ハリー・ライムのテーマ

 『第三の男』 (1949)

 これ以上なにを望もうか、というほど完璧な映画 『第三の男』。
主題曲についても例外にあらず。
ツィターの音色が物語の展開、雰囲気、人物の心理を、陰に日向に盛り立てます。
「いや、実はあの映画の“主演”はツィターだったのサ」という話さえ聞くほど 効果的な使われ方をしていましたね。
 ツィターを演奏したのはアントン・カラス(1906‐1985)。
 ウィーン生まれのツィター奏者で、彼は音楽院でピアノを学ぶためにホイリゲ(ウィーンの酒場〜『会議は踊る』の酒場のイメージです)で ツィターを弾きながら学費や生活費を得ていたそうです。おりしも『第三の男』のロケでウィーンに来ていたキャロル・リード監督と出会い、ロンドンで映画音楽作曲をすることになったのです。
 作曲のために、ときには1日16時間ツィターの前に座っていた、指はセメントのように堅くなっていた、という話から彼の没頭ぶりがうかがえます。
 このテーマ曲のほかに “カフェ・モーツァルト・ワルツ” という名曲も挿入されています。最初は僕はこちらの曲のほうが気に入っていたくらい いい曲です。
 彼は『第三の男』で一躍有名になり、民族楽器への関心もこれをきっかけに高まったとか。骨董品店に眠っていたツィターが高値で売れ出した…というのだから、そのブームたるや推して知るべし。ツィターは、オーストリアや南ドイツなどに伝わる楽器で、有名なところでは、ヨハン・シュトラウス2世の「ウィーンの森の物語」の冒頭にメランコリックな音色で登場します。
 1976年、リード監督が世を去ったとき、カラスは柩(ひつぎ)の前でこの曲を演奏したそうです。

〜 浅井英雄氏の解説(CD「ANTON KARAS」 ビクター)を参考にさせていただきました 〜

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