帰らざるもの ver.2

 

「ああ、出来てるよ」
「記憶は?」
「ムリだな。・・・それにない方がいいだろう」
「そう、ですね。でもいつかは・・・」
「・・・それは儚い望みだよ」

 

話し声が聞こえた。目を開ける。
ここはどこだろう。
白い部屋。見覚えのない。
ここは・・・。オレは・・・ダレ・・・。
「目覚めたか、ドール」
どーる。
はじめて聞く言葉なのに、それが自分を指すのだとすんなり理解できた。
「お前の主人が来ているよ」
しゅじん? オレ・・・の?
視線を転じる。
黒いスーツ姿。射るような眼差し。
誰だろう。知らないのに、なぜか懐かしい感じがした。
男が手を伸ばした。
「迎えにきたよ、範規」
ノリキ・・・?
それがオレの名前? わからない。でも・・・。
不安そうに揺れる顔を見上げる。
なぜだろう。どうしてそんな表情をするのだろう。
全然似合わない。もっと・・・。
もっと、なに・・・?
今なにかを思い出しそうだった。
そう、もっと彼に相応しい表情があったはず・・・?
「一緒に帰ろう、範規・・・?」
いっしょに・・・。そうしたら、見れる?
手を重ねる。
男が笑った。安堵したように。
見知らぬ相手だったけれど。
自分がなんなのかもわからなかったけれど。
その笑顔を引き出したのが自分だというのだけはわかった。

 

オレがいたら笑ってくれる?
オレがいたら・・・。
そうしたら・・・。

 

 

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