OfficeKOBA連載小説
形状記憶(1) by 小林 千早都
地下の店から上がると、突然カズが建物の影に私を引き込み唇を重ねてきた。 (それどういうこと?) 呆然とする間もなくカズの舌が突き刺さる。後頭部をつかまれているだけに、 唇を開けなければ突き破られてしまいそうだ。あぁ、と力を抜いたその瞬間、 突入してきた舌が、今までずっと動くことを禁止されていた別の生き物のように 口の中を暴れ回る。錆びついて止まっていた歯車をぐりぐりと動かすように、 私の舌を攻めたてる。 (どうすればいいの?) 呼応せざるを得ない舌が、カズの舌と追いかけっこをはじめる。口の中という 狭いスペースをかけめぐる二匹の子ねずみたちは、ときどき逃げ場を失いながらも、 なかなか動くことをやめない。体を支えていたカズの右手がそっと耳たぶをはさみ 頬を撫であげる。 (ダメ!リョウが上がってくる。見つかっちゃうよ。) 巻きついた腕を振り払い、ありったけの力でカズを突き放す。それでもカズには 柔道の心得があるだけに、体勢をさっと持ち直し、彼が出てきたときには平然と タバコを咥えていた。 (2004.09.06)Copyright(C) 2004 小林 千早都 ▲次へ