メカニックたちの間をすりぬけて姿をあらわしたコーネフに、ふたりの伍長はあわてて姿勢をただした。
「なにか揉め事か?」
普段言葉を交わすことなどない上官に問われて、しどろもどろになって答えたのはボングのほうだった。
「いえ・・あ、あの、おれ・・・じゃない小官たちは、その、喧嘩をしていたわけではありません。ただちょっと・・・話を・・・」
いい訳めいた答えしか返せなくて、赤くなってうつむいたボングの言葉の後をジョンソンが引き継ぐ。
「戦闘区域での敵機との交戦と、離脱時期において意見の相違がありまして、それで議論していました。少し白熱してしまいましたが、別段揉めていたわけではありません」
すまして答える少女に、辺りから失笑がもれる。「議論」の一部始終を目撃していたコーネフも内心苦笑したが、表情にはおくびにもださない。
「そうか? それならいいが。ところで、ふたりともどうしてここにいる?」
通常勤務の時間帯だが、ジョンソンには一時休暇が、ボングには医療施設での休養期間が与えられていたはずだ。
いるはずのない場所にいることを指摘されて、ギクリとした二人は視線をかわしあった。
もともとは、機体の様子が心配で病院を抜け出してきたボングが最初にここに来たのだった。その後、見舞いに行って彼の姿がないことを知ったジョンソンが、彼を探してここまで来たのだ。
黙っていなくなった友人をみつけたジョンソンが彼の行動を批判し、そこから件の口喧嘩に発展したのだったが、それは余談だ。
静謐な光をたたえた瞳にみつめられて落ちつかなく身体を動かしたボングが、正直に自分達の行動理由を喋る。
話を聞いたコーネフは、派手に損傷したボング機を見上げた。よく無事に帰投できたと感心するほど、その外観は様変わりしていた。唯一エンジンに被弾しなかったことが、ボングの命をからくも救ったようだった。
「心配するのはわかるが、機体を治すのは彼らの仕事だ」
視線を転じると、見物していたメカニックたちがあたふたと自分たちの仕事に戻っていった。
ギャラリーが散ったのを確認すると、二人にも戻るように促す。けれどボングは機体が気になるようで、帰ろうとする気配がない。
ここにいてもできることなどないと分かっているのに、傷ついた自分の愛機から離れられない気持ちというのはコーネフにも理解できる。けれど、ここにいても邪魔になるだけなのだ。それに、ボングのケガのこともある。ふらふらと出歩いていいような程度のケガではないはずなのだ。
再度二人を促したコーネフは、唇を噛み締めたまま己の機体から目を離さないボングの表情に、ふとひっかかるものを感じて眉根をよせた。
敵機を回避できなかった悔しさと、まだまだ未熟な腕を過信しすぎた自分に対する憤りとがないまぜになった表情のなかにちらりと覗いた、それは「恐怖」だった。
およそコーネフは、この手の感情を読み違えることはほとんどない。だがなにに対しての恐怖なのかは判然としない。「敵」に対してか、目前にまでせまった「己の死」にか、それとも別のなにかにか。
ともかく気づいてしまった以上放っておくこともできずに、コーネフは探りをいれてみることにした。
だが、それより先にコーネフに声をかけるものがあった。
「ちょっといいですかい、コーネフ少佐?」
「トダ大尉」
振り向くと整備主任のトダが難しそうな顔をして立っていた。
なにかやっかいなことがあったらしい。トダの態度からそう察したコーネフは、仕方なく少年から話を聞き出すことをあきらめた。また次の機会があるだろう。
今度は二人に帰るように「命令」すると、話をすべくトダ大尉に近づいた。