創造と色彩のサポテカ木彫「アレブリヘス」/MANDRAGORA
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Galeria de MANDRAGORA

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アレブリヘスの概要

 メキシコシティから飛行機なら1時間、長距離バスなら6.5時間のオアハカ市。さらにそのオアハカ市の2等バスターミナルから窓ガラスをビリビリ鳴らせて突っ走る路線バスに揺られて1時間。そして停留所で降り、さらに徒歩で炎天下の乾いた道を30分進むと集落が。そう、まさにこの村で奇抜な色彩のウッド・カーヴィング「アレブリヘス」が生まれている。

アレブリヘスとは・・・

 オアハカの市内を歩くと、露店商の中に目を引くパープル色の民芸品らしきものを売っているところを見かける。良く見てみると細い木を組み合わせた不思議な形。さらに近付いてみるとファンタジックな想像上の生き物をかたどっていることに気付く。あまりの奇想天外な造型に観光客は思わず足を止めて見入ってしまうらしく、露天の前にちょっとした人だかりができていることもある。

 ハリネズミのように針を背負ったキリン、トラ顔のウサギ、つぶらな瞳の七色イグアナ、説明のしようもない宇宙人のような形。店先にはありとあらゆる形が並ぶ。色も青紫をベースにしたものが多いものの上塗りされた模様は鮮やかなコントラストを放つ力強い色彩ばかり。

 アレブリヘスは、このような空想の生き物などを山刀で彫刻し、さらに独特な色合いで彩色した木彫り(ウッドクラフト)を指す。オアハカで造られるアレブリヘスが特に有名で、州内で植生する木「コパル」を使用するのが特徴だ。

なぜこのようなウッドクラフトが誕生したのか?

 「新大陸発見」以前から何百年にもわたり継承されてきたこの木彫りの伝統は、もともと子供用に作られたおもちゃの人形が起源とされている。それが先住民文化の栄えた時代に、祭壇への供え物としての要素が強まっていった。木彫り職人達のルーツである先住民サポテカ族にとって、アレブリヘスの材料となるコパルは、宗教儀式などでお香として使ってきた聖なる木でもある。そして元来多神教だった彼らにとって、木彫りのモチーフとなる動物たちは、神の化身として親しまれてきた大切な存在でもあった。たとえばアレブリヘスの題材としてよく登場するカエルは「豊かさ」の神、イグアナは「言葉」や「コミュニケーション」をつかさどる神の象徴だったといわれている。

 スペインによる征服以後、宗教的な意味合いは薄れ伝統工芸品として生き残ってきたアレブリヘスだが、オアハカを訪れたアメリカ人観光客の口コミによって80年代にアメリカで紹介され、変化が訪れる。メキシコ独特の感性を持つ芸術作品として脚光を浴びるようになったのだ。またさらに、メキシコ国外からの注目を集めることで、近年職人にも変化が起きている。貧しい地域の一つだった村の経済が改善されたことで余裕が生まれ、優秀な若手の後継者達が育ち始めたのだ。

 彼等は先代から伝えられた技術・伝統に加えて自分達の新しい感性と技能を発展させ、のびのびと高度な作品を造り出す。親の世代とは異なる自由な発想を持っていることが後継者達に共通する点だ。彼等の生み出すこの新しいアレブリヘスは、アート作品として欧米で高い評価を受け、特にアメリカでは、ハコボ・アンヘレス、セニー・フエンテスなどのアレブリヘス作家が度々個展を開くに至っている。古くからの伝統文化をふまえ現代にも受け継がれている木彫り動物たちは、単なる伝統工芸品の枠を超え独特の世界観を持つアート作品へと進化し続けている。

アレブリヘスが生まれるまで

 ここでアレブリヘスが創られる様子を見てみてよう。

 まず、職人が山に出掛け、コパンの枝振りを見ながら「何が出てくるか」を考えることから始まる。気に入った枝があると、直径15cmから20cmほどの丸太に切り出し、作業に適した硬さになるまで乾燥させる。乾燥したオアハカの気候とは反対に、コパンは割ってみると意外にしっとりと多くの湿気を含んでいる。数日かけて乾いていく丸太を眺めながらアイディアを固め、彫刻に適した硬さになった日に山刀で一気にぐんぐん切っていく。

 使うのは大きな山刀だが、かなり細部までこれ1本しか使わない。微妙な木目や曲がりなどの特徴を生かしながら削っていくのを横で眺めていると、丸太だった木からいつの間にか現れてくる手、足、胴体。これをそばで見ていると、まるで丸太の中に隠されていた生物を木クズから掘り出しているかのような錯角が頭に広がる。事実、この段階がアレブリヘスにとってまさに命を与えられる瞬間となる。後のペインティングまで作りはじめる時のイメージ通りに仕上がるかどうかはこの掘り出しにかかっているのだ。このため、アレブリヘスを手掛ける職人の間でも、そのアレブリヘスの作者として名乗れるのは通常この彫刻作業をした者とされている。

 しかし、木を掘りあげただけではまだアレブリヘスとは呼べない。この変わった形のウッド・カーヴィングに、今度は不思議な模様を「着せる」作業が続く。アレブリヘスの特徴でもある鮮やかな色彩はこの段階で登場する。

 このペイント作業は幾重にもなる重ね塗りを伴うため、ちょっと描いては乾かすという作業が何十日もかけて行われる。この複雑なペイント・パターンも下書きがあるわけではなく、塗り手の勘を頼りに筆を直接本体に走らせる。アレブリヘスの本体の曲面に広がる美しい幾何学模様も同じようにして描かれたものだ。

 こうして出来上がったものを見ると、最初から計算し尽くされたかのような連続パターンが美しい仕上がりとなる。一見奇抜な色使いながらも、一つの生き物として感じさせる統一感や調和感はまさに圧巻だ。

 単なる木の枝から一瞬にして動物を見い出す彼等の想像力と、それを正確に彫刻で再現する技術。自由な発想から生まれた気まぐれな曲面に極彩色の模様をまるで精密機械のように塗りこんでいく集中力。アレブリヘスには様々な職人技が結集している。

2種類のアレブリヘス

 ところで、実は同じアレブリヘスでも、「商業用アレブリヘス」と職人の間で呼ばれている簡素な作りのお土産品店用アレブリヘスと、このギャラリーで紹介する作品ような芸術性の高いアレブリヘスとの2種類がある。

 「商業用アレブリヘス」にあたるのは、初めに触れたような観光客の多い場所で売られているアレブリヘスだ。その質感は作品としてのアレブリヘスとは大きく異なる。掘りは、多く生産するために単純化され、ペイント作業も大幅に省略される。重ね塗りは2〜3回しか行われない上に単純なパターンしか描かれない。とは言え、「商業用アレブリヘス」も観光客には安価でちょっと変わった土産品として人気が高く、また職人にとっても安定した収入源となっているようだ。

 逆に、良質のアレブリヘスは市内にはほとんど出回らない。高価なものになるため市内で売れることはあまりないとのこと。力作はアート作品のバイヤーの手によってメキシコ・シティや国外へと渡っていくのだ。

 アレブリヘスの伝統の技が若い新しい感性と融合するに連れ、「アレブリヘス」と「商業用アレブリヘス」の差はどんどん広がりつつある。


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