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『 深 紅 の 竜 』 |
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ドグル国の宮廷絵師ニルヴァーナは頭を痛めていた。彼の宝物である双児の兄妹が、そろって
「戯曲を書く」と云い出したのだ。あんなに絵が好きだったのに…。
原因は判っている。先日から遊びに来ている祖母の昔話だ。それも、恐ろしく脚色した。二人と
ももう夢中なのだ。
だいたい昔の英雄ものなどその時代に生きた者でしか真相は判らない。判官びいきも何でもござ
れだ。しかし祖母のそれは大人が聞いても血沸き肉踊り、時には涙した。物語を書きたい、戯曲
だ叙事詩だと子供達が騒ぐのも無理からぬ。
「お願い! ひいおばあちゃま。もうひとつお話を聞かせてっ」
兄のトクは蒼い瞳をくりくりと動かし、妹のナミは金髪のおさげをぱたぱたと跳ねさせる。
絵師の家は今や椅子にちょこんと座った老婆の独り舞台になった。当の本人はずっとにこにこし
ながら、ふたりの曾孫を眺めている。
「わたし、フィーレンの長とアビスの博士様の恋のお話がいい。せつないけど、うっとりしちゃ
うもん。」
「ふん、ませた事云ってやがる。それより今度は僕の番だよ。やっぱり『竜の砦の決戦』! こ
っちのほうが面白いよ」
ふたりの喧噪に多少困ったような顔で老婆は云った。
「はいはい、判ったよ、たんと聞かせるから、ケンカしないどくれ。そんなに騒ぐとぽっくり逝
っちまいそうじゃわい。わたしゃまだ爺さんの分まで長生きしとらんのじゃから。…それじゃあ
今日はトクの番じゃ。いいね? ナミ。」
しぶしぶ頷く少女に微笑み、老婆はゆっくりと話し出した…。
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