「まだまだやることは一杯ある」のか -- New Wine in Old Bottles (2)
- この稿の(1)では、広告批評という雑誌の行き方に触発されて、「新しいコトバ」でジャズを演奏することの素晴らしさについてメモしました。今度は、それを裏っ側から見たお話です。「新しいコトバ」の大事さを強調しましたが、そうは言ってもやはり、「スタイルや語法さえ新しければ、何でも良いわけではない」という留保が必要だ、とNelsonは考えています。その辺を、もう少し、、、
「まだまだやることは一杯ある」
- これは、Milt Jacksonが、何かのインタビューに答えた時の発言なんですが、どこにあったのか探してみましたが、今、現在見付かっていません。記憶では、「フリーやフュージョンなどという新しい流れの台頭をどう思いますか。」という問いに対して、Milt Jacksonは「まだまだやることは一杯ある」と答えたのです。さらに、「Birdのやったことは、スゴイもんなんだ。ボク達は、まだBirdの偉業を完全に自分のものにした訳じゃぁない。まだまだ、Birdの究めようとしたやり方で、やることは一杯あると思うネ。」という感じで、補足していました。「オレはそうは思わないョ」という方でも、「まぁ、Milt Jacksonなら、そう言うんだろうなぁ」と納得する発言です。
Milt Jacksonのジャズ
- Milt Jacksonのジャズは、多くのジャズメンが居る中でも、希有のものだと思います。そのスタイルは、微塵の揺るぎもない本線モダンジャズで、しかもそのアドリブの天衣無縫なこと、アイディアの豊富なこと、正に「ジャズそのもの」だと思います。それが証拠に、時代が変わり、時が流れても、Milt Jacksonのジャズは確固とした支持を受けて来ました。数年で消えていく泡沫のような軽い存在ではありません。無理をして、欠点を挙げつらおうとすれば、スタイルが余り変わらない点でしょう。ですから、悪口としては、「旧態依然とした、新味のないスタイルだ」ということになります。しかし、この悪口は見当違いです。ジャズにおいては、スタイルは二の次であり、何よりも大事なのは、言っていることの中身でないでしょうか。そういう悪口を思い付いた人も、悪口を言った傍から、自分が無意識に体でスィングしていることに気付き、バツが悪そうに、顔を赤らめるに違いありません。実は、こういうMilt Jacksonのような人は、多くはありませんが、他にも居るのです。例えば、Zoot Sims、Ray Brown、Chet Baker等々です。この達人たちのアドリブは、いっつも新鮮で、とにかく強力にスィングします。こういう人達の演奏を、「スタイルが古いから、ダメ」というのは、大きな勘違いだと思います。
肉声による「自己表現」
- 大事なことは、スタイルではなく、その時々の感興に応じた自己表現として優れているか、否かということです。Milt Jackson、Zoot Sims、Ray Brown、Chet Bakerといった人々の演奏は、実に自由闊達で、一緒にやっている人の演奏とうまく絡み合いながらも、その人自身の個性もよく現れていて、唯一無二の表現になっています。それが我々を撃つのは、「飾り気のない肉声であるから」だと、Nelsonは受け取っています。大事なことは、「言いたいことを言う」ことであり、スタイルの新旧は関係ありません。だからこそ、この人達の盤が、大ヒットこそしないものの、市井のジャズファンから根強い支持を受けて、長期にわたって、着実に売れているのです。そして、、、
John Coltraneも、Milt Jacksonも
- この二人は、「Bags and Trane」で共演していますが、御存知の通り、その後のJohn Coltraneは大きな変化を遂げ、彼らしい「自己表現」を実現しました。でも、Milt Jacksonは確固として、天衣無縫なスタイルを変えていません。John Coltraneには、あの呻吟するスタイルがふさわしいことは認めた上で、Milt Jacksonには、あるいはZoot Simsには、それなりのやり方があり、聴けば判るとおりに素晴らしいジャズだと、Nelsonは思います。それは、「新しいから良い」、「古いから悪い」というような低次元の問題ではありません。そこでは、その人が如何に誠実に自己を表現し得ているか、それがキモなんだとNelsonは考えています。
- この稿の(1)で、広告批評に触発されて、「新しいコトバ」によるジャズの素晴らしさについて触れました。そして、「スタイルや語法さえ新しければ良し」という誤解が生じるといけないので、自己表現に立ち戻って、Nelsonがジャズの要諦であると考える点を、蛇足ながら補足しました。自己表現が新しいスタイルに繋がっていく努力とその成果を、否定しはしません。きわめて大事なことです。しかし、「逆は真ならず」です。「スタイルが新しければ、良いジャズだ」というのは大きな誤解だと、Nelsonには思えます。要すれば、「New Wine in Old Bottles」ということでしょう。
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