評価します。
B決定された各因子の目標年次における目標値を設定します。

教育・組織診断(第4段階)
行動因子や環境因子に影響を及ぼす要因を,準備因子(predisposing factors),
強化因子(reinforcing factors),実現因子(enabling factors)に分けて検討します。
準備因子は,主に行動への動機づけに関連する因子で,対象者や対象集団の持つ,
知識,態度,信念,価値, 認識,自己効力感が含まれます。
強化因子は,保健行動のあとで,対象者が感じる心地よさや達成感,更には周囲の
人々から受けるフイードバックのことで,これにより,行動の継続が左右されます。
実現因子には,行動変容や環境変化を可能にする技能や資源がすべて含まれます。
準備因子へは対象への直接的コミュニケーションにより,強化因子へは対象の周囲への
コミュニケーションにより,また,実現因子へはトレーニングやコミュニティ・オーガニゼイション
により働きかけ得ると考えられています。
これらの因子から決定される目標のうち,準備因子と技能に関連した目標は,健康
教育により達成されるので学習目標と呼ばれ,その他の因子に関連した目標は組織・
資源目標と呼ばれます。
| 教育・組織診断のポイント @各因子の実態について情報集める。実態調査等を活用する。 A重要性(因果関係と頻度)・改善可能性について検討し,優先順位を考える。 B優先順位の高い各因子について,目標年次までの目標値を設定する。 C教育内容やプログラムのほか,住民組織や関係機関や団体への介入方法を考える。 |
運営・政策診断(第5段階)
運営診断では,第4段階で指摘された準備因子や強化因子を満たすために,既存の
健康教育プログラムがきちんと機能していたのかを検証し,望ましい健康教育プログラム
を実行するために必要な予算や人的資源についての検討,現時点での利用可能な資源の
査定,プログラムを実施する際に解決しなければならない障害についての検討を行います。
更に,健康教育の実施に関連する各組織(関係機関や協議会,住民組織など)の方針や
取り組みの現状,資源などを分析します。。
既存の健康教育のチェック
誰(どの専門職)が,誰(どの対象集団)に
いつ(時期),どんな場(健診や各種教室)で
どんな内容を,どんな教育媒体を用いて伝えているか
既存の組織活動のチェック
その組織を通じて,働きかける対象は誰か?
組織のリーダーの存在は? 組織の活発度は?
集会などの頻度は? 行政への協力度はどうか?
政策診断では,健康教育のみでは改善が期待できな実現因子への介入を検討したり,健康教育の阻害要因となっている政策や法規,組織の方針についての検討を行います。
協議会の必要はあるか? 検討すべきことは何か?
研修会などは必要性は? 必要な人材や予算は十分か?
民間の資源等の活用は? 計画の障害となるものは何か?
実 施(第6段階)
上記の第1から第5段階のPRECEDE部分のプロセスを経ることで,事業をどう展開するのか,
それぞれの専門職の役割は何か,必要なマンパワー(専門職だけでなく,ボランティアを含む)
や器材,コスト(行政の負担と受益者負担),事業によってめざす目標(評価指標)が何かが
明確になり,これらに基づいて,事業を実施することになります。
効率的な事業の実施のためには,考え尽くされた実施計画,充分な予算,強固な組織と
政治的な支援,スタッフの資質向上と事業の監督,経過評価のためのモニターが重要である。
特に,後述する経過評価のためのモニタリングを行いながら事業を実施することにより,
必要に応じて早期の軌道修正を可能にすることができます。
この他,実行段階における成功の鍵として,経験の有無,住民のニーズを敏感に察知する
能力,状況の変化に対する柔軟性,ユーモアのセンス,長期的な目標を見失わないことが
挙げられます。
経過評価(第7段階)
事業の実施によるプログラムの評価の第一段階は,プログラムの進行状況に関する情報を
もとに評価する。すなわち,資源(予算,マンパワー等)の投入状況,実施におけるスタッフの
仕事ぶり,組織化の状況,住民の参加状況,受益者や協力組織の反応をもとに事業の経過を
評価できるのである。これらの情報が事業の実施過程で自ずと集まる仕組みを作っておくことが
ポイントである。
こうした経過評価により,問題がある場合には早期に軌道修正を行うことになる。
運動を普及させるための取り組みの経過評価の例
| 評価項目 | 情報の収集方法 |
| 運動についての健康教育の実施状況 | 健康相談や各種教室の開催状況や参加人数 |
| 運動についての各集会での啓発状況 | 各集会で保健婦が運動について話をした回数 |
| 各集会での体操の実施状況 | 各集会でストレッチ体操などを実施している組織数 |
| 外来診療での運動についての啓発状況 | 医師が外来で運動の大切さを話してくれているか |
| ウォークラリーなどの開催状況 | 開催回数と参加人数 |
| 各種組織での運動の実施状況 | 公民館や老人クラブで運動に取り組んでいる組織数 |
| 自分の歩数の把握状況 | 万歩計を付けて歩数を把握している人数 |
| 運動教室の開催状況 | スタッフ(健康運動指導士)の充実ぶり,参加者数 |
| 運動普及員研修会の開催状況 | 研修会でサークルづくりについて触れられているか |
| 住民への運動処方状況 | 健康運動指導士により運動処方をしてもらった人数 |
| 健康運動指導士の養成状況 | 実際の研修に行けたか(予算が確保できたか) |
| 運動グループへの参加状況 | ヒアリング調査、アンケート調査 |
| ウォーキング用コースの整備状況 | ウォーキング用コースの設置数 |
| 公共交通機関の整備に向けての取り組み | 実際に交通会社などへの交渉を行っているか |
影響評価(第8段階)
事業の実施により,目標とした準備・強化・実現因子がどう変化したか,更に,生活習慣や
保健行動,環境因子がどう変化したかを確認することにより,プログラムの影響を評価する
ものです。
第3段階(行動・環境診断)で設定した行動目標や環境目標,第4段階(教育・組D診断)で
設定した学習目標や資源目標などの目標値が達成されたかどうかにより評価されることになります。
結果評価(第9段階)
プログラムの結果,健康指標は改善されたのか,QOLは改善されたのかを評価するのが
最終段階の結果評価です。疫学診断や社会診断で明らかにされた目標値が達成されたか
どうかにより評価されることになります。
乳幼児の乳歯う蝕対策のように,3年程度で,結果評価が可能な領域もありますが,
それ以上の長期間を要するのが普通でしょう。
しかし,結果評価の評価指標を5年後や10年後に調べるだけでは,評価結果を事業に
フィードバックするのに時間がかかりすぎ,これでは目標達成はおぼつかない。
重要なことは結果評価の評価指標であっても,経年的に情報が得られるような
モニタリングシステムを作ることです。