ちょっとジュブナイル。 
 真夏の夜の夢。

作:崎 続(さき つづく)/構成:JIN

最終話

 それはかつてないほど充実した時間だった。光と名乗った少年は天性の運動セン

スの持ち主らしく、今まで一度も剛からボールを奪い取ることの出来なかった友人

達とは違い、いともあっけなくボールを攫ってゆく。

もちろん負けず嫌いの剛だから大人しくやられたりはしない。いつの間にか本気で

ぶつかっていった。その時間はあっという間に過ぎた。

ふと気づくと辺りはとっぷりと夕暮れに薄暗くなっていた。

「光、待っててな、今鍵開けてくるから」

我が家の前で剛は云った。裏口に回るらしい。剛の姿が消えると赤と青の背広の巨

体が光の後ろに立った。

「若…」「ぼん、帰りやしょう。」

「何も云うな。叔父貴には後できっちりとわびを入れる。わいかて九堂会…九堂コ

ーポレーションを継ぐ身や。父様や母様がおらんでもわがままは云わん。けど…剛

には手を出すなよ。したらお前らかて許さんからな。わいの、と、友達やから。」

いかつい男達が顔を歪め、始めて笑顔らしいものを作った。

「分かってまさぁ、ぼん。ちゃんとお友達の家で挨拶が済むまで、待たせてもらい

ます。なあ?」「おお。ほな私ら先の公園まで戻ってますで、若。」

「…おおきにな」

 仕事から帰ってきた剛の母は、ふたりの顔を見ると呆れたような表情で風呂場に

強制連行した。道理である。一心不乱にボールを追っていた彼らは擦り傷はもちろ

ん、ちょっと人前には出られないくらい泥まみれになっていた。

初めて逢ったとはまるで思えない打ち解けたはしゃぎぶりで風呂からあがると、光

のぶんの着替えも用意され、食卓にもすでに夕飯が乗っていた。

「ごうと一緒やから、ちょっとつんつるてんかもねえ。ん、大丈夫。さ、遠慮せん

でええんよ。お腹すいたやろ」

にっこり笑った剛の母に光は端正な顔を曇らせた。

「どないしたん? なんぞ好かんもんでもあるんか?」

「……」

たった三人きりの、けれども暖かな団欒。光はそれに言葉を失った。

彼にはこんな記憶はなかった。いつでもたった独りっきりの食事だった。どんなメ

ニューでも、好きなだけそろう。

けれども語り合う相手はもちろん、共に箸を持つ相手すらいない毎日。九堂会総帥

である父は愛人の家に住まい、病弱な母は自分だけで手一杯という有り様で、ただ

ひとりの息子である光を顧みることが無かったのである。唯一九堂会創成時、裏か

ら助力した叔父が厳しい稽古と作法を教えてくれてはいたが、語り合うことなど皆

無であった。

「大人しいんやねぇ。うちのごうちゃんとはえらい違いやわ。しっかりしとるし…。

これからも仲良くしたってな」

「お母ちゃんそれ、誤解や!  わいかて父ちゃん代わりや、外ではしっかりしとる

んやでぇ。」剛がおあずけをくったまま、ブウブウ云う。

「へえ〜、この泣き虫ごうちゃんが?」

そう云って母はからからと笑った。女手ひとつで剛を育てている誇りと、芯の強さ

に満ちた笑顔だった。

「いただきます…」

ぽつりと云って光は箸を取った。

 --------それ以上口にしたら、泣いてしまいそうだった。

「それが今やこれやもんな!」

剛がおあずけをくったような顔でブウブウ云う。

「はん、お前の成長が遅いだけや。この万年欠食児童」

高校2年の夏。二人はまっすぐに成長した。剛は大きな瞳に笑顔もそのままだが、

いかんせんやせぎすのままで頭一つぶん背丈も光に離された。光は美しい容姿は変

わらずだが女性と見間違うことは今はない。頑健で長身、眼差しは氷のように冷た

く鋭い。人付き合いは決して上手くはなかったが剛とだけは饒舌に話しあっていた。

「詐欺やでマッタク…。ま・ええわ。おかげさんで今年の夏休みもグアムの別荘や

し、なにより、これ! スイカやがなスイカ〜〜! 一個まるごとオタマでスイカ。

わいの永年の夢やったんやっ!」

感涙にむせんでいる。本当に嬉しいのだろう。まさに「花より団子」だ。

「剛お前、もーちょっとましな夢ないんかい? 見てるこっちが恥ずかしゅなるわ」

抱え込んでスイカを貪り始めた剛にはもう何を云っても無駄である。

「ん、光のぶんもあるしいいやないけ。…ところでお前、なんで日焼けせえへんの

?  特異体質やなぁ。シロヘビやシロヘビ」

「ほっとけ! わいはええんや、喰いたいモンなんか…」

(わいが欲しいモンは、みんなお前がくれたんや。剛、お前が…囚われの、お姫サ

ンを助け出したあの日にな。)

異国の地にも間もなくあの日と同じ、二人で見た夕焼けが訪れる。あの日と変わら

ぬ二人を夜の闇がつつむ。長い夢を見ていたかのように光はゆっくりと延びをして、

剛のもとへと歩いていった。

                                    おしまい。


 あとがき

 なんとか終わりました(^^)。今は何も考えることが出来ません。キャラクター原案の崎様、

関西弁のアドバイスを頂いた夜露様、読んで下さった皆々様、本当にありがとうございました。

感想など頂けると幸いです。乱文失礼致しました。

                         2000/07/3(月)最終話 UP ハ
●top ●index ●novels ●gallery1 ●gallery2 ●notes ●otehrs ●link ●BBS