Carmen McRaeのほろにがジャズヴォーカル
- Carmen McRaeの私家盤に近い「Bittersweet」(右掲)という新発売ものを聴いて感心したので、というお話です。
Carmen McRae
- 今は亡きCarmen McRaeが好きなもので、結構買い込んでいます。ポッと出の頃は、かなりガナリ立てる感があったのですが、ある時点から歌詞を大事にして、しかも人生の酸いも辛いも噛み締めた、正に「Bittersweet」な歌を聞かせるようになった頃からが、御贔屓の時期です。世にキレイな、楽しい歌がうまい人はゴマンと居ますが、そうじゃない人間の姿を情感込めて歌って、この人ほどに人の心を揺るがす歌手はそうは居ません。無論、人生に辛いことなんか無い方が良いんですが、そうも行かない以上は、そういう面で気持ちを判ってくれる気がする歌手は、貴重ですし、大事にしています。
エラとサラ
- Carmen McRaeは長い間、先輩格のElla FitzgeraldとSarah Vaughanに次ぐ、3番手のジャズヴォーカルとされてきました。デッカ(55−58年)、コロンビア(60−62年)と渡り歩いて、良い盤が出ていますが、基本的にエラとサラのように大ホールで大向こうを唸らせるというよりは、こじんまりしたクラブでじっくり聞かせるのが性に合っているタイプの人だと思います。特に、幸せ一杯という恋よりも、少しもつれたり、痴話喧嘩もあり、あるいはヤキモチなどが混じった歌となると、かすれ声や唸りをうまく交えて唄うので、その表現力は抜群です。何でもない恋歌を、深みのある唄に変えてしまう技量を持っています。
「Bittersweet」
- 「甘くて苦い」というか、「ほろにがい」と訳すのか、この「Bittersweet」盤は、ギター入りのピアノトリオに乗せて、夜更け等に聴くのにピッタリのバラードばかりを集めた盤です。脇は常連のNorman Simmonsトリオに、ギターのMundell Loweが飛び入りで、芸達者なだけに仕上がりは最高です。
ジャズDJのMort Fega
- Carmen McRaeのこの盤は、Focusというレーベルから出ていますが、このレーベルはジャズDJのMort Fegaが主催のようです。この人は著名な人らしく、名盤の1964.02: The Complete Concert 1964, My funny Valentine + Four and Moreでも、司会の声が聞ける人です。ジャズ好きが嵩じて、自分のレーベルを持ち、これはと感じるものだけを制作している、ということのようです。そういう意味では、少し偏った、個人の趣味全開の良さと悪さが混在しているのかも知れません。
Norman Simmonsとの付き合い
- Carmen McRaeは癇癪持ちな上に、仕事には厳しく、時に荒れることがあるという評判があったので、Norman Simmonsは彼女のトリオの仕事が来た時には、相当にためらったようです。何しろ、Carmen McRaeは自分でも相当のピアノを弾くのです。しかし、実際に何度か付き合ってみると、二人の相性はよく、しかもCarmen McRaeのヴォーカルに対する熱意には感心したようです。そして彼女の持論は筋が通っており、過去の揉め事も彼女の主張からすれば当然ということだと判りました。「色んな歌い手が居るけど、殆どは何を聞き手に伝えようとするかが明確では無く、巧く行かないと直ぐにバンドのせいにしたがる人が多い。Carmen McRaeは自分のしたいことを明確に言い、それをやってみせるし、説明も出来る。Carmen McRaeは、聞く側の理解力を信頼している。」この盤の録音の時も、やってきたギタリストがNorman Simmons編曲の譜面が読めないことがわかり、直ぐにトラ探しになったが、スタジオ近くに住むギターの名手Mudell Loweが見付かって、それで落着した。
プレイバック時のCarmen McRae
- ライナーノートを書くので、彼女と一緒にプレイバックを聞いて、Ralph J. Gleasonが次のようなメモを書いています。
- 「ちょっと待っててね。そのテスト盤は絶対に聴いて置きたいの。テスト盤を持って来るって聞いたときから、ピリピリしてたわ。」(これ以降のかぎカッコ内は、Carmen McRaeの発言)
「When Sunny Gets Blue」
- Carmen McRaeは、この曲をモンタレージャズ祭で歌ったことがあり、アノ広い会場で7千人もの聴衆をまるで教会にでも居るように静まらせたことがある。「ヴィクターが良いわね。この曲ではとっても良い。これは私のお気に入りだわ。」
「How Did He Look」
- イントロと共に、彼女は唄の中に入り込んで、歌詞の意味をしっかり伝えている。「、、、それで彼は私に頼んだの、、、」のくだりは実にリアルで、思わず自分で答えたくなるほどだ。「アノ日は、呼吸のコントロールが巧く行ってたわね。」
「Guess I'll Hang My Tears out to Dry」
- ピアノ、ベース、ギターが下降音程を弾いて行くと彼女はクスクスと笑って、「これはいつも私が使う手なのよ」と言い訳をした。彼女はこの曲をいつも弾き語りでやっており、Norman Simmonsはその彼女のやり口を、そのままアレンジに取り入れてバンドとしてサポートしたのです。「少しだけど、Billie Holidayの感じがするわネ。そう思わずには居られないワ。」しかし、Carmen McRaeのブルックリン訛りが判る人なら、違いに気付く筈だ。
「The Meaning of the Blues」
- 「Bobby Troup(作曲者、その奥さんであるJulie Londonが映画で最初にこの曲を歌ったらしい)と一緒だったことがあって、それでこの曲はIrene Krallから貰い、彼女には私のGuess I'll Hang My Tears out to Dryをあげたの。」 Mundell Loweがこなれたソロをして、それが彼女の声とよくマッチしていることを言うと、Carmen McRaeは、「この人とズッと一緒にやれたらねぇ」と頷いていた。
「If You could Love Me」
- これは、Norman Simmonsのオリジナルで、「このプレイバックを聴いてみたかったの。」そしてMundell Loweの演奏を興味深く聴いていて聴き終わると、「ワォーッ、Mundyは本当に凄いわ。この歌わせ方は巧い」
「Spring can really Hang You up the Most」
- Carmen McRaeは途中まで夢中で聴いていて、こう言った。「この曲はいつもこういう風にやるの。やり方を知っているんだから。譜面が読めないと言うジャズメンが居たの、でも彼はずっとジャズをやっているわ。私も毎晩歌うし、ステージ上のジャズメンも音楽をよく知っている。」
「Second Chance」
- Carmen McRaeは、「この曲もIrene Krallから貰ったの。Andre Previn(作曲者)が譜面を送ってくれた。このエコーは丁度ね。これは好きよ」
「If You could See Me now」
- この曲は、Dizzyが「Groovin' High」をやった時の最後のフレーズから作ってある。「そう、Mundy、聞かせてやってよ。彼はよくMinton'sに顔を出していたわ。私の最初のギグに付き合ってくれた人よ。」
「Here's That Rainy Day」
- 「この録音では、3曲以外は皆初めてレコードにするの。何にするか、大体25曲位あげたわね。でも実際に入れたのは、聴いたことはあるんだけど、唄ったことの無い曲ばかりにしたの。」
「Ghost of Yesterday」
- 「Ireneが気にいってくれると良いわ。これは、Irene Wilsonの曲よ。他の人はどうでも良いけどね。この曲を入れるスペースがこのLPには無いって言うんで、他の曲を何でも抜いて良いから、これは入れといてって言ったの。George Shearing(作曲者)にこの間会ったら、アノ曲はいつレコーディングするんだい、て言ったのよ。それで、おや、まぁ、少し前に録音したばかりよ、って答えたわ。」
「I'm Lost」
- この曲の最初のヴァースを聞きながら、「これは、幸せな時に歌うのは難しいの。哀しい曲に惨めさをつぎ込みたくないし。でも余り楽しくない時には、この曲なんかはホント巧く歌えるの。」
「Come Sunday」
- Carmen McRaeは途中まで夢中で聴いていて、こう言った。「Detroitのクラブのジュークボックスに、この曲が入っていたわ。これを呉れないかなぁ、でないと、盗っちゃうかもね、って言ったわ。譜面を手に入れて、それからそのレコードから歌詞を聞き取ろうとしたんだけど、無理だったわ。それで色々と繋ぎ合わせて、こんな感じだと思うような歌詞にしたのよ。」
- 「この盤の出来は良いかって? 勿論よ、ここまで行けるとは思ってなかった。私が一番やりたいのはバラードで、それも良い歌詞が付いていると特にそう感じる。交代しなってクラブのオーナーが言わなきゃぁ、いつまでもステージの上で頑張っちゃうわ」。
- 尚この録音の時に、Steve AllenとRay Brownが作曲したコミックソングで、「Cutie Pants」という曲も収録されたそうです。制作のMort Fegaは、その歌はバラード盤には合わないということで、別扱いとし、シングル盤で出して、大ヒットとなったそうです。Mort Fegaは、「Bittersweet」盤を自己のベストとして、今も大事にしているとのことです。
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