カード・イン・バルーン
O.M. 001 田代 茂
| こうやってついに私は現在憎らしいおやぢになってしまったけれど、子供の頃は無論可愛らしかった。可愛らしいばかりでなく、「この子は目から鼻へ抜けるほど利口な子だ」としきりに感心されたものだ。それで、小学校3年生の頃には故児玉岩治、日本奇術会会長にも「坊や、坊や」と可愛がられた。 当時はNETといっただろうか、現在のテレビ朝日で「奥様あなたの11時」という番組があった。その夏休み特集で「ちびっこマジシャン大会」というような企画があり私も児玉先生の紹介で出演させてもらった。審査委員長が故アダチ龍光さん、審査員が故木重朗さん、松旭斎すみえさん、それから児玉先生であった。司会は故桂小金治さんだった。 私は8桁の10個の数字をカードを選んで適当に作ってもらいその合計をたちどころに暗算で計算してしまうというのを演じた。司会のアシスタントの女性が電卓で同時に計算するのだが、瞬時に答えを書き出した私の計算のスピードとは比較にならなかった。これに先立ち「マグネット新聞」というのもやった。新聞の端を細く切って、さらに真中を挟みで切るのだが直後につながってしまうというものだった。 演目は小学生らしく、国語、算数にちなんだもので、もちろん児玉先生の御指導であったが、今から考え直してみてもさすがだと思う。スタジオ撮りの当日は、可愛らしく利口で手品もうまい子供が全国ネットで放送されたのだから、さぞや反響がすさまじいだろう、このままちびっこスターになるのではないかと、子供心に気づかれするほど考えた。 しかし、おかしなことに放送日を迎えても、その翌日も、1週間たっても、いっこうに何の反響もなかった。夏休みが終わり秋風が吹く頃になっても同じだった。おやおやと思う間に私は中学生になっており、新しい師匠の村上正洋先生にはあげくの果てに「ばかやろう、おまえはプロなんかにはなれないよ。」などと引導まで渡され、わたしのよい時期というのはせいぜい8つか9つまでのわずかな期間であったということが判明した。 |
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テレビ収録の話に戻すが、そのとき最後にアダチ龍光さんが演技をされた。カードを3人のお客さんに1枚ずつ選んでもらう。新聞紙の一部をハサミで切って広げると1人目のお客さんが選んだカードの模様に新聞紙が切り取られている。(ハートの5ならハート型の穴が新聞紙に5つ開いている。)再び新聞紙をたたみ、さらにハサミで切りこみを加える。もう一度新聞紙を広げると2人目のお客さんが選んだカードの模様になっている。3人目のお客さんのカードはダイヤのキングである。新聞紙の中央を大きくダイヤ型に切りぬいて、新聞紙を広げる。中央のダイヤ型の窓から自分が顔を出して王様の役割を果すのである。切り取った方の切れ端で王冠をつくりかぶられていたかもしれない。 これに引き続いて、風船カードを確かに演じられたはずである。4人にカードを選んでもらって、4人目のカードを風船で当てるということも考えられなくはないが、いくらなんでも4枚当てるのはややこしい。3人目のダイヤのキングが間違えであって、それではといって風船からカードを出したのかもしれない。ともかく、テーブル上には木製のスタンドが立っている。直径2,3センチの丸い木の棒だが、テーブルの足のように流線型に太いところ細いところがあるように削られている。高さは30,40センチくらいはあったろう。木目そのままで、先端には風船を挟むための針金の輪っかが2つしつらえてあった。 風船を膨らませて、スタンドの先に固定して風船を針でさすと風船は割れてスタンドの先端にはお客さんの選んだカードが現われているのである。この現象には大変心が動かされた。なんとか自分でこの装置を作ってみようと試みたがうまくはいかなかった。その後新宿の末広亭などで何回か同じ演技を見たけれど、なんとなく仕掛けは想像がつくのだが細かいことはわからない。そのうちにアダチ龍光さんは亡くなってしまわれて、結局いまだに核心はわからずじまいとなってしまった。 |
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その後、いくつかの風船カードの装置を見せて頂くことがあった。スタンドの台がカードケースくらいの大きさで、スタンドの棒のながさも15センチくらいの金属製で手軽なものもあった。しかし、いかにも道具道具していて、あの木製の無造作なスタンドには及ばないように思えた。1990年にアイビデオから「深井洋正・レクチャー2」というビデオが発売された。(このビデオは深井さんのレクチャーの前に木先生が深井さんの紹介をされており、晩年の木先生のお姿も見ることが出来る。)この中で一番最初に解説されるのが「バルーン カード」である。 これは、特別な道具を使うことなく、風船カードが演じられるようによく工夫がされている。本当にポケットに入れておくだけで、とっさの際にも5分くらいはサロンマジックが出来るのだから、便利である。カードマジックをやられている方は、これ以外にもいくらでもサロンで演じられるカードマジックを御存知だろうが、カードマジックをほとんどやったことのない方でも、これなら抵抗なく練習もできるだろうし、十分実演可能になるだろう。風船を使うことで、お客さんの興味も比較的簡単に引けて「ウケ」のよい演目だろうと思う。 風船カードに限らず、風船は手品の小道具として非常に良く用いられ、また相性もよい。それから、ここのところ、バルーン、バルーンといい、昔縁日でおじさんがタコを作ってうっていたあの細長い風船はペンシルバルーンなどと呼び、風船で様々な造形をするピエロがやたらと目につくようになった。今はピエロではなくて、クラウンだそうだ。1980年代に日本に「クラウンカレッジ」というものが出来て、つまりピエロ養成所が出来て、そこでペンシルバルーンの造形の技術が広められたとのことである。この造形もどことなく激しく手品の香りがするので、クラウンならずとも多くのマジシャンが演目に取り入れている。尚、クラウンカレッジは残念ながらその後なくなってしまったという話である。 |
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風船の手品で最も有名な手品の一つは、「針を刺しても割れない風船」である。私も何度もステージで演じた。バーベキュー用の串をずぶずぶとさしこむと、緊張感もあっておもしろい。現在はたとえばUGMから「針と風船」という商品で特別な風船も販売されており、より演技がしやすくなったが、従来の方法でもステージでなら十分通用する。 ただ、おもしろいもので、「不思議さ」ということを考えると、かつてのテンヨー製品(「筒と風船」:PL法施行後に姿を消した。)のように風船を筒にいれてそこに針を刺す方がどうも不思議なような気がする。Ali Bongo 氏はステージを忙しそうに行ったり来たりしながら、筒に入った風船に剣をバッテンに刺していた。確かに直接針を刺した方が怪しいところがないので、考えてみればより一層不思議なのだろうが、やはり「手品らしい不思議さ」は筒式の方があるように思えてならない。鳩出しで、シルクを使わないで瞬間的に出したり、人体切断で人を箱に入れることなくそのまま電気ノコギリで切ってしまったりするのが今一つピンとこないのと同じ理屈なのだろう。(Mark Wilson は蒸気機関車型の箱に女性を入れて「胴切り」を行なったが、まだ私がお利口であった頃に見て感じた「あれっ?どうなってるの?」という明るい不思議さは今でも忘れられない。) 児玉先生は、いつだったか日本奇術会の熱海大会の「おみやげ」に風船の手品を提供したことがある。金属製の筒が3つ並んだなりでつながっており、それぞれに赤青黄の風船が通してある。お客さんに1つ風船を選ばせてから、金属製の棒をちょうど焼き鳥のネギのように、3本のつながった筒を貫くように刺しこんでいく。お客さんの指定した風船のみが割れないで残るというものである。まあ、不思議といえば不思議なのだが、なんとなくはっきりしない手品であった。1970年代の話だけれど、この手品を見たのは後にも先にもその熱海大会の「おみやげ手品解説」の1度きりであった。 風船を3つ並べるというマジックでは、コレクターズワークショップの「シューティングギャラリー」という製品がある。UGMのカタログをそのまま写しておくと次ぎの通りである。「客から時計を借ります。客が台についた3個の風船のどれかを狙って、ピストルを撃つ間の時間を計るためです。客席の興奮を増すために、客がピストルで撃つ間、風船の前で揺れている小さな真ちゅうの箱の中に客の時計を入れます。客のピストルは首尾よく最初に一個の風船に、次ぎに二個目の風船に当たります。三個目の風船を撃った時、客の時計を入れた箱に当たって時計が明かに壊れてしまいます。客は残った風船に向かって最後のピストルを撃つと、風船が割れてその中に客の時計が出てきます。」 |
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トレーの上の白い風船が割れて中から鳩が出てくる、鳥小屋一杯にぴったり入っていた風船を割ると鳥小屋に鳩が現われる、というのも以前ははやったが、最近はあまり見かけないようである。最近みて驚いたのは、長いペンシルバルーンを一息に呑みこんでしまうというものであった。風船1つとってみても様々な思いが胸を交錯するような年齢になってしまい、私の風船はいつまでもふわふわと宙を漂ってばかりいるわけにはいかなくなったらしい。 |