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『「ソーシャルパワー:社会的な<力>の世界歴史1」−先史からヨーロッパ文明の形成へ−』 マイケル・マン著 NTT出版 
 人類の歴史はどの様な力によって、動いてきたのか、誰もが知りたいテーマです。これまでの世界の歴史は、「社会の進化論」「世界精神の目的論的な結実」「生産力と生産関係の不可避的な矛盾」等等で説明されてきました。本書はそれらの既存の考え方を批判的に論じ、人類が誕生して5千年の歴史を、社会的な力を形成する四つの源泉<イデオロギー、経済、軍事、政治の力>で説き起こす、ある意味の世界システム論を展開しています。邦訳は猪口孝/猪口邦子編集による叢書「世界認識の最前線」の一冊として行われ、編集の意図は、19−20世紀の社会学が国民国家、国民経済、国民文化を中心に展開されてきたことの再検討及び、グローバリゼーションの経済社会構造の変化への影響を軸に、21世紀の社会科学へのアプローチを目指していることにあります。例えば、第九章では「ローマがつくりあげた大いなる領域帝国ーあるいは、『軍国経済』がもたらした繁栄と崩壊」では、農業社会と言うロジスティク的制約の元、領域支配をかくも大きくできた経済的な理由を解きあかしています。特に力の源泉であった軍国は、兵士が槍と丸盾の他にノコギリ、籠、ツルハシ、斧、革紐、三日分の食料を持ち、補給物資を増やす道具を持参していた事など、遠隔地を征服できた理由を、具体的に論証しています。なお、既に普及していた貨幣と言う経済手段(ローマの金貨への信頼性)が物資の現地調達に役立ったことは、言うまでもありません。また、「長い18世紀」を象徴するイギリスとフランスの戦いで最後に勝利したイギリスが、「イングランド銀行、国債制度の導入、土地税を始めとする各種の税制度等効率的な財政システムを構築する事による戦費調達の優位性」と言いう経済力ばかりでなく、上流階級に限られていたとはいえ、「議会として一つの国民国家としての成立」がイギリスの優位性の政治的源泉であることを主張し、分かりやすい展開をしています。

 ただ、第11章の「儒教、イスラーム、ヒンドゥー教カーストをめぐって−あるいは、救済宗教はいかなる社会を生み出したか」では、面積的にはヨーロッパに匹敵する判図を有した中国やイスラム社会についての分析、その後のこれらの社会の動向へのコメントは著者も認めているように不十分であり、<資本主義と国家そして、キリスト教>の側に情熱が注がれすぎた感じもしないではありません。著者の「日本語版への序文」では、近代日本の驚異的発展の大まかな分析が行われているが、今後現代社会の解明の中で、日本の分析が詳細に行われることを期待したい。

川崎地方自治研究センター顧問 峰岸


「ハンドブック市民の道具箱」 目加田説子編 岩波書店

 一部の動物は道具を発見・発明する事によって、生活を質的に向上させてきました。その場合、道具は物理的なものを指していますが、人類は人間社会が歴史を重ね複雑化してきた事に対応して、各種の社会的道具も開発してきました。

 編者が、経済産業研究所研究員の傍ら、「地雷廃絶日本キャンペーン」運営委員を勤めている経歴からも明らかなように、この本は「おかしいと思ったことを正す」「困ったことを解決する」ために、日本社会がどんな道具を持ち合わせているかを説明、使い方を教える本です。外国での生活やマスコミ経験を活かし、選ばれた道具が紹介されています。

 パート1は、「こんなときどうする」をテーマに「何とかしなくてはと思い立ったとき」からはじまり、「環境問題で何かしたいとき」まで。パート2は、道具箱編で政治・行政・司法・医療・生活・情報・NPOまで。そして、運動団体のリスト・連絡先、さらに勉強したい人のために課題別主要参考文献を紹介しています。

自治研センター顧問 峰岸 是雄


「市民派議員になるための本・・・立候補から再選まで」 寺町みどり著 学陽書房 

 この間の地方選挙を見ていると、地域政治の地殻変動と言われるような現象が観察できます。そのエネルギーは、どうやら「若さ・女性・市民派」と言う言葉でイメージされる何かです。川崎市でも4月の選挙で、従来型の選挙でシッカリと当選してきた議員に混じって、どう見ても「若さ・市民派」の看板で当選してきた議員も現れました。(川崎市では「女性」はもはや売り物にならないと思えます)。この現象は、地域政治の地殻変動が進んでいるのかもしれないし、一時的なものかもしれない。相手は川崎都民ですから、次の選挙で、地域政治を身近に感じて一票を入れたのか、単に新しいもの好きなのか判ります。

 著者の寺町みどりさんは、10年前岐阜市に隣接している人口1万9千人の高富町の町議として4年間活動してきた人です。この本では、議員になるための準備、家族との関係の持ち方、当選してから市民の言葉で活動する困難性など、普通の市民が議員として活動する「非日常性」がリアルに描かれています。そればかりでなく、この本の価値は、その経験だけで終わるのでなく4年間を今振り返り、次に続く人たちへの懇切丁寧な指導書として書かれていることです。インターネットで同じような考えの人たち・全国の仲間が横に繋がり、いろいろな体験を蓄積し公開することによって、新しい地域政治の確立・地殻変動の勢いを可能にすることを示す本だと言う事です。なお、この本のプロデュースは、今やメジャーとなった上野千鶴子東京大学教授です。

自治研センター顧問 峰岸是雄


『<民主>と<愛国> 戦後日本社会のナショナリズムと公共性』小熊英二著 新曜社

 「単一民族神話の起源」や「<日本人>の境界」で膨大な資料を読み解き、日本の植民地支配の経緯や沖縄問題の本を書きつづける著者。今回は前著にまして966ページのボリュームで、戦後のナショナリズムと「公」に係わる議論の背景を検証したのが本書です。本書の内容は、丸山眞男、大塚久雄の戦中・敗戦直後の言説から始まり、天皇論や憲法、左翼の主張する民族主義、保守の主張する個人主義、民族と市民、竹内好、吉本隆明、江藤淳、鶴見俊輔、小田実、「新しい歴史教科書をつくる会」と西尾幹二まで射程に入れた展開です。私たちは「言語の記憶」により、語り、述べる。著者は、戦後に幾つかの様相があり、国民総生産が戦前水準にまで回復した1955年(55年体制の確立した時)までを「第1の戦後」としている。この時代は、貧困と改革の時代であり、民主主義と平等は光り輝く言葉であった。「第2の戦後」は、秩序の安定の基に高度成長の時代として、「先進国」の意識の中で民主・愛国・国家などの言葉は「第1の戦後」と異なる意味を有していたと主張し、検証している。この差異を「つくる会」や「敗戦後論」の人たちは十分理解していないと言うのが著者の立場である。著者のナショナリズムの定義は、心情の表現手段として「民族」や「国家」と言う言葉が採用される状況であり、その場合の心情は極めて多様であり、権力志向や他人への悪意もあれば、反権力の志向や他者への連帯願望もある。個々の背景を無視してナショナリズムを肯定したり、否定しても意味がないと断定している。

 著者は「在日コリアン」のナショナリズムに注目している。それは、領土や政府と異質なところから生まれており、このような領土なきナショナリズムをどう考えるのか。「つくる会」は戦後民主主義を否定したところから出発しているが、戦後(第1の戦後)で個人から出発したのは保守主義者で、民主・愛国を唱えたのは戦後民主主義者の側からの主張と指摘する。「一億火の玉」の総力戦の体験の差異である。著者の検証作業により、私たちは戦後を知らないということを理解する。また、それ故私たちの先入観に警鐘を鳴らしている。いずれにしても、このような膨大な著書を書くエネルギーは何処からくるのだろう。「あとがき」にヒントが隠されている。著者の父親は、市井の一市民であるが戦後補償をめぐる戦友の中国系朝鮮人の元日本兵の訴訟に原告団として名を連ねていた。この訴訟は原告敗訴になるのであるが、弁護団は「国に良心なくも、国民に良心あり」と感動的な言葉を贈っている。著者にとって「日本とは何か」「国家とは何か」問い詰めなければならぬ、肉親を巻き込んだ「言葉の記憶」があったと思われる。

自治研センター顧問 峰岸是雄

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