4.処置
「DNAが一致しました」
舘が報告書を持ってきた。高野は書類を確認すると、机上のモニターで処置依頼画面を呼び出すと、認証処理を行った。この処理を行うことで、非合法児は安楽死処分を受けることになる。10分後、画面に処理済みの報告とその結果の日本に現時点における人口数が表示された。1億50万4445人。国際協定で日本が許容された1億人にまだ達していない。さらに人口警察の努力が要請されている。
 ここで、2030年、国際人口協定について触れておこう。
 西暦2000年に60億人だった人口は、さらに人口爆発が進み、当時の予測をはるかに凌いだ。2030年には80億人に達し、世界的食糧危機が発生、悲惨な結末を迎えた。そこで、各国で人口割り当てが決められた。
 日本は1億人である。ただし、その0.05パーセントの「一時的」な増加は許容範囲として認められている。つまり1億人にプラス50万人はバッファーとなっている。そしてその調整方法は世界基準があるものの、具体的方法は各国の法律に委ねられている。
 日本では、女性1名につき生涯で産める子供の数は2名か3名に決められている。出生順に国民番号が付与され、偶数の女は2人、奇数の女は3人まで産むことができる。
 その数を超えるとは非合法児となり、人口警察が処置を行う。結婚や離婚、再婚などは一切問われない。しかし、この法律も永久ではない。一人の女性が2名ないし3名だけでは国の人口は減り続けてしまう。国際協定の1億人をわろうとした段階で法律が改正され偶数番号の女も3人になる可能性が高い。従って、3人目が出来た偶数番号の親は子供は秘匿し、法改正を待っているのだ。だから非合法児の秘匿は後を絶たない。
 ***
「舘くん、今晩、空いてるか」
高野は舘に声をかけた。独身で彼女のいる彼に配慮したつもりだ。
「いいですねぇ、久しぶりにやりますか。でもクーポンはあるんですか」
「ああ、たっぷりあるよ。今回の捜査で部長から特別クーポンがもらえたからな」
「やったー、では、車を手配します。場所は葉子ちゃんの店でいいですね」
「車のバッテリーを満タンにしておいてくれないか、今日は家まで送るよ」
 「よーし、今晩は徹底的飲むぞぉー」舘は足早に部屋を出た。
 高野は部長から貰った封筒を開ける。クーポンが10枚入っていた。これだけあれば、二人で二日酔いになってもおつりがくるくらいに飲める。今夜は久しぶりの宴会だ。
 酒はクーポン制である。一人が飲めるアルコール量は酒の種類によって決まっている。
 おおよその目安はクーポン1枚でビールなら6本、日本酒やワインなら5合か2本だ。もちろん売買も自由だが、かなりの高額で取引されるため貴重なクーポンなのだ。
 夕方、二人は警察の駐車場から電気自動車を走らせた。
 「いらっしゃい。ごぶさたね」葉子の明るい声が響いた。
 「店の景気はどう」高野はいつもの席に座りながら尋ねた。
 「さっぱりよ。最近は企業の経費管理が厳しくなったみたいでね」
 「例のものある?」高野は葉子の目を見つめて催促した。
 「湯豆腐ね。あるわよ。お酒はビールからにする?」
 「うん、今日はたっぷりクーポンがあるからね。一人処置したご褒美だ」
 「そう、じゃぁ、今日は久しぶりのご馳走にするわね」
 「うん、頼むよ」
 葉子はビールをテーブルに出すと早速、湯豆腐の準備にかかった。
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