新兵たちが深い闇を飛ぶ日はすぐにやってきた。
演習にでていたアッテンボロー提督率いる分艦隊が、帝国軍と遭遇したのだ。
新兵の訓練が目的だったため、乗艦していたのは戦闘に不慣れな若者が主だった。空戦隊も例外ではない。同行した隊員のうち三分の一はこれが初陣という有様だった。
被害が最小限にくいとめられたのは、非凡な才をもつアッテンボローの艦隊運用にあった。
どうにか帝国軍をふりきってイゼルローンに帰還したものの、二空では二人の犠牲者がでた。
報告を聞いたコーネフがとっさに思い浮かべたのは、ボング伍長とジョンソン伍長の名だった。
あの二人にかぎって、という言葉は意味がない。どんなベテランでも、墜ちるときは一瞬だ。まして、初陣での未帰還率は高いのがあたりまえという事実があった。
しかし、墜ちたのはボングでもジョンソンでもなく別の二人だった。一人はやはりこれが初陣の隊員。もう一人も飛行歴二年の、まだ新兵と呼んで差し支えのない少年だった。
どちらにせよ、二つの命が消えたことにかわりはない。
重い息をついたコーネフは、被害状況を確かめるために格納庫に足を向けた。
格納庫には、修理のために七機のスパルタニアンが駐機していた。大小の差はあれど、どの機体にも傷跡がはしっていた。激戦によるものではない、腕の未熟さからついたものばかりだ。
そのなかに一機、特に損傷の激しい機体があった。左翼がちぎれかかっており、キャノピーにはクモの巣状にひびがはいっていた。
シリアルナンバーからボング伍長の機体だとわかる。持ち主はといえば、その下でジョンソン伍長と口喧嘩の真最中だった。
「もうっ、信じられないっ! なんであんな無茶したのよっ!」
明るい栗色の髪を揺らしてアメリア・ジョンソンがボングに詰め寄る。口調の激しさがジョンソンの心情を吐露していたが、言われたボングはそれに気づかない。負けじと言い返す。
「仕方ないだろう! もう少しでロック・オンできるところだったんだから」
「だからってあんなに深追いしなくてもよかったじゃない。なによ、そのケガ!」
頭にぐるぐる巻きにされた包帯を指されて、うっとボングが言葉につまる。
「だ、だから、大丈夫だと思ったんだってば」
「ぜんぜん大丈夫じゃなかったじゃない。深追いしたあげくに撃たれてたんじゃ意味ないでしょう」
もっともな言い分に反論できずに、ボングは助けを求めるように目をキョロキョロと動かした。
彼らの周りでは、数人のメカニック達が整備の手を休めてことの成り行きを見守っていたが、誰も助け舟をだそうとはしない。痴話喧嘩に口をだすほどばからしいものはない、と思っていたからだ。
ニヤニヤと笑うだけのギャラリーは当てにならないとすぐに悟ったボングは、どうにかしてジョンソンから逃れようとしたが、彼女は追及の手をゆるめようとはしなかった。
なおも言い募ろうとしたちょうどそのとき、静かな声がわって入った。
「どうした?」