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ニヤリとするアルバムタイトル

  • ジャズは基本的にマイナーな芸術ですので、新作の発表といっても、芸術的な意図の表明が主体とならざるを得ません。それにしても、ジャズのアルバムといえども、一定数売れることが演奏活動の継続に必要です。このため、発売に当たっては種々の工夫がなされるわけで、アルバムタイトル一つを取ってみても、店頭で「オヤッ」と気を惹くひねりが加えられているものが、以下のように結構あります。(対象アルバムは、全て好演盤データベース中にあります。)
  1. The Great and the More Great of Lorez Alexandria
    これも女性ヴォーカルでは名盤に入るインパルスの人気盤。当初、The Great Lorez Alexandriaという表題で出て、内容が良いので続編が出たのを一緒にしたCD。彼女の名前Lorez AlexandriaにThe Greatをくっつけて、アレクサンダー大王に引っかけているわけです。「偉大な新人歌手Lorez Alexandriaです」、とカッコ良く決まったタイトルです。
  2. Study in Brown/ Clifford Brown
    Clifford Brownの名盤です。B面の「ジョージのディレンマ」は広く愛される名演として有名です。ところで、コナン・ドイルの有名な小説に「緋色の研究」があります。これは、世の探偵小説ファンの血を沸かせたシャーロック・ホームズが1887年に初めて登場した小説で、そのタイトルは「A Study in Scarlet」です。おそらくこれが念頭にあって命名と思います。言葉自体では、「クリフォード・ブラウンの研究」とも読めますが、、、あと、記憶にあるのはこれの手持ち盤は当然ながら茶色で、吹奏するブラウンの勇姿を描いています。でも、このタイトルなのに同デザインで水色の色変わり盤を見たことがあります。記憶違いではないと思います。
  3. Soular Energy/ Ray Brown
    Gene Harrisのピアノを相手にしたRAY BROWNのゴッついベースが楽しめる。録音も良い。これは、Solar energy(太陽エネルギー)とソウルいっぱいのエネルギーとを引っかけたもの。エネルギーに満ちていることは、確かなようです。
  4. Time Out/ Dave Brubeck
    これもDave Brubeckの名盤です。特にテイク・ファイヴは、大評判になりました。このタイトルは「(競技の)休止、(和製英語では)時間切れ」ですが、本格的にDave Brubeckが変拍子に挑戦した試みであることもあり、調子はずれを意味するOut of Timeが念頭にあったはずです。実際に演奏も、常識では調子外れになるはずの変拍子が、実に巧くスィングしています。というのも、同趣向でTime further outという続編があるからですが、、、
  5. Double R and B/ Ray Bryant Meets Ray Brown
    Ray BryantとRay Brownだから、楽しいピアノトリオ作品となっている。この両者のイニシアルの一致に目をつけて、 表題をDouble R and Bとしている。その上、ジャケットのデザインにダブル・マックのハンバーガーを採用しており、この洒落に「文句あっか」と止めを刺した盤
  6. Byrd's Eye View/ Donald Byrd
    Bird's eye viewとは、普通「鳥瞰図」と訳されるとおり、飛ぶ鳥の視点で風景を捉えたとしたら、という空中からの概観図です。ものごとの全体の様子を伝える役目を担います。そして、Donald Byrdの名前が「鳥、Bird」と1文字違いですので、これに引っかけてあるということです。デビュー間もない新人の盤を発売するに当たって、この人のジャズに関する考え方(view)はこのとおりなんですョ、という意味を込めて、このタイトルにしたということでしょう。
  7. Dial S for Sonny/ Sonny Clark
    Sonny Clarkの有名盤。タイトルは、「ソニーのS」とでも言うもの。これも米国では結構ある慣用法です。電話などで単語の綴りを伝えるときに、「だから、三越のミだよ」などというアレです。この作品発売の頃、ミッキー・スピレーンの「殺人はM(Dial M for Murder)」という小説を、たしかヒッチコックが映画化していたはずで、邦題は「ダイアルMを回せ」となっていました。この映画のタイトルがもじられているのではないかと思っています。自信無さげなのは、この表現は他でも良く使われているからです。今でもスー・グラフトンが「アリバイのA」だとかいった連作シリーズで本を書いていますし、別の人もこの手の名前を小説につけています。
  8. From A To Z/ Al Cohn and Zoot Sims
    Al CohnとZootSimsの双頭テナーサックスのコンビは、メインストリームジャズの代表格として人気がありました。このコンビのアルバムは10枚近くあります。どれもが水準以上の出来で、じっくり聴きには格好の聞き物です。その二人の名前が面白いことにアルファベットの最初と最後の文字であることから、このFROM A TO Zというタイトルの提案が出て、これで行こう、となったのでしょう。イディオム(熟語)としてのFROM A TO Zには、本来の意味もあり、例えば(冗談ですが)、「Nelson's Navigatorのホームページは、メインストリームジャズの1から10まで(FROM A TO Z)が判る便利サイトだ(^^;)」というように、ある事柄の網羅性が高いときの形容に使われます。ロンドンの「ピア」相当の有名な本も、A TO Zという名前だったような記憶が、、、そういう慣用表現があるので、この表題を見るとニヤリとするわけです。
  9. Blue Train/ John Coltrane
    これも、John Coltraneの名盤。この人の演奏ぶりを汽車の驀進にたとえるのか、Blue Train, Soultrane等々のもじりが多くあります。Colを取ってしまっても、トレーンといえばこの人です。
  10. Welcome Matt/ Matt Dennis
    趣味の良い男性ヴォーカルの小品。玄関に敷く靴拭い用のマットを、Welcome Matというので、それを頂いて「マット・デニス歓迎」としたついでに、ジャケットも同様にふざけている。美女の居宅の玄関にあるWelcome MatにWELCOME MATT DENNISと書いてあるので、「歓迎ありがとう」とMatt Dennisが入室しようとしている。
  11. Flight to Jordan/ Duke Jordan
    これも、Duke Jordanの名盤です。調子の良いジャズに付いて、飛んでいる(fly)という形容をすることは、ハンプトンのフライング・ホームの例でも判ります。ここでは、「デューク・ジョーダンのすばらしいジャズへの飛行」ということになるのでしょうか。ただし、ヨルダンにはキリスト教の故事が結構あるので、その関係かもしれないし、黒人霊歌に常套句があるのかもしれません。
  12. McGhee Is back in Town/ Howard McGhee
    バップ以前に活躍していたマギーが、その後いったん消えて、再度ジャズシーンに登場したので、「彼奴が戻ってきたよ」、という盤。これも面白くて、クルト・ワイルの戯曲「三文オペラ」の主題歌で、名曲の「切り裂きマック(Mack, the Knife、ロリンズがやるとモリタートになるが、、、)」から来ている。この曲の歌詞に「見ろョ、マックが町に帰ってきてるゼ(Look out, Ol' Mack is back in Town)」とあるのは結構有名であるので、それを踏まえて誰にも判るようにもじったもの。
  13. Tete a Tete/ Tete Montoliu
    この人の出身地を題材にした「カタロニア組曲」が素晴らしい逸品。表題は、もとはフランス語で、「頭と頭」、「顔寄せ合って」という表現で、今は英語化しており、このままで通じます。それを、テテの名前と引っかけたもの。本来ならば、デュオのときに使うべきものですが、、、
  14. It's about Time/ Joe Morello
    文字どおりでは「さぁ、潮時だ」ということで、惹句としても良い感じです。その上、これはタイムキーパーとも言われるドラマーの中でも手堅さで有名で、かつ変拍子が巧いモレロが、表題にタイムの入った曲ばかりをやるという盤です。正に「時間に関するジャズ」という看板に偽り無い内容なのですから、洒落ています。
  15. Leeway/ Lee Morgan
    60年代のブルーノート特有の熱い盤で、マクリーンも頑張っています。Leewayとは、もともと航海用語らしく、風を受けて船が風下に流されることや、転じてそうなっても大丈夫な余裕を意味するとのことです。ここでは、「余裕のLee Morgan」というところでしょうか。そして、表題をそのまま読めば、「Lee Morganのやりかた(way)」とも解されるから面白いですねぇ。
  16. Rare but Well Done/ Jimmy Rowles Trio
    これは、Jimmy Rowlesらしい渋い盤です。すぐに肉汁したたるビーフが思い起こされて、「レアで、ウェルダンなんてステーキの焼き方できるの」、と思わせるのがミソです。おそらくは、通好みでリーダー作の少ないロウルズの珍しい(RAREな)作品ですが、良い仕事してますょ(WELL DONE)、というところでしょうか、、、
  17. Lucky Strikes/ Lucky Thmpson
    この人の、おそらくは渡欧前の録音か。縁起の良い洋モク(なんて今は言わないか)のブランドと同じ名前であるのに引っかけて、そのタバコの箱のよく知られたデザインをそのままジャケットにしてしまっている。
  18. The real McCoy/ McCoy Tyner
    マッコイのBN初期録音で、若々しさがうれしい。タイトルは、「こりゃ、本物だ」という俗語表現をそのままマッコイの名前に引っかけたもの。もとは、時に死者すら出る密造酒の中で、珍しく本物のウィスキーに出会ったときの喜びの文句で、「マッコイ爺さんの作るのと同じ本物だぁ」、と言うところから来ているとの説がある。一般に、アパラチア等の山中で作られる密造ウィスキーは、Mountain Dew, すなわち「山の露」といわれて珍重された。(今は、清涼飲料水のブランド名にもなっているらしい) その作り手の多くは米国に移住したアイリッシュであり、MCCOYというのはMcArthurなどと同じでアイリッシュによくある名。Mc,Mac等々は、Son ofということで息子を示す接頭語。
  19. Wilder 'n wilder/ Joe Wilder
    Joe Wilderがサヴォイに入れた名盤です。「もっとワイルドに」でしょうか。説明を要しない、分かりやすいシャレです。演奏は、そんなにワイルドではありません。
  20. Winchester Special/ Lem Winchester
    数少ないこの人のリーダー盤。ゴルソン、フラナガンが付き合って良い味を出している。これも説明の要は少ないかも知れない。ウィンチェスター銃は、米国人にとってはなじみの深い名称らしい。

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