ショート・ヒロイニック・ファンタジー

 ばーさーかー・ぷりんせす!

第九話 <ピクシーの甘い罠 後編> 

絵・文 : J I N


 

5

「むぁた行方不明? ラッキーめ、もう許せなーい!」

マリアもおかんむりである。

「でもぉ、セバスちゃんのカバン、置いていくわけにもいかないです〜」

「しかたありませんですわ。じいとルーシーは待機なさい。マリアは空からラッ

キーを探して。決して無理はしないように」

「アイアイサー!」「かしこまりました」「わかりましたぁ」「ぎへ」

 離ればなれになった一行。キャンディとチョコボンはふわふわ姫についていく。

「あなた、お姫様? ぜんぜん見えない。なんでそんなカッコしてんの?」

グサ。何かが刺さる音がし、フロリーナのこめかみあたりに青い縦線が入る。少

し強ばった笑顔で、

「み、皆がそう呼んでいるだけですわ。地方の貴族の家のフレア、というの」

「ふーん。ビンボーなんだ。大変よね、貴族なんて、みんな贅沢だしね。

…あ、向こうにケガをしたおじいさんが」

小妖精の指さす先には人影らしきものが見えた。そして、周りを囲む野生の犬の群

れが――狼だろうか?

「いけない!」

フロリーナは短剣を手に駆け出す。キャンディは薄く笑いながらそれを眺めていた。

 


「んぜー、ぜー、、あのチビ、絶対ウラがあるぞ。…あー!」

体中から小枝を生やし、砂利を頭からまぶしたラッキーが入れ違いに現われた。キャ

ンディを見つけるや否や、つかみかかる。

「あ、あんなところに美女の夢魔(サキュバス)がいるわ」

キャンディが姫に向けたのとは真逆の森の奥の暗がりを指さす。またもグラマラスな

女性の影が小さく見える。

「男の人なら誰でもいらっしゃい、だって」

ドギュン!

言うが早くラッキーは飛び出していた。

「お嬢さ〜〜〜ん、おまた〜〜」

シルエットに向かいダイビングするが、

ぱきゃ。

なんとサキュバスの体は板チョコのように粉々

になってしまった。そしてその先は。

「うぎゃあぁー、また崖っぷちいいいいぃぃ・・…」

落ちてしまった。

「きゃははは! またまたひっかかった。面白すぎー」

腹を抱えて笑うキャンディ。チョコボンものろのろと現われる。

 何かを噛み砕いている野犬に追いつき、必死で追い払うフロリーナ。粉々の砂糖

菓子の屑があるが――老人の姿はなかった。

「? 人じゃ、ない。ふう…。」

汗と埃にまみれ、脱力する。遠くで笑っていたキャンディは、またフロリーナに近

付いていった。

 


「あっ、川でおぼれている女の子が」

「あー、木の上で猫が」

その後も同じような事件が数度続く。亡国の王女は裾を濡らし、樹にしがみつき、

そしてそれはすべて徒労に終わった。

「ふわ〜、もう飽きちゃった。ねえフレア、人助けなんてやめようよ。」

キャンディが疲労困憊の姫に言う。

キッ、と姫が小妖精の方向をにらむ。眼光にさすがのピクシーもびくっと震えた。

シャッ! 短剣が飛ぶ。

「キャーッ」

驚くキャンディを通り越し、短剣は―――

「ジュララララ!」

なんと人食い植物マンイーターだ。森の樹に紛れ、妖精を背後から狙っていたのだ。

樹木の触手から剣を振り払い、逃げ去って行く。

「危ないところでしたわ。先程の村を襲ったものの仲間かしら?」

動転しているキャンディ、おろおろするチョコボンをなだめる姫。しかしそれが気

に入らなかったらしい、キャンディはぷいっと飛んでいってしまった。

「あ、ありがとうございます。こんな役立たずなぼくたちを助けてくれるなんて…」

チョコボンの言葉に首をかしげるフロリーナ。

「? 困っているかたに手を差し伸べるなんて、当然のことですわ。それにあなた

がたは村や皆さんの危険を教えてくださって…」

今度はチョコボンもふらふら飛んでいってしまう。

「…ぼくたちは、そんなイイコじゃあ、ないんだな…。」

 


「たいへーん! 姫さまは?」

マリアが魔法機…空飛ぶ箒型の機械で戻ってきた。プスン、プスン。白煙を噴出し

機械は止まる。



「どうしたんですかぁ?」

「この先に人家なんてないよ。飛ばして先のサクルッケまで行って、聞いたんだけ

ど…あの妖精たち、すごい大嘘つきなんだって! どうしようもないから村から追

い出した、ってみんな言ってたよ」

「やはり。とすると、先のマンイーターの騒動も…姫の行った方向を探しましょ

う。」

ギャリソンが立ち上がる。

「ラッキーも〜、本当にだまされていたのかもしれませんねぇ。」

ルーシーも不安顔だ。

 結局マリアが今度は魔鎧と残る羽目になった。魔法機がエンストしてしまったの

である。この時代の燃料機関と別のものを使う魔法機はマリアの帽子に吸い込まれ、

一旦休憩となったからだ。

「飛べるようになったら、セバスちゃんを引きずってでも行くから。姫さまをお願

ーい!」

 老執事と聖女が走る。主の為に。

6


 キャンディの指さす先に、茨に覆われた大きな泥沼が見える。そして…泥をかぶ

り、今にも沈もうとする少女らしき姿が。

「ああっ、危ない!」

「イバラはちくちくで痛いし、底無し沼だし、助かんないよ。

…それにあの女の子、このへんで嘘ばかりついてて、誰も相手にしない嫌われっ

子。助ける意味ないしー。」

吐き捨てるようにつぶやくキャンディ。

 それでも。

だッ! 姫は夢中で駆け出した。茨が服を、肌を引っ掻くが気にもとめない。そ

のまま泥沼に踏み込む。

「待ってらしてね。今、助けますわ!」

歩みは遅いがなんとか少女の所へたどり着く。腰から下は沈んでいる状態だ。そ

して少女の泥を払う、と―――

 


「こ、これは?」

人型の砂糖菓子であった。細い糸状の飴は、フロリーナの手の中で粉々になった。

菓子を自在に生み出す、それはピクシーの能力と言ってはいなかったか。

「キャハハハ! 引っ掛かった引っ掛かった〜」

はしゃぐキャンディを、呆然と見つめる姫。

「――それでは、助けを求めている子供って…?」

問いかけに小妖精が答える。姫の近くを飛び回りながら。

「ウソだよーん。キャハハハ。そんな子、こんな森の奥に、いるはずないジャ…

ン・・」

はし、と妖精をつかむ。フロリーナの真剣な眼差しに驚き、おびえるピクシー。

嘘の代償は、如何程か。

 何度も苛められ、その都度いたずらや嘘で報復してきた小妖精たち。しかし再度

仕返しを受けたことも数知れない。猜疑心と嘲笑、憎しみの目に曝されてきたキャ

ンディ、そしてチョコボン。

しかし姫の瞳は、今までのどの瞳よりも迫力のあるものに見えた。

「あ…あの…ウソ、ついて…」

泣き出しそうなキャンディ。しかし、一筋の涙を見せたのは姫のほうであった。

「よかった…。溺れそうな子も、野犬に追われた老人も、魔物に襲われた猫も、

いないのですね? ああ、よかっ…た…」

緊張のために強ばった顔も柔らかな、慈愛に満ちた笑顔に変わった。そのまま泥

水の中にへたりこむ。

「―――なんで? なんでおこんないの? ウソついたのに。ひどいコトいっぱ

いしたのに。クタクタの、泥だらけになっちゃったのに、なんで?  キャン

ディわかんなーい!」

始めは呆然と、次第に怒りながらキャンディが問う。

「誰も傷ついていないなら、それが一番良いことですわ。本当に良かっ…た‥」

そのまま気を失いかける。ずぶずぶと沈む姫。小さく悲鳴を上げるキャンディ。

しかし泥水を吸い重さを増したドレスを、チョコボンがその大きさからは信じら

れないほどの力で引き上げる。

「キャンディ、ぼ、ぼくたちの負けなんだな。この人も、あの細い人も、いくら

ぼくらが意地悪してもぼくらを助けるのを…自分の信じることを、や、止めない

んだな。」

姫のドレスの襟の部分をくわれ、ふんばりながらチョコボンが言う。キャンディ

は…

「フン! そんなの、そんなのキャンディ信じない! 人間も妖精も意地悪だも

ん。良い人間なんか、いる訳ないもん!」

顔を紅潮させ、涙をぽろぽろこぼす。そして。

「も、もっとちから出しなさいよ! この人、死んじゃったらウソがつけない

じゃナイ!」

二人掛かりで姫を支える。徐々に沈む身体。その時。

「姫っ、いま行きます! 脱衣!」

現れたのはラッキーだ。わずかコンマ1ミリ秒で衣服を脱ぎ、茨を飛び越え、沼

にダイビングする。

「ほ、ほら。フレアさんはみんなが守ってくれるんだな。フレアさんが正直だか

ら。フレアさんをみんな好きだから。」

チョコの妖精の言葉に、泣きながらうなずく飴の妖精であった。

 遠くでギャリソンとルーシーの声も聞こえる。ラッキーの救援も間もなくだ。

 



「…姫、姫。」

木漏れ日と穏やかな低い声。フロリーナは覚醒する。ギャリソンの顔が見える。

ルーシー、マリアが看病の手を止め叫んだ。

「姫さま〜〜! 良かった〜。」

「わたくし…確か沼で…。あの妖精さんたちは?」

森の木陰で。彼女の体は二人に丁寧に拭かれ、シーツを巻いているだけである。

ドレスは―――。

とうとうボロ雑巾のようになって置かれていた。さすがに表情が曇る。

「ぼ、ぼくはここなんだな。ごめんなさい。ひどい事をして」

木陰から現れたチョコボン。不釣り合いな羽をばたつかせてやって来る。キャン

ディの姿はない。

「ラッキーがぁ、追いかけ回してます〜。」

「彼のことです。手荒なことはしますまい」

 チョコボンは少しづつ生立ちを話し始めた。もとはサクルッケ、サンクスを統

べる領主が彼らの主人だったこと。雇われ魔導師の戯れで菓子の中から発生した

二人。最初はちやほやされていたが――。

「魔族との戦争で領主は逃げ出し、贅沢なお菓子の精だって人間はみんな手のひ

らを返したように厳しくあたったんだな。小さなお菓子よりパンや肉を出せ、っ

て。」

「ひどーい」

マリアたちが憤慨する。

「よ、妖精の里でも新米のぼくたちはいじめられたんだな。それで行き場がなく

なって、ぼくとキャンディは嘘をついて砂糖をだまし取って、飢えをしのいでた

んだな。」

フロリーナはそっとチョコの妖精を手に乗せ、頬を寄せた。

「あなたたちの生まれに罪はないのに。わたくしたち人間も、戦争を止められな

かった国にも責めはありますわ。許して下さい」

チョコボンが丸いチョコの固まりのような体を震わせる。

「あ、あの、キャンディを許してやって下さい。ぼ、ぼくがあの子を止められな

かったんだし、ホントはとってもイイコなんだな。」

必死に友の弁解をし、許しを乞う。

「…ぼ、ぼくたちはたった二人のお菓子の精なんだ、な」

 


 その頃、気まずさに逃げ出していたキャンディを追ってラッキーが森の外れに

やって来た。

「ちびすけ〜、もう逃がさんぞ〜〜」

キャンディは。うなだれたまま逃げる素振りも見せない。

「あんたは他の人間と変わんないね。キャハ、そのほうが気が楽だわ。煮るなり

焼くなり、勝手に―――」

「美人のねーちゃんは?」

しばし沈黙。

「は?」

「とぼけるねぃ、ニンフやサキュバスのお姉ちゃんは? どこどこどこー?」

途中キャンディたちを疑ってかかっていたことをキレイさっぱり忘れている。

「あんた、まだ信じて…キャ、キャハ、きゃははは!」

小妖精は笑った。真実を貫く姫の潔さも、あまりにストレートなラッキーの挙動

も、今までの矮小な気持ちを吹き飛ばしてくれるような心地よさであった。

(この人に、フレアにあやまろう)

そう思った、その時。

 

ズザザザザザ…

遠くで、重く大量な何かが蠢く音。

「ジュラっ」「ジュジュジュ」「ジュラー!」

大型の、マンイーター、魔植物の群れだ。花弁を頭部に持つとはいえ、それはも

う樹木、大木のサイズだ。

「しええええええ〜〜!」

二人は互いの口を押さえながら悲鳴をあげた。

「おい、逃げるぞ、相手が悪いや」

「う、うん…待って。この先って、――ほんとのホントにサクルッケの村だわ!

たいへーん!」

 青い顔でキャンディは叫ぶ。嘘から出たまことか、危機が人々に迫っていた。

 


「たったたたタイヘンだあ! マンイーターの群れが隣り村にっ」

ラッキーの報告に臨戦態勢になる一行。全速力で走ってきたラッキー、汗がだら

だら流れる正体不明のゴム人形になってしまった。ルーシーが看護にあたる。

「ありがとう、ラッキー。疑ったこと、許してくださいね」

「ぜー、ぜー、ら、らっきいいぃ」

ギィン! フロリーナが立ち上がる。澄んだ碧眼が炎と燃える。

「ぎひひ、やっと出番かよ」

純白のシーツは払われ、魔鎧が胸で下卑た笑い声をあげる。鈍く光る甲冑、そ

して巨大な戦斧。

「バーサーカープリンセス、行きます。斧の真の使い方、邪悪なる木々に諭し

て差し上げましょう!」

狂戦姫が駆け出す。もうドレスは振り向かない。

「ふん、嘘つきピクシーめ。」「また狼が来た、か?」「誰がお前の言うこと

なんか聞くかよ!」

かつて共にいた村、サクルッケの人々に魔物襲来を先回りして告げに来たキャ

ンディ。だが、人々の反応は冷たい。石を投げる者すらいる。

身をかばいつつ引き下がる羽目になってしまった。

(キャンディの、キャンディのせいだ。危ないって言っても、みんな信じてく

れない…いつも嘘ついてたから…)

悔し涙が出る。しかし前のように村人を恨むことはない。自らが蒔いた種なの

だ。己を責める小妖精。

(キャンディの魔力で…少しでも食い止めなきゃ!)

 悲壮な覚悟でマンイーターの群れに向かう。だが彼女が戻った時、森はすで

に戦場と化していた。

「りゃあああ!」

ズバア! バサッ!

「ジュジュ〜」「ジャアアァ…」

フロリーナの大斧が魔物を切り倒す。樹液が飛び散り花粉が舞い、枝葉は飛ぶ。

凄惨な戦場、しかし場違いな、美しく舞う裸身をキャンディは見た。

「あれ? あれれれ? フレア、なんであんなカッコで?」

ごしごしと目をこする。ぼんやり鎧が見えることもあるが、すぐに透けて見え

なくなってしまう。

「あのお姿が見えるということは、キャンディ殿が心から反省された、という

ことですな」

ギャリソンとチョコボンがやって来る。

 彼女の切り札、魔鎧は心正しい者には見えない。それはピクシーが正しい心

を持ったことを意味した。

「よいですか、見て見ぬふりをしてあげてくださいまし。姫は他の者が見てい

る前ではあの鎧を付けることすら出来ないのです」

「う、うん…フレア、すごい。」「かっこいいんだな――」

見とれるキャンディとチョコボン。悪意をもって嘘をつく、ということ。本当

のことを言わない、という優しさ。違うことを知った二人であった。

7

「ジュラララララアァ…」

鬼神の如きバーサーカープリンセスの猛攻に、とうとう巨大なマンイーター

一匹が残るだけとなった。

「覚悟なさい! …う、な、何?」

ぐらり。狂戦姫の膝ががくりと折れる。目がかすみ、強烈な眠気が姫を襲う。

「し、まった…」

倒した他の魔物は催眠効果のある花粉と香りをばら蒔く為の囮であった。巨大

マンイーターの花弁の中の牙が嘲るように歪む。魔鎧のガードもさすがに薄れ、

姫自身もキャンディに振り回されて疲労困憊である。

「ああっ、姫さまがぁ、倒れた〜!」

「大ピンチだあ。待ってて姫さま、魔法機で…ふあああ…」

姫のバーサーカー状態を回避するため、距離を置いていたマリアやルーシー、

ギャリソンたちにも催眠効果がかかる。

「これは、なんとしたこと…油断、しましたな…」

老執事も動けない。ラッキーは―――とっくに夢の中である。

「チョコボンっ」

「うん、わかってるんだな。今こそぼくらの出番なんだな!」

キャンディが飛び出す。フロリーナのそばまで来ると、青く発光し始めた。

「フレア、ゴメンね。今助けるから!」

清涼な空気と香りが流れ出す。

きらきらと宙に光る結晶。

「――う、うん…は! 眠気がとれて…?」

姫が覚醒し、マリアたちも起き出す。

「ふわ、すんごいミントの香り!」

「ハッカやミントキャンディも浮かんで

ます〜。きれいですぅ」

 

二人のピクシーの、お菓子を作り出す魔力。強烈な眠気覚ましの香りが辺りを

覆い、マンイーターの催眠花粉と拮抗する。一人起きないラッキーの上では

チョコボンが、

ボン! いきなり巨大化した!

1mの球状になったチョコのかたまりがラッキーに落ちて来る。

「んぼぎゅ!」

全身チョコまみれになる。そして、

「ぎええええ、に、にが、苦い〜〜〜っ!」

きっかり一分でもとに戻るチョコボン。

「カカオ95%チョコレート、なんだな」

 全員が起きたのを見届け、キャンディは小さな身体を精一杯のばし、ミント

の魔法を解放し敵の魔力を中和する。

ギュン! チョコボンが飛び、巨大マンイーターにぶつかっていく。意外と武

闘派である。何度も蔓に弾かれるが、ひるまず攻撃する。

「フレア、しっかり!」

「あなたがた…キャンディ、チョコボン! 助けてくださったのですね?」

狂戦姫は立ち上がる。前より強く、胸をはって。

「セバスチャン!」


「ぎひゃひゃひゃッ燃えろよ燃えろ〜♪」

ゴオオオオォ。魔鎧の悪鬼の顔が大きく口を開き、炎を吐き出す。

「ジュラ、ジュラララ」

身もだえる魔植物。フロリーナは跳躍し、動きが止まったところへ一撃。

カーンン・・・

大斧が頭部にあたる硬い表皮に食い込む。が、致命傷には至らないようだ。

「ジュッジュッジュラ〜」

嘲り、牙を光らす花にひるみもせず、

「まだまだァ!」

抜けなくなった斧の柄を足掛かりに、さらに跳躍する。

バシュ! 銀翼が開き、ひねりを加えて急降下する。

「ほーほほほほ、残酷ないかづち、とくと味わいなさい! バーサーカー

・ドライバアアアァーッ!!!

猛スピードで回転しながらも、魔鎧の踵は真っ直ぐに大斧の柄を再び捉える。

バキャキャアッ! キックが斧を押し込む。そのまま斧の刃が、銀翼が、

鎧の突起が生木を微塵に砕いていく!

ズガガガガガガガガガガ! ガガガガっガガズガッ!!

「ジュラジュラララアアー!!! アァ・・・」

断末魔の叫びをあげる巨大マンイーター。あたかも雷帝トールの怒りのいか

づちに撃たれたかのように、その身は真っ二つに切り裂かれた。

8

 戦い済んで。

「キャンディ、チョコボン、どこなの?」

二人を探すフロリーナ。魔鎧を外し、その姿は――薄いシーツを巻き付けた

だけの寒々しいものだ。

「姫さまぁ、見つけました〜」

ルーシーの指さす先には、魔力を使い果たし、さらに小さく、息も絶え絶え

なピクシーたちがいた。

「お二人とも、しっかり。」

悲痛な表情の姫に、

「えへ、へへ。キャンディたち、少しは…役に、立った?」

キャンディがつぶやくように聞く。

「もちろんですわ。あなたがたは、わたくしを…いえ、近くの村人たち全員

の命を救ったのですわ」

「きゃは、は…」

二人はさらに小さくなり、そして…一粒の小さな飴とチョコになった。

「キャンディ、チョコボン!」

「死んじゃったの?」

悲しむフロリーナたち。その時、小さな声が聞こえる。

「お嬢さんたち。その子たちは死んじゃおらんよ」

振り向いても人影はない。

「姫さま〜、足元ですぅ」

ルーシーが発見する。赤い帽子、緑のベスト、白い髭にとがった鼻と耳。猫

ほどの大きさの老妖精だ。

「妖精の里を束ねる爺ですじゃ。こたびは森を荒らす魔物を退治してくださ

り、礼の言葉もありません」

「妖精の、長老さん…わたくしのことなど。それよりも大切なあなたの仲間

を、こんな姿に…ごめんなさい」

フロリーナは涙を浮かべ頭を垂れる。

「いやいや、その二人は魔力を使い切っただけじゃ。おおい、皆の衆」

しわだらけの顔をさらにクシャクシャにして長は手を振る。何人かの愛らしい

妖精が現れ、皆で円陣をつくり、お菓子の妖精の卵を手に乗せるフロリーナを

取り囲む。

パアっ

柔らかな光が姫を包む、と。

「…うーん、ふにゃあ」「ムニャムニャ、なんだな」

お菓子はキャンディとチョコボンの姿に戻った。

「二人とも、無事なのですね。ああ、よかった!」

姫が二人に頬を寄せる。

「おお、なんと」「びっくりドッキリ!」「姫さまぁ、お美しいです〜」

ギャリソンたちが感嘆の声をあげる。

「? どうされましたの?」

「姫、自分を見てみなさいって」

ラッキーが促す。見れば…質素だが華やかな、仕立てのよいピンク色のドレス

を彼女は纏っていた。かすかな花の香りもする。

「これは? まあ!」

「妖精のドレスじゃよ。この子たちが悪戯

をしたのも、我々の責任。それを救って

くれたのもお嬢さん、あんたがたじゃ。

このくらいの礼では足りんかもしれんが、

受け取ってくださらんか?」

「い、いいえ、とっても嬉しいですわ。」

頬を紅潮させ、喜ぶ姫。

「花の性質を混ぜ合わせておるからの、香り

だけでなくほつれや汚れも一晩で直る。少々

の浄化もできる。軽くて丈夫じゃから、お転

婆しても大丈夫じゃよ。

――さて、キャンディ、チョコボン。」

じろりとピクシー二人を見る長。

「は、ハイ」「はい、なんだな」

緊張して答える。

「我らの中にも心ないいじめをした者がいたようじゃ。許しとくれよ。命を

かけた魔物との戦いも見事じゃった。里に戻ってもよいぞ」

ぱっと喜びの顔に変わる二人。だが、しばし黙り込む。そして。

「いえ、ぼくたち…」

「人間の村に戻ろうと思います。ちゃんと謝って、役にたてるようになりたい。

人と妖精が仲良くなれるように。」

長がにんまりと笑い、言った。

「そうか。好きにするがよかろう。」

 妖精達は去り、フロリーナたちも旅立つ時が来た。

「フレア、ごめんね、ウソついて…」

「なんのことかしら?」

「え?」

「あなたたちは村の危険を知らせてくださいました。そのおかげで、危機も

救えましたわ。」

珍しく姫がウィンクする。ついてはいけない嘘と優しく見逃すこと。違う事

を姫もわかっている。

「あの戦いの跡の有り様を見れば、村人たちもわかるでしょうな。」

ギャリソンや他の一行もほほ笑んでいた。

「それでもなんか言うやつがいたら、このマリア様がギャフンと言わせるか

ら!」

「あ、ありがとう。でも、ぼくらだけでがんばってみるんだな。」

「フレア、ずっとお友達でいてね。ピクシーはずっと味方だよ」

「もちろん。よろしくてよ」

 ふけゆく秋の空に、友としての再会を誓い合う一行であった。



・・・おしまい。(と、いきたいのだがオマケに続くのだ)

「ん待てえぇーい! で、お姉ちゃんは? なんだか全然食い足りん

ぞーっ」

ラッキーが騒ぎだす。今回はいいところなしの彼だ。

「うーん、そっかー。細いのにも謝んなきゃなあ」

キャンディがちょっと困った顔で木陰に消えた。

「あらラッキー、あなたにもずいぶん助けていただいたわ。感謝していまし

てよ。」

姫の言葉も届いているかどうか。なにぶん目に見えるご褒美でなければ喜ば

ない煩悩男である。

「そういえば、あなたよくあの沼まで来れましたわね。」

「ん? ああ、サキュバスちゃんを探して…なんか、姫のヒメイが聞こえた

気がしたんすヨ。なははは」

冗談で言ったつもりだが、姫には真摯な言葉に聞こえたようだ。

「それは…あなたの思いやりの心が神に届いたのですわ。ね、これからも

――」
少しだけ頬を赤らめ、つぶやく。うつむいた顔を上げると、そこにはラッ

キーが・・・

 いなかった。

 

「お待たせー、キャンディちゃん大人バージョンでーす」


木陰から出て来たのは、人と同じ等身になったキャンディであった。すらり

と伸びた手足は惜し気もなく曝され、薄手の服も悩ましい。黒くカールした

前髪の奥から猫のような瞳がきらめいた。

「うおおおおー、らっきー! そうだよコレだよ、やれば出来るじゃん。

いっただきまーっす!

姫を無視して大人に変身したキャンディに飛びかかるラッキー。だが、

ポンッ

1分でもとに戻り、彼女のいた空間をすり抜け――そのまま木陰に突っ込む。

ごろごろ転がる音の後。

「うぎゃぎゃぎゃー! またまた・・・・がけ・・・ぷ…(ヒューン)」

木々を突き抜けて三度めの落下をするラッキーであった。

「ぼ、ぼくたちが大きくなれるのは1分だけなんだな。」

「大丈夫かな?」

チョコボン、キャンディの心配をよそに、フロリーナは青筋だらけの顔で

「ほ、ほほほほ…ほおっておきましょう。皆さん、行きましてよ!」

触らぬ神に祟りなし。一行は何事もなかったかのように旅立っていった。

                          ・・・おしまい。

2007.2.8(金) up
 


                小説indexへ 「ばーさーかー・ぷりんせす!」INDEXへ 閑話休題編へ   

●top ●index ●novels ●gallery1 ●gallery2 ●notes ●otehrs ●link ●BBS