ショート・ヒロイニック・ファンタジー

 ばーさーかーぷりんせす!

第八話 <時空の巫女 完結編>

絵・文 : J I N


 

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 ヘルたち三人は再び退き、魔物の群れがそこを埋め尽くす。

「キシャアァ!」「あ"あ"あ"〜」

巨大蜘蛛の吐く糸をすり抜け、ゾンビの魔の手をはねのけ、一直線に突き進

む狂戦姫。

「りゃあああああ!」

ズバッ! バシャア! どす黒い血飛沫の中、巨斧が舞う。

「トマホーク、ブゥメランっ!」

ブオオーン…大きく振りかぶり投げられた斧は弧を描き飛び、敵をなぎ倒

して近くの大地に突き刺さった。数十匹の魔物は片付けたはずだ。だがその

数倍はまだいようか。

「ぎひひ、先客万来だな、姫さん」

魔鎧が軽口を叩く。

「いいから! 焼き払ってセバスチャン!」

ぐおおぅ! 鎧の中心の顔が大口を開く。浴びた毒や血飛沫、瘴気を還元

して炎を生み出し、撒き散らす。ネクロマンサーとその弟子までの道が再

び出来上がった。

「行きますわよ!」

斧を構えなおし、駆け出した矢先。双子が外見では想像できない速さで向

かってきた。

「でんげき、なの」「なの!」

ピシャン!

「きゃあああ!」

流石の鎧も金属で出来ているのは確からしい。緩和されたとはいえ、双子

の電撃はダメージが強い。

「姫さま! その子たちは任せて!」

マリアが駆けつける。

「やー! サンダー!」

バン! 再び相殺される雷。手数とタイミングでは双子が上だ。そのま

ま別の方向へ誘導し、力の分散を図るマリア。

(もう少し、もう少し早く立ち回らないと…)

お互い飛び道具のようなものだ。魔法機で対抗するのは難しい。

「な〜の〜なの〜」

双子は両手を突き出し、

バシャアアンっ! 4つの落雷を起こす!

「うわわわーー!」


 
遠くに電撃の音を聞き、焦りながらも前進する姫。覆いかぶさるゴ

ーストを払っても、すぐに魔獣も魔物も代わりが襲い掛かる。ついに足

が蜘蛛の糸に絡めとられた。

「くう!」

ヘルの笑い声が魔物の壁の向こうから聞こえる。

「ひょほほほ、闘うも何も、まあだ姿が見えんぞ、嬢ちゃん」

蜘蛛の鋭い爪先が、四方八方から降りかかった!

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「あーだーだーだ。ひーん、チビレルよ〜う」

4つの電撃にシールドも間に合わず、足を負傷したマリア。いよいよ動

く事もままならない。

「これで終わりなの」

エボニーが無表情に言う。

「私たちとマスターの、チームワークの勝利なの」

アイボリーが続ける。双子はまた手を繋ぎ、雷の威力を蓄える。マリア

は…

「ちょーおーっと待ったあ!」

歩み寄る双子をきっと睨む。

「そりゃ私はミソッカスだよ。でも私だけじゃなくチームってんなら黙

っちゃいないんだから!」

足を無理矢理引きずり立ち上がる。

「姫さまを、みんなを思う気持ちは何より強いんだ! それに、仲間は

…まだいるもんっ!」

気押される二人だが、そのまま大出力の電撃を発射した!

バリバリバリィ! ドオオオォンンン・・・

大地に穴が空くほどの衝撃。そこに魔法少女の姿はない。

「どこなの?」「なの?」

闇に金色に光る眼がある。低い唸り声。

「ぐるるるるぅ…」

山猫にも、豹にも似た体躯。2mは優に超えている。夜の闇を切り取っ

たかのような漆黒の毛並み。背にはマリアを乗せていた。

「あ…あんた」

「んぎゃあ」

ザラザラの舌で少女の顔をなで回す。

「ナベシマぁ! あんたも大きくなったんだ!」

正確には成長したのではない。召喚魔法の増大に伴い、使い魔の魔力も

目に見えて上がったのだ。

「よぉし、行くよ! 二人なら怖いもんなしだーっ!」



 一方、フロリーナは。

グサグサグサっっ!

鋭い何かが突き刺さる音。体を強張らせる姫だが、体に異常はない。

「きちちち…」「きゅう」

なんと槍に大蜘蛛が団子のように貫かれている。弱々しく痙攣する魔獣。

「! 誰か、いるの?」

槍の打ち出された方向を振り向く。少しの気配も音も無く、その男は立

っていた。

長身、整えられた黒髪、紋章や飾りを外した紺色の軍服。手には長槍。

何より洗練された身のこなし。

「ひいっ、と、殿方…」

少女は真っ赤になり体を縮こませた。彼女の装着する魔鎧は善人には見

ることが出来ない。つまり、彼女は丸裸に映ってしまうのだ。

「お待ち下さい。白鷹の王国の王女とお見受け致しました。故あって諸

国を流浪する者でございます。王女のこと、魔鎧のこと…初代女王の活

躍を知る者から聞いておりました。」

太く落ち着いた声。だが、顔は見えない。

「尊敬しておりました。お会いする前から、私めは貴方様の僕にござい

ます。お手伝いをさせて頂ければ、これに勝る幸せはございません」

落ち着いた姫がつぶやく。

「流浪の…騎士さま…」

「貴方様のお姿は決して見ません。振り向くとあらば、この目を刺し貫

いて下さいまし」

狂戦姫は確信する。謎の騎士が味方であることを。

「この下賎の輩の掃討を、何卒申しつけ下さい」

「判りました。そなたに命じます。わたくしが敵の頭首を討つまで、魔

物を退けてくださいまし」

騎士はその言葉を噛み締め、応えた。

「−御意。」


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「おおお!」

静から動。姫の命を受けた流浪の騎士は

咆哮し、長槍を大きく振り回した。空気

が震える。

ズダダダダ! 目にも止まらぬ速さで

突き出される。大蜘蛛達は蜂の巣になる。

制空権に入るゴーストさえ切り刻み、遅

れて襲い来るゾンビを貫く。阿鼻叫喚と

黒い血飛沫が舞う中、

ブサグサグサッッ

先端にゾンビを指し抜いたまま、後から

くる魔物も突き通す!

「おおぅ!」

そのまま横に薙ぎ払う。破壊されるゾンビ達。凶悪な風車は切り刻みな

がら円を大きくしていく。凄惨な場を見ても眉ひとつ動かさず、黙々と

任務を遂行する騎士。さながら鬼神の如しである。

「すごい…」

熱いまなざしで見守るフロリーナ。しかも跳躍し槍を振るう姿は背中し

か見えない。約束どおり彼女のいる方向だけを見ないように計算しなが

ら格闘しているのだ。

「ぎひゃひゃひゃ、100年前を知ってるやつなんか、残ってたのかね

え? ま、いいか。姫さん、ボケっとしていていいのかよ?」

魔鎧の声に我に帰る姫。

「え? ええ、もちろん、急がなくては!」

ちらと振り返ると端正な横顔が見える。思わず目をそらし、気を取り直

して前進する姫であった。


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 ジャングルの外れ、草木もない荒涼とした大地。神殿からも、マリア

や謎の騎士からも離れた場所にフロリーナと魔鎧が立つ。いよいよ大詰

めである。

「魔鎧か。どのような呪いがかかっておるかわからんが、それを使うと

は…。嬢ちゃん、覚悟は出来ておるのぢゃな?」

灰色のネクロマンサーが問う。少し大柄ではあるが痩せぎすの老人だ。

魔物も護衛の双子もいない今、危険はないようにも見える。だが凶悪な

オーラはまとったままである。

「あなたの手先はずいぶん片付いたようですわ。観念して悔い改めなさ

い!」

「まーだ甘いことを言っておるのか。見るのぢゃー!」

灰色のマントをはだけるヘル。

「きゃあ!」

素裸に呪術の装飾、腰蓑にちょこんと立つ小さい象牙。

「ち、違うわい! 着替えるのを忘れておったわ。」

マントの内側にある闇のような黒張り。そこからゴーストがわらわらと

飛び出す。空を舞う仲間とともに寄り合い、つながり、巨大な悪鬼の影

を形作る。頭部に乗り込むように融合するネクロマンサー。

「ひょーほほほほ。これぞ奥義、邪鎧(じゃがい)・地獄大元帥ぢゃ〜!」

20m近くはあろうか。半実体化した死霊の集合体は鎌のような手を振

り下ろした!

ガシイィ!

 渾身の力で受け止める姫。

「ぐっ、ああ!」

途端、その腕は崩れ、どろどろの闇の固まりになり、姫に絡みつく。大

斧で振り払うがまたもとのゴーストに姿を変え、狂戦姫の周りにまとわ

りついては巨人の指に姿を変える。魔鎧が炎を吐くが結果は同じだ。斬

っても焼いても再生する死霊の巨人。

「ひょほほ、どうぢゃ!」

捕まえられ、そのまま大地に叩きつけられる。2度!3度! さすがの鎧

も内外にダメージが出始めた。

(くっ、このままでは…)

シュバァ!

銀の刃に似た翼を広げ、呪縛から逃れ、そのまま滑空し降り立つ姫。

「ぎへえ、いけねえや。あの爺さんにゃ百年たっても勝てねえぜ。オレ

様のことを100%使えない限りは、な。」

「・・・・・」

それは今のフロリーナにとっては魔鎧との同化を意味する。狂戦士状態、

いや魔族となれば…。以前のパノレコ闘技場での苦い記憶が蘇る。それ

は避けねばならない。一旦退くしか、ないのか?

「いいえ、全うしてみせます、わたくしの使命を!」

跳躍し、なんとヘルの眼前に飛び込む姫。

「ひょほ…観念したかの?」

「まだまだ、ですわ!」

セバスが口を開く。炎を警戒し、巨人の指が鎧を抑えにかかった…が。

ギュゴゴゴゴォッ

死霊どもを飲み込み始めた!



「な、なんぢゃと!」

普段なら全身で魔物の瘴気や血を吸収し、炎のエネルギーに変える魔鎧

だが、今回は逆だ。魔物そのものを吸い、全身から熱を発散させている。

(ぐがごげ。姫さん、無茶するぜ。逆立ちで全力疾走してるようだ。こ

いつら全部吸いきる前に炎の熱でこっちがまいるか、お前に負のパワー

が逆流するかもしれねえんだぜ!)

「かまいません、セバスチャン、あなたを信じていますわ」

ギュゴゴゴ…ブォオン!

ついに姫の全身が発火し、炎をヘルや辺りに飛び散らす。巻き添えにな

るゴースト、ゾンビの残党。

「ふん、我慢比べか。じゃが死霊はまだいるぞ!」

巨人の形が崩れる。手足は蛇のようにフロリーナを取り囲み攻撃する。

「きゃあああぁ・・・」

息詰まる攻防が続く。それはまるで互いを食らいあう光と闇の獣のよう

に見えた。

「く、何故ぢゃ? ここまで歯向かう必要があるのか、嬢ちゃん。仲間

がいるからか? んなもん見捨てて逃げればいいぢゃろ」

「ぐう・・それも、ありますわ・・でも、わたくしは、心に誓ったので

す。助けを呼ぶ声がある限り、どんな困難が待ち受けていようとも…わ

たくしは参ります、と!」

「誰が助けを? 人質なんぞ取りゃせんぞ」

兜の中から狂戦姫は老魔導師を見据える。

あなたですわ、おじいちゃん! あなたの目がどうしても助けを

叫んでいるようにしか、見えないのです!」

グォオオオオ!

炎が燃え盛る。光がますます強くなり、翼を広げる魔鎧は…まるで天使

のように映る。

「こ、この小娘が!」

闇もまた膨らむ。その時。

「姫さまーーーっ!」

黒い獣に乗ったマリアが到着する。服は破れ、左足に傷は見えるが本人

は元気のようだ。獣…ナベシマは口に双子の襟首をくわえている。人造

人間に魔法少女は勝ったのだ。

「むむ! エボニー! アイボリー! それに…お前、か、かをる!?」

ヘルの瞳に、魔法使いの帽子を被った女性が、別の魔法使いに重なり見

える。黒髪にタロットカードを持つ、物静かな女性。

「へ? かをる? 誰のこと?」マリアが首をかしげる。

そこに騎士が現われる。こちらもほぼ無傷だ。

「ネクロマンサーが集中力を欠いておりますな。マリア、電撃を、放つ

のです!」

騎士の指示にとにかく従うマリア。雷の狙う先は…

ビュオオ!

騎士の手から放たれた長槍は真っ直ぐマスター・ヘルへと向かう。電撃

がそれに追随する。

ズバァッ! ヘルの胸に命中する雷の槍。ゴースト達がばらばらに解

け、姫への攻撃も止んだ。

「ぎへへ、行くぜー姫さん!」

「りゃあああああーーーーーーっ!!」

カァ! 光の固まりが魔鎧の口から吐き出される。

「く、ぬかったわ!」

グォオオオオオオ…オオン…。

 凄まじい爆発と共に邪鎧もろとも灰色のネクロマンサーは、吹き飛ん

でいった。

「お・・・じい・・ちゃ・」

全てのパワーを出し切り、フロリーナは失神した。ヘルの本体があった

巨人の目の高さから、そのまま落下していく。遠くにマリアと流浪の騎

士の声を聞きながら。


19

 光と闇が炸裂する。吹き飛ばされるネクロマンサー、ゆっくりと降下

する狂戦姫。遠くに聞こえる友の声。

そして…

「う…ん」

ルーシーが顔を覗き込む。

「あ〜、姫さまぁ、気がつきました〜!」

神殿の奥、薄暗い部屋ベッドに姫はいた。痣、火傷、擦り傷、ところど

ころは残るものの、体が動かせない程ではない。治癒魔法が施されてい

た。

「あ…また助けられました。ありがとうルーシー。」

シスターは微笑む。そしてその後から、マリアが飛び出す。

「よかったー!」

姿は…少女に戻っている。激しい戦闘と急激な体長の変化に服はぼろぼ

ろ。帽子には仔猫となったナベシマが乗っている。

「マリア! あなたも闘ってくれたのですね。本当にありがとう。怖か

ったでしょう?」

「なーに、あんなのちゃらちゃらヘッチャラ♪ お茶の子さいさー…い

…だあよぅ」

最後は声も体も震えていた。無理をしていたのだろう。姫は静かに頭を

撫でた。

「は! お爺ちゃん…マスター・ヘルは?」

「彼なら、そちらに・・・」

覚醒した巫女、サーシャが現われる。奥の間に、人影が。

「無事なのですね? お爺ちゃん!」

目を凝らすフロリーナは息を止める。そこには…

 

 そこには、横たわるヘルの上半身と手当をする双子がいた。胸には謎

の騎士とマリアがつけた槍の傷、ちぎれた胸から下の身体が血の固まり

とともにズルズル動き、修復しようとしている。

「-嬢ちゃんか。」

「あ、あなたは…」

「わしもアンデッドぢゃ。悪いか?」

無論復活した死者ではない。優れた魔法使いの中には長命な者、生死の

境を越えてしまう者もいるのだ。ほんの一握りではあるが。二人の間に

エボニーとアイボリーが割って入る。

「お願い、私はいいからエボニーとマスターは助けてほしいの、なの」

「お願い、アイボリーとマスターは助けてほしいの、なの」

『お願い、私達はいいから、マスターは助けてほしいの、なの〜!』

双子がそろって叫ぶ。

マリアがやって来る。

「ナベシマのお陰でなんとか勝ったけど、この子たち、ずっとこの調子

でね。倒せなくなっちゃったよ」

老人はマリアを見上げる。その帽子を。

「そうか…お前、プロメテウスの弟子だったのか。それでかをるの帽子

を…」

ビックリしたのはマリアだ。

「ええっ! お師匠のこと知ってるの!? それに、かをるって?」

対話の間にもヘルの体は回復していく。体は繋ぎ合わされ、ヘルはふら

ふらと上体を起こした。少しずつ話し出す。

「かをるはな、わしの妻じゃった。」

「不思議な響きのお名前ですわね」

「東方の出身でな、予言や過去見を得意としておった。若いころはプロ

メテウスと三人で魔導師ギルドで暴れたもんぢゃ」

フロリーナの言葉に、思い出すように遠くを見る。


「かをるは奇病にかかり、治すまでもなく亡くなった。魔法も医者も国

もなんの役にも立たんかった。

わしは妻の体が正常なうちに蘇生魔法を使おうとしたが、ギルドの連中

に止められてな、間に合わなんだ…」

「正常なうち、と言いますと?」

ギャリソンが問う。

「結晶病。かかった者はどんどん硬質化し、結晶のようになる。それど

ころか結晶はどんどん周囲に延び、最後には黒い棺のような固まりが出

来上がるのぢゃ。感染を恐れた国、体面を保とうとする医者、禁異を許

さぬ魔導師ギルド。きゃつらのせいで…」

怒りに震える老人。誰も言葉を発せない。

「わしとプロメテウスはギルドと決別し、都を離れた。わしはやくざな

組織に雇われたが、あいつは姿を消し…まさかあいつの弟子にこんなと

ころで会うとはな。

その帽子はかをるの形見分けしたものぢゃ。大事にしてやってくれよ。」

マリアが叫ぶ。

「あ、あの! お爺ちゃん、師匠は、プロメテウス様は、無事なの? 

今どこにいるの?」

「あいつは簡単に死ぬタマぢゃありゃせんわ。ただ、お前がこれだけ危

険な旅をしているということは…あやつはもっと危険なめにあっている

ということぢゃ。」

ぶわ、っと涙を流すマリア。唐突に出た恩師の情報に緊張の糸が切れた

ようだ。ルーシーが手を握る。

「お師匠、無事なんだ。うん、そうだよね! 大賢者が死ぬワケないも

んね! でも、危険なめって…」

ブシャアアア!

黒煙が噴出す。その中に復活したヘルと双子が立つ。

「さあ、お喋りは終わりぢゃ。どうするかの? 嬢ちゃん、第二ラウン

ドは…?」

 ふわり。白いシーツが舞う。

「な、なんぢゃ!?」

フロリーナはヘルに抱きついてきた。まとうシーツが血で汚れるのも気

にしない。

「お可哀想に…愛するかたと死に別れ、ご自身の身は不死…それは永遠

に悲しみ苦しむこと。

ごめんなさい。わたくしの祖先の過ちを、わたくしは何も知りませんで

した。」

涙をため詫びる亡国の王女。

「生きる者を信じられなくなっても当然のこと。いくら謝っても、到底

償えるものではありませんわ…」

肩を震わせる少女にイライラ顔の老人。マントの袖を引く双子も、首を

横に振って抗議する。

「えーい! わかっとるわい!」

どん、とフロリーナを突き放す。

「嬢ちゃん、わしの負けぢゃ。ゾンビ作りもせん、スケルトンもゴース

トも人を襲わせん。『黒い牙』も…」

腕の刺青に掌をかざす。じゅっという音と共に牙の紋章は消えた。

「お爺ちゃん…!」

頬に赤みが差し、笑顔を浮かべる姫。

「そんな甘ちゃんでは黒い牙のトップ…ゴーゴン達には勝てんぞ。死ぬ

覚悟で戦に臨む前に、100倍は鍛え上げるんぢゃ!」

ぷいと横を向くヘル。

「ええ、ええ。わかりましたわ」

黒煙が闇をつくり、ヘルと双子を包む。マリアを見て、

「そっちの、ちっちゃいの。国に戻ったら、魔導師ギルドを探るがいい。

案外手掛かりがあるかもしれんぞ。」

帽子を握り締め、マリアが応える。

「う、うん! ありがとうお爺ちゃん!」

「元気なのは嫌いぢゃが、元気な奴がしょんぼりするのはもっと嫌い

ぢゃ! …昔の妻を思い出させてくれたの。ありがとよ。」

マリアはべそをかくのをやめる。

「てへ、ガッテンガッテンしょーち!」

三人は消えていった。見守る姫、ギャリソン、マリア、ルーシーとサー

シャ。寝室の奥では籠に入った赤ん坊が騒いでいた。

「ぱいぱい、ぱいぱい〜〜〜」

 
20

 激闘の一夜は明けて。

神殿の外の祭壇には、元の国へ戻ろうと準備をする一行の姿があった。

「この度は本当にお世話になりました。戦いの姫。」

詫びと礼を述べる時空の巫女。

「時空のひずみの守護は我らシャーマン一族の使命。これからも誇り

をもって守っていきます。私は一人だけど、一人じゃない。」

胸を押さえ、「ここにはナージャもいます。この地の民とも仲良くや

っていきますわ」

見れば森の木陰でこちらをおずおずと見ている褐色の少年がいる。ぺ

ぺだ。

「お姉ちゃんたち、僕を、マルイの里のみんなを助けてくれたんだよ

ね。あ、ありがとう! お友だちに、なってくれるの?」

サーシャは頷き、少年を手招く。

「わたくしたちも、友と呼んで下さいな。困った時はいつでも駆けつ

けましてよ。」

姫の言葉に、明るい赤紫色の瞳を輝かせ、サーシャはほほ笑んだ。



 忘れ去られていたラッキーもなんとか元の年齢に戻れた。

「マリア、お前なんでガキンチョに戻っちゃったの? 魔法も強くな

ったっつーし、ボヨヨ〜ンだし、言うことないじゃん」

「(…ラッキーは戻んないほうがよかったかな。)近道してもダメだ

よ。きちんと魔法学を覚えなきゃ、意味ないもん。お師匠を助けられ

るくらい、いろいろ勉強しなきゃ! がんばるぞ〜・・・」

やる気満々のマリアだが、腕を突き上げた瞬間。

ビリリリッ!

とうとう服が破け、カボチャぱんつまで弛んで落ちてしまった。

「ふにゃ〜〜〜〜〜! 恥ずかしー!」

早速ルーシーに泣きつく。

「ルーシーちゃーん、お願い。お裁縫してチョンマゲ」

苦笑するルーシー。帽子と靴だけの姿に、本当にこれが大人マリアだ

ったらなーと悔しがるラッキーであった。

 

<終章>

 暗い闇の中を歩く三つの影。

「マスター、お顔がへんなの」

エボニ−が言う。

「うるさい! 少し笑っただけぢゃ。昔のことを、思い出してな

…世話ばっかり焼く東方の女占術師。王家に仕える身なれど、大陸を

離れた天才魔導師。全てを恨んで何にでも噛み付いていた獣のような

死霊使い…それでも三人いれば楽しかったの。」

遠くを見るマスター=ヘル。

「早くおうちにかえろうなの」

アイボリーが手を引く。

「ふん…蛇女の追手が来るかもしれん。しばらくは薬屋の行商ぢゃな。

今より危険だし、薬屋も儲からんし、良いことなしぢゃ」

「三人一緒なら、楽しいなの」「なの」

「三人か。お前らでは心許ないのお…」

ヘルはちょっとだけ想像する。禁じられた術を使い、双児を増やせば…

「ぶるるっ、やめぢゃやめぢゃ、せわしない。しょうがない、この三人

で行くか。…何ぢゃ、お前達も笑っているのか?」

「はいなの」「なのなの」

ちぐはぐな三つの影は闇の中に消えていった。

 

「それにしても、あのおかた…流浪の騎士様は、どこに消えたのでし

ょう? この地を離れる前に、御礼を申し上げたかったのに」

ドレスに着替えた姫は夢見がちに言う。

「ねえ、じい。わたくし、あの殿方とは前にお会いしているような…

不思議な縁を感じるの。今もどこかで見守っていて下さる気がするの

よ。」

ギャリソンはサーシャに目配せをしつつ、帰り支度をする。

(おいたわしや、姫。あの騎士は、真夏の夜の夢。もう現れないので

ございます。それにつけても恋心の未熟さはなんとしましょう。)

魔導師ギルドへ行ったなら、恋愛成就のお守りを買って差し上げよう、

とは痛切に感じる元・騎士であった。

「不思議な縁、ですか…。そうですな。わたくしめのことも、見守っ

てくれているのでしょうな…フロリーナ様…」

天を仰ぐギャリソン。 

 爽やかな青空と太陽の下、フロリーナ一行は新たな希望に向かい進

んでいった。


・・・おしまい。 


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