ショート・ヒロイニック・ファンタジー

 ばーさーかー

ぷりんせす!

第九話 <ピクシーの甘い罠 前編> 

絵・文 : J I N


 

1


 農村サンクス。魔族の来襲、山賊や荒くれどもによる強奪にも負けず、農民たちは

無事一年の収穫を得た。

「フレアさん、助かりました。ゴブリンどもが襲ってきた時はどうなるかと思いまし

たが」

初老の村長は金髪の少女に深々と頭を下げる。

「いいえ、当然のことをしたまでですわ。でも、こんなに報酬を…」

豪奢な金髪、済んだ碧眼、透き通る肌。身なりは質素なドレスだが、立ち振る舞いは

高貴な者のそれである。

「いいんです。もともと領主に献上する蓄えが残っておりましたからな。今は自警し

とりますが王様が戻られたら…」

突如発生した魔族に王族が捕らわれ、国家が機能を果たさなくなってからどれだけ経

ったのか。少女、亡国の王女フロリーナは身分を隠し、共の者たちと呪われた魔鎧と

魔族を退治する旅をしていた。村長の礼の言葉に胸を詰まらせ、強く拳を固める。王

族が消息不明となった現在も国民は父王を慕ってくれている。いつか平和が戻ること

を信じて。

「ええ、きっと国は復興しますわ。皆さんがこんなに頑張っていらっしゃるのですも

の!」

 農業を主な生業とするサンクスでは収穫祭が開かれていた。老若男女、皆食べ、呑

み、笑いあう。特設の舞台では様々な歌や芸が行われていた。

「サンクス村の皆さーん、こにゃにゃちわー!」

張りのある明るい声が響く。飛び入り参加した少女二人。明るいピンクの衣装に身を

包んだ魔法使いの少女、マリアとシスターのルーシーだ。

「一生懸命歌います〜」

軽快な音楽が魔女の帽子から流れ、それに合わせて歌い踊りだす。

  黒い牙つけたスゴイ奴が相手♪
  ゴーゴンみたい、ひょいと鎌首上げて
  スーパー魔族のお出ましに みんなのサインは敬遠だけど、
  逃げはイヤだわ〜♪

弾む歌声に皆の喝采が上がる。若者がダミ声でエールを送る。

  ♪ラッキーならここで逃げの一手だけど
  女にはそんなコトは出来やしない…

 そんな盛り上がる祭りを酒場で眺める老紳士。傍らの影が揺れる。

「ジジイ、てめえ…!」

影が実体化し、老人、ギャリソンの傍らに立つ。山猫の如き異相。しなやかな動き。

隠業を使う密偵のジャムである。

「魔道だか呪術だか知らねえが、いきなり地下からマルエッツに行くわ南海に出るわ

戻ったと思えば別大陸にいるわ、どう探しても現世にいないわ! いくら何でも神出

鬼没過ぎだ!」

激昂するジャムに暖簾に腕押し柳に風、相変わらず飄々と紅茶をすするギャリソン。

「珍しく怒り顔、ですな。」

「当たり前だ! あ、あんまり…し、心配かけるな。」

俯くジャムに老執事はにっこりと微笑んだ。

「お前がそうしていてくれるからこそ、姫も私も無茶が出来るのですからな、感謝し

ておりますぞ」

ジャムは再び闇に紛れた。

「ふん。深紅の竜より報告。別大陸のD公国、A共和国への流出者が我が国に戻る気

配あり。どうやら以前助けた宮廷絵師ニルヴァーナと家族が大きく関与しているらし

い。」

「ふむ」

「南海諸国連合に動きあり。中心のナンバ王国がお家騒動だとか。どう転ぶかな。そ

れから…国境近くの傭兵達が正規軍を立て直そうとしているらしい。もう少し探って

みる。」

「それと魔導師ギルドの状況も、頼みましたぞ」

「承知。」

闇は只の影になり、ギャリソンは残りの紅茶を口にした。外の即席コンサートもフィ

ナーレのようだ。

  きりきり舞いよ きりきり舞いよ
  魔法は魔法はハリケーン!

 二人の左手が回り、ポーズを決める。わっと歓声が上がった。

2

「大成功だネ、ルーシーちゃん。フッフッフ、これは特別賞かなにか出るかも?」

「でもぉ、ちょっと恥ずかしいです〜」

マリアとルーシーがはしゃぐ。拍手を送るフロリーナ。予想以上の報酬額に、

(これなら、新しいドレス、買えるかしら?)

自然と笑みがこぼれる。以前南海で悪の幻術使いと対峙した際、一張羅のドレスを

切り刻む羽目になったのだ。海賊の服や町娘の衣装を着てはいたが、そこは年頃の

レディである。

(流石に高価な宝石は付けられないけれど、王族たる気持ちは失わない身だしなみ

をしなくては、ね)

「では、こちらを…」

村長が報酬を取り出そうとする。ところが。

ジュラララァ!

「わ〜っ、魔物だあ!」

突然の咆哮、人々の悲鳴。地響きと共に現われたのは蠢く食虫…いや、人喰い植物、

マンイーターである。

「たいへんだ! 姫さまは?」

舞台のマリアとルーシーに向かい

突進する魔の花。

「ね、上に乗っているのはぁ…」

「ああー! ラッキーだあ!」

ここ数日カバンの管理もせず姿を眩ませていたカバン持ちがそこにはいた。蔓がか

らまり、だらしなくニヤケ顔で眠っている。

「どうやらあの魔物、花の芳香に催眠効果があるようですな。おおかた美女の誘惑

でも夢見ておるのでしょう」

ギャリソンが駆けつける。祭りの会場は大混乱だ。

「あ、あの色ボケの下郎・・・!」

フロリーナが怒髪天をつく。しかし肝心の彼女は村長と一緒、しかも昼日中・大観

衆の面前。狂戦姫…魔鎧を着けた戦闘状態になるには、どうしても人目を避けねば

ならない。

 果たして彼女は危機を防げるのか?




 暴れまくるマンイーター。よく見れば魔物の回りを飛び交う二つの影が。

ピクシー…小妖精である。

「キャハハハ! オモシローイ」

まるでお菓子の包みで出来たような服を着た少女。くりくりと大きな瞳が動く。

「んー、キャンディ、いたずらはダメなんだな」

寝ぼけまなこのもう1人(1匹?)はまるでチョコをコーティングしたような褐色の

かたまりだ。

「いーじゃん、お祭りなんだしー。チョコボンってつまんなーい」

とにかく喧しい。二人の口喧嘩にさすがのラッキーも夢から覚めた。

「あれ? ここどこ? ドリアード(樹木の精)のお姉ちゃんは?」

そうして自分がつかまっているモノが、マンイーターだと気づく。美女を捕まえた

つもりが自身が非常食として捕まえられていたのだ。

「うぎゃーー! なんじゃコリャ? たたた助けて姫ぇ〜〜。」

情けなく叫ぶラッキー。走る植物から降りられない。うまく着地できても、花弁か

ら生えた鋭い牙の餌食だ。

「せめて美人の魔物に食われたいよーう。あんらっき〜ぃ」

ドンドンドン! ラッキーは夢中で手を花に叩きつける。

ぼふぁ! 大量の花粉が甘い芳香と共に飛び散った。彼を催眠にかけたものの正

体である。

「あ、ふあああ…」

「なんだか眠く・・なって・・」

村民がばたばたと倒れていく。とっさの判断で口と鼻をガードしたフロリーナ。そ

のまま宿屋へと戻る。部屋ではすでにギャリソンがカバンを開き待機していた。

「ぎひひひ、姫さん、いらっしゃーい」

斧や武器以外は何も見えない箱から、ドラ猫のような声がした。

「姫さま、まだかな? ルーシーの聖水もあまり効かないよう」

マリアとルーシーも三角帽子から飛び出した魔法機…空飛ぶほうきで脱出している。

「ふにゃー、キャンディ眠くなった〜」

「はやく、マンイーターを大人しくさせないと・・・ダメなんだなああぁ・・」

騒動の原因らしい小妖精はそのまま眠りについてしまった。マンイーターが倒れた

人々を襲おうとした、その時。

 ガシイ!

つたの様な脚を鈍く光る鎧がつかむ。魔物の動きが止まった。

「まったく。なんて人騒がせなんでしょう! うううりゃあああああーーー!」

バーサーカープリンセス…魔鎧を装着した姫はつたを振り回し投げ飛ばした。

「村から出ていきなさい。さもないと火をつけますわよ!」

鎧の胸の部分、悪鬼の口が開き、威嚇する。多少は知性があるのか、魔植物は一

目散に逃げ出した。だらしなく寝ているラッキーと妖精を置き去りに。

4

「フレアさ〜ん、どこにいるんですかー? お代を、お支払いしなければあ」

目が醒め、生真面目なサンクスの村長は姫一行を探す。教会の屋根の向こうか

ら、狂戦姫の声だけが響いた。

「良いのです。そのお金はいま魔物に襲われた人達や壊れた建物にお使いなさい。

では御機嫌よう。ほーっほほほ」

少し寂しげな高笑いとともに、彼女の従者もまた消えていた。

「行ってしまわれたのか。報酬もとらず、私たちのため… なんと慈悲深いかたな

のだろう。」

「村長、どこにもお嬢さんたちは見えませんね。」

「たまたま牢屋の窓から、化け物花と戦う恐ろしい鎧姿を見たという囚人はいま

したが…」

「裸で舞うように戦っていた、という子供もいました。」

村長は手を組み、膝をつく。

「主よ。あのお嬢さんはあなた様が遣わした天使だったのですね。ありがとうご

ざいます。」

そこにいる皆がはっとし、膝をつき、天に祈った。

 

 サンクスを出た街道。

「いやー参りました。森の奥から女の子の声がするんですよ。樹木の精霊ドリア

ードちゃんがどうしてもお友達になりたい、って。で、森に入ったら眠くなっ

て…」

すでにボコボコな顔のラッキーが弁解する。

ズギャ!

「おご…ぽ、ご…」

村では天使と呼ばれた少女のきれいなローリングソバットが腹に炸裂。

「お黙りなさい! 嘘ならもう少しましなものになさい。ああ、恥ずかしいです

わ。こんな嘘つきが従者なんて」

ラッキー、すでに悶絶状態である。常日頃の行いから信用度ゼロ%な彼である。

「おまけに…ま、またちょっと見られてしまいましたわ! ぐずぐず」

姫は…、古めかしい農民のドレスを着ている。先の魔植物・マンイーターとの戦

闘で脱ぎ捨てたドレスを回収できないまま、村を飛び出すことになったのだ。

しかも旅費さえもない。去り際に農家から服を拝借し、御丁寧に残る種銭を置い

て来て。

「困りましたな。マリアとルーシーが演芸で頂いた菓子とパン、あとは…」

ギャリソンが算盤を弾く。どうやっても赤字のようだ。新しいドレスどころか、

食べ物さえ困る有り様である。

「しかたないよ。次の村サクルッケでがんばろー!」

マリアが皆を励ます。

「もう少しですぅ。あ、妖精さんたちがぁ…」

ルーシーが治癒魔法をかけていた小妖精がいつの間にかいなくなっている。

…すると、

「ああーっ! オイラの食いかけのパンが!」

ラッキーが担ぐ魔鎧の巨大鞄、その上で勝手にガツガツもりもりパンを食べ、

砂糖をなめる二人、キャンディとチョコボンがいた。


「ピクシー…精霊、妖精は自然現象に魔法の根源であるマナが合わさることにより発

生することが多いと聞きます。魔導師が精霊界から呼び出したもの、先史時代の住人

の霊、洗礼前に死んだ子の魂など、種類も様々ですし諸説も多うございますな。一般

に悪戯好きなフェアリー、というところでしょうか。」

ギャリソンの説明に耳を傾ける一行。

「少なくとも我らのこの世界において贅沢品であるお菓子から生まれたとは、奇異な

るものと言えましょう。」

「ねねね、魔法も使えるの?」

マリアが質問する。

「もっちろーん! でもね、お砂糖をもらわないとダメなの」

「みんなの、甘いものが食べたい、食べて幸せになりたいって気持ちがあれば、お菓

子を作り出すことも、できるんだな」

小妖精が答える。目を輝かせ、砂糖を探すマリアとルーシー。

 


 多すぎる魔力は代価を求められる…それがこの世界のルールである。

魔族と人間の戦争が終結して100余年。天界の仲裁により、大規模な力のある魔族

は人界に関与できなくなっていた。強行突破しようとする高級位魔族は奈落へ引き戻

され、あるいは天界の灼熱の光に永遠に炙られるという。それでもバランスが崩れた

時、天魔人、三界に渡る最終戦争が起こるとも云われている。

 しかし、いつの時代にも抜け道を探すものはいる。

知力や適応力の弱い魔物は人界に居残りを許され、徒党を組み搾取することを覚えた。

魔界に属さぬエルフやドワーフ等は人との関わりを独自に拒絶した。そして魔力を覚

えた人間は増長し、拡大化しつつある。「黒い牙」のように。

 小妖精の魔法はその身体の小ささゆえに、お目こぼしを得られたのかもしれない…。

 

「さあ、お二人にも帰る場所があるはず。送ってさしあげましょう。」

姫の提案にしぶしぶうなずくマリア、ルーシー。

「うーん、ケーキやタルト、出してもらおうと思ったのに」

「残念です〜」

しかし当のピクシーたちは、

「実は…私達、迷子なの。キャンディおうちに帰りたーい。でも帰れなーい」

まだ砂糖をなめている。

「姫。失礼ながらここは先を急ぐべきです。」

ギャリソンの忠告を遮るように、

「たいへんなの、キャンディのおうち、森の向こうの村の近くだけど、悪い妖精や、

あ、さっきのお化け花にも狙われているの! おうちを襲ったら、次は村の人も襲わ

れるかも」

「どひゃー、じゃあ、サクルッケの村まで街道を使わずに魔物のいる森を突っ切れっ

ての?」

マリアが叫び、フロリーナの顔色が変わる。

「じい、これでもこの子達を放っておけと? たとえ1人でもわたくし、参りますわ」

一度正義の火がつけば、止まらぬ火の玉である。

「…いえ、お供いたします。」

 一行は街道を離れ、森の奥へと進む。先はますます鬱蒼としていた。
 

 黙々と進むギャリソン。さらにもう一人。

「んにゃろ、あのチビ妖精ども、絶対ウラがあるぞ。」

最後尾のラッキーの視線を感じてか、キャンディがふわふわと飛んでくる。

「あ、あんなところに美人の妖精(ニンフ)がいるわ」

キャンディの指さす方向に等身大のグラマラスな女性の影が。

「どこかにいい男いないかしら、だって」

ギュン!

言うが早くラッキーは飛び出していた。

「お嬢さ〜〜〜ん、おまた〜〜」

なまめかしいシルエットに向かいダイビングするが、

ずぼ。

なんとニンフの体は綿飴のように霧散してしまった。そしてその先は。

「うぎゃあああー、崖っぷちいいいいぃぃ・・・…」

落ちてしまった。

「きゃははは! ゆかいゆかーい」

腹を抱えて笑うキャンディ。チョコボンはおろおろと見守るだけだ。

「姫さまぁ〜、ラッキーがいません〜」

ルーシーが指さす方向には、魔鎧用の巨大なカバンだけが置き去りにされていた。


                              ・・・続く。



 
後書きの前払い

マリア :「どーもー、マリアですー! コスプレ、楽しかった♪」
ルーシー:「ルーシーですぅ。ダンスはたいへんでした〜」
マ:「ここまでで前編はおしまい。人騒がせな小妖精や植物や、いろいろ出たねっ」
「ラッキーはぁ、どこに行ってぇ、いつ戻って来たんでしょう〜?」
マ:「作者が言うには餓鬼にナンパして宇宙でもお払い箱になった、とか。ワカラ
  ンチンのトンチンカンチン」
ル:「ミステリーです〜」
マ:「うふふふ、次は「UF●」と〜、「恋○バカンス」と〜、「好きよキャ▽テン」…」
ル:「マリアちゃん?」
マ:「そうだ、「待つわ」もいいかも…」
ル:「一体どこからぁ、お洋服と情報を〜?」
マ:「それは企業秘密です! ねね、ルーシ〜ちゃん、女子プロの水着ってのもあ
  るんだけど?」
ル:「…姫さまがお洋服、高くて買えないんですからぁ。あまり見せちゃダメです
  よぉ」
マ:「! わ〜っ、そうだった! ごめんなさ〜い姫さまあ!」


…という訳で歌と踊り、花、お菓子、ドレスそしてピクシーと、いつもとはチョッ
ト違うネタで始まりました今回。今のところこのまま続けようと思います(^^

今回のtopのミュシャ風フロリーナ、フレームはrioさんのHP「さがみえんため倶楽
部」のキリ番プレゼントで頂きました。ありがとうございました♪

2006.12.15(金) up  07.1.18 修正、追加
 


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