帰らざるもの ver.1

 

「範規っ!」
近くでひきつったような叫び声があがった。
体の痛みよりもその声音のほうが痛くて、無理矢理目を開けた。
「範規! しっかりしろっ!」
・・・冰史?
なんだよ。なんでそんな顔してるんだ?
蒼褪めた顔。不安に揺れる漆黒の瞳。
らしくない。そんな顔するなよ。
「すぐ医者にみせてやるからっ・・・!」
医者? ああ、そうか。
ドジったんだ、オレ。
視線を落とすと赤く染まった腕が見えた。
多分イカれたのは腕だけじゃない。痛みは全身から感じられる。
やばいなぁ。
死ぬのかな、オレ。
「待ってろよ、今・・・」
声が震えてる。
押えようとしても血がとまらないんだろ。無理だよ。そんなに浅い傷じゃない。
視界が霞んでいく。冰史の顔が見えなくなる。
「範規、範規っ!?」
イヤだな。そんな声は聞きたくない。
いつもの不遜な態度はどうしたんだよ。
オレのせいかな。
そうだよな、やっぱり。
だったら・・・。
死にたくないな。まだ死にたくない。
こいつをおいていくなんてできない。
神様。いいや、誰でもいい。オレを死なせないでくれ。
こいつを一人にしないでやってくれ。
自信家で毒舌家で、でも人一倍寂しがりやなこいつを・・・。

 

閉ざされる。意識が。
消えてなくなる。オレが。

 

まだ・・・。

 

 

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